【???side】外出中の父、縁を切る
久しぶりに見た妻と娘はやや…いや、かなり斜め上の思考をしていた。
「やっと迎えに来てくださったのですね!準備は出来ていますから、いつでもアルテナへと向かえますわ!」
「それよりもお父様!第三王子との婚約の件はどうなったのですか!?」
到着して早々捲し立てる二人に親子だなと感心するが、同時に残念だとも思った。私が城に逃げる前はここまで品のない人間ではなかった筈なのだが。
監視として就けていた執事長を見やれば、溜息を一つ零して首を横に振る。
「玄関先で話す事ではない。応接室の準備は?」
「出来ております。」
話にならないのでさっさと部屋への案内を頼む。この屋敷に来るのも久しぶりだが、前はこんなに趣味の悪い絵画や骨董品など置いていなかった筈。十中八九この二人が散財していたのだろう。
手元にある書類を一撫でする。サラがメドニエに出発してから数日後、自身の問題を片付ける為にカイル殿にアルテナを任せ王城へ赴いた。
あちらもだいぶ印象が変わっていた。フィオナ様が居なくなって調子に乗っている側妃が指示しているのだろう。
謁見の間で見た陛下は少し窶れていた。今回私が登城した件、妻との離縁と第三王子との婚約の辞退を報告すると更にゲッソリしたが。
その際に提案された長女との婚約もお断りした。今この姿を見てそれが正解だと心底思う。
「さて早速だが本題に入らせてもらう。陛下より君との離縁が許可された。同時にリーナの親権を君が、サラの親権を私が得ることも認めいただいた。だから君達には此処を出ていってもらいたい。」
期待に身を乗り出していた二人は何を言われたのか分かっていないらしい。もう一度ゆっくり説明してやれば、途端に顔を真っ赤にして怒り出した。
「何を仰っているのですか!娘のサラを支えていくのは母親である私の役目でもありますのよ?」
「その娘を散々虐げていたのはどこのどいつだ。勿論逃げた私も悪いが。オズマン家のしきたり故君には話せなかったが、それでも今この状況を作り出した原因である君がサラに取り入るなんて許されるはずないだろう?」
「オズマン領はどうなるのです!?第三王子との婚約を蹴ったとなったら、陛下達も黙っていませんでしょう!?」
「それなら、アルテナを除く領地全てを返還することで諦めてもらったよ。だからこの屋敷もじきに王家所有になる。」
「そんな…!お父様!私は第三王子との婚約をお受けいたしますと執事長に伝えていたはずですよ!?」
うーん、この、頭が痛くなる感じは好きじゃないな。言っても聞かなそうなので、予め指示してあった二人の荷物を纏めてもらおうと執事長に目配せをして退出させる。
「婚約の件に関して私はお前達に伝えていないので何処から聞いたのか分からないが。その話はリーナにじゃない。サラに打診された話だ。」
「…え?」
「アルテナとの繋がりが欲しくて持ち掛けたんだよ。最悪お前でも良いと先日言われたがもう家族じゃなくなるから旨味など無いと言えば引き下がったよ。」
恐らくリーナが学院で噂を聞いたのだろう。それを自分のことだと曲解して母親に報告して舞い上がっていたに違いない。
ルーヴ殿からの報告書に辺境伯のご令嬢と接触した際の内容が簡潔に書かれていたが、当初の予定通り彼女が婚約者となるだろう。あぁ、レイル殿が彼女を脅していた夜会を思い出すと今でも胃がキリキリする。いつか謝罪に行かねば。
「何故貴方は許されて私達が許されないの…!」
「…実害が無かったからではないか?」
その点については私も不思議ではあるが。そんなこと気にしている時間があるなら、あの子の為に今からでも何かしてあげたい。
「数日後には近衛が来て此処の鍵を預かるそうだ。それまでに荷物を持って出ていってくれ。あぁ、鍵は執事長が持っているが間違っても奪おうなんて考えないでくれ。」
まだ二人がぎゃいぎゃい騒いでいるけど、無視して応接室を後にした。こっちは急いでアルテナに戻って溜まっているであろう雑務をこなさないといけないのだ。カイル殿に任せてはいるが、トゥコーテン殿を上手く手中に収めた彼が浮かれてサボっていることだってあり得る。
余分に連れてきた監視鴉を窓から放つ。執事長に何かあったらすぐに知らせてくれるだろう。
死にかけのサラを抱いたレイル殿が泣きながら謝罪する場に遭遇するのはこの数日後である。




