【???side】魔術師、涙する
「ぅ、ぁ、…っ…ぅ…『動くなぁぁぁあっ!!』」
その模様はゾンデルさんの部下達に施されていたものより複雑で、ある種の芸術だった。
普段なら褒めていただろう。最後の力を振り絞って拘束魔法を叫んで意識を飛ばした彼女が腕にいなければ。
「えっ!?何これ!?動けない!?」
こちらへ移動したかった王女がいち早く体の拘束に気付く。後ろにいるあの女もサラが倒れた時の醜い笑みから焦りに表情が変わっている。
「メロさん、私が飛ばしますのでサラ殿を連れて先に彼等の元へ。転移魔法陣の準備をしてください。」
「かしこまりました、ロシュロール殿下。」
メロさんが呼んだ名前に一同が驚愕しているが、そんなものは無視だ。
辛うじて息はあるもののまるで死体のように冷たいサラをメロさんに預ければ、ロシュロール殿下はすぐに彼女達をカミュさんの所へ飛ばした。
きっと向こうは向こうで大騒ぎになるだろう。
「ロシュロール殿下とは…ヤシュカの…。」
「えぇそうですよ。ヤシュカのアシュモードの弟です。さて魔族の間では勿論、人間も呪いが禁忌とされていることを理解しているはずですが。「はぎゃっっ!」…って、レイル殿、気持ちは分かりますが今は抑えてくだい。」
殿下が話をしている間にこの怒りを発散させようとあの女の目の前まで移動して殴っていれば制止の声が掛かる。拘束されている為倒れない元凶は鼻血を出して酷い顔になっているが、それも気にせず殿下を見つめ続けては「やっぱりロシュロール殿下…」やら「やっと私の…」やら呟いて気持ち悪い。
仕方なく殿下の横へ戻り王家一同を見やれば皆真っ青だった。
「これはアルテナと同盟を組んでいるヤシュカへの宣戦布告ととらせてもらいますね。」
「そこの王女と元凶である女はこちらで処理させてもらう。」
「そんなっ!ハンナが元凶ならミリアは無関係ではありませんか…!」
「黙れ。こんな女を連れてきた王女も同罪だ。」
宣戦布告という言葉に王と王太子は言葉すら出てこないらしい。僕の言葉に王妃がなんとか王女だけでも助けようとしているがそんなの関係ない。
本音を言えば今この場で始末したいのに、頭に血がのぼって上手く魔素が扱えないのが余計にイライラする。
「今はサラ殿の解呪を最優先にしたいのでお暇しますが、後日またお伺いしますね。彼女達はもう二度と会えないと思ってください。」
表情が抜け落ちて不気味な殿下はそう言い残すと、女二人に拘束の上から更に捕縛魔法を施し、転移の準備を始めていた。
「お待ちを…!」
「だから黙れって。ヤシュカが何もしなくても、アルテナの魔術師全員で潰しに来てやるから覚悟しとけ。」
いつの間にか視界の邪魔をしていた涙を拭い、殿下に倣って転移魔法を発動する。
恐らくサラの拘束魔法が解けるのはこの前王太子に使った時と同じ30分程だろう。それくらい時間があればアルテナに余裕で帰れる。
案の定パニックになっていた別棟の二人だけど、ちゃんと今回限定の転移魔法陣を起動出来ていた。
メロさんからサラを奪ってキツく抱き締める。
普段なら触れることすらほとんど出来ないのにと涙して、彼女のお気に入りのワンピースに染みを作った。
待ってて愛しい人。
すぐに助けるから。




