まるで悪役の最期のようだった(後日談)。
「ぅ、ぁ、…っ…ぅ…『動くなぁぁぁあっ!!』」
私がメドニエで最後に放った言葉である。
遡ること1時間前。
当日に含ませる麻痺毒の量を細かく調整(レイル君が実験体)し、お茶会を脱出した後のカミュさん達との帰国の流れも綿密に打ち合せ。
これならとロシュロール殿下の太鼓判を頂いて、ミリア殿下の主催するお茶会に挑んだ。
当初は王妃様だけを呼ぶ予定だったと聞いていたが、いざ赴いてみれば陛下もジョエル殿下もいらっしゃった。当たり前のように隣に座ってくる殿下に、少し離れた所で待機している3人から殺気が飛ばされているが勿論気付かれることはなく。殿下の護衛さん達は顔真っ青だったけど。
「二人きりではないけど、こうして君とお茶が出来るなんてとても嬉しいよ。」
「光栄でございます。」
一方的にジョエル殿下が話して私が適当な相槌を打つを繰り返していれば、ちょうど目が合ったミリア殿下の笑顔が引き攣っている。そんなに私酷い顔をしてるのかな?
予定としては最初の一杯に盛ることはないから安心してカップに口をつける。広がる素敵な香りに流石王族御用達茶葉だなと感動。
少し談笑した後にレイル君が被験して調整してくれた麻痺毒紅茶を飲んで、そこからは自分の演技力を駆使して此処から脱出。10分程度痺れてれば問題ないと当初は決まっていたけど、万が一しつこく引き止められた場合を考えて30分持続するように変更されたらしい。
「サラ殿がジョエルと仲が良さそうで良かったわ。」
王妃様、何処をどう見たら仲良く見えるんですか?ミリア殿下もビックリの不機嫌面みたいですよ?
これ、メロに見られていたらちゃんとしろって怒られそう。怖い。
空になったカップにタイミング良く注がれる3杯目。お礼を言って確認の為ミリア殿下を見れば、少し怖い顔で頷かれた。
いよいよか。
お茶会はともかく美味しいお菓子は惜しいので、下品にならない程度に口に詰める。メロには後で怒られよう。
深く息を吐いて速くなる鼓動を落ち着かせる。大丈夫。レイル君が飲んでどうなっていたかを見ている。本当に手が痺れてるくらいで何の問題も無かった。
「サラ殿、どうだね?良ければうちのジョエルとの婚姻を考えてみてはくれないかな?」
このタイミングで何を言い出すんだ陛下は。
自然に見えるように気合を入れつつカップを傾けて一口だけ含む。
味も匂いもさっき飲んだものと変わりなく、大丈夫そうだ。
「素敵なお話ですが、大変申し訳ございません。わたっっ!?」
ガシャンッ!
すぐに来る痺れを待っていたのに、息苦しさに演技ではなくカップを落としてしまった。
「サラ様!?」
「どうしました!?」
演技にしてはおかしかったのか後ろからメロ達が駆け付ける音がするが、意識を保つのがやっとで動けない。
心臓を握られて圧迫されているような苦しさと痛み。こんなの、レイル君は言っていなかった。
座っていることすら辛くて落ちそうなところをレイル君がキャッチしてくれるが、声も出せない。
「サラっ!?その模様…!」
覗き込んできたレイル君の顔が驚愕に染められている。ロシュロール殿下のものと思われる声が「呪い…!」と小さいけれど聞こえてきて何故か納得。
元凶を何とか視界に捉えれば、とても楽しそうに笑っている。
嵌められた。
そろそろ限界に近い。この後のことを皆に任せてしまうのが申し訳ない。呪いに関してはアルテナに戻れば何とかなると信じよう。
今やるべきことは。
「ぅ、ぁ、…っ…ぅ…『動くなぁぁぁあっ!!』」
そこからの記憶はない。
ここから先、少しの間主人公不在で話が進みます。
 




