【???side】未来に賭ける母親
『瘴気の森に突如城壁が出現』
今朝宰相からもたらされた情報に、動揺せず陛下の執務室から退室出来た私を誰か誉めて欲しい。
物心ついた頃から定期的に夢に見る誰かの人生。見始めた当初は父の書斎で読んだお伽噺の1つだったかと思っていたのだけども。
産まれた我が子を見て、自分は未来を除き見ているのだと知ってしまった。
黒髪の我が子はこの国では忌避されるもの。それはどんな身分でも変わらない。この子の行く末が悲しいものとなるのは夢を見ていなくても分かりきったこと。それでも抗いたくてとった行動は、死を偽ってこの子を幽閉し存在を隠すことだった。
信頼出来る数人の侍女だけをお世話につけて私自身は会いに行くこともせず。
ただひたすらに待った。
除き見た、いつ訪れるとも分からない転機にすがっていた。
それが遂に訪れたのだ。
瘴気の森に城壁。
陛下も宰相もまだその情報の詳細を知らない。
黒髪の少女が作り上げた、城塞都市アルテナと呼ばれる楽園。
身分種族問わず平等に少女の恩恵が受けられる都市。
「メナ」
「はい、ここに。」
「やっとあの子を自由にしてあげられるわ。」
「例の都市でございましょうか?」
メナは私の影だ。幼い頃両親に紹介されてから今日に至るまで素晴らしい働きをしてくれている、最早家族以上の存在である。
私が未来を見ているかもしれないという戯れ言を信じ、あの子にも尽くしてくれている。
「先程宰相が瘴気の森に城壁が出現したと言っていたわ。黒髪の魔女と呼ばれる少女が現れたのよ。」
「早速向かいますか?」
「そうね。あの子に事情を説明して、送り届けてちょうだい。」
「かしこまりました。…出発前にお会いになりますか?」
自室までの道のり、メナの言葉で足を止める。
母親らしいことなど何一つしてあげられないまま幽閉した私など、あの子は会いたくないだろう。それならば一刻も早く此処から解放してあげて、自由を与えてあげるのが唯一してあげられることだろう。
「会えるわけないわ。会わせる顔がない。」
「後悔いたしませんか?」
「後悔など、あの子を幽閉した時から毎日してるわ。私もあの子が産まれるまではそうだったけども、黒髪を認めないこの国が憎くてしょうがないわ。」
見えた未来では黒髪を認める陛下の姿もあったが、現時点ではそのような考えは微塵もないと思われる。ならば彼女に預けた方がきっとあの子の為になる。
「頼んだわよメナ。」
「仰せのままに。」




