#88 元勇者の動体視力が半端ない件
「『ファイアフォール』っ!」
「『ファイアフォール』っ!」
「『ファイアフォール』っ!」
「『ファイアフォール』っ!」
「『ファイアフォール』っ!」
魔法使い部隊が一斉に唱える。すると、彼らの杖の先から炎が放たれそれは一度空の彼方へ。かと思えば、無数の炎が降り注ぎ始める。
「レイン・オブ・デリュージっ!」
シルヴィアは唱えて、矢を放つ。鏃は水に包まれ、やがてそれは巨大な水の球となり炎と激突。バジャバジャバッジャァンッ!次に水の弾ける音が響きいくつかは打ち消されていた。しかし、ボゴボゴォッン!と、生き残った炎たちはシルヴィアへ一挙に集い爆発音を立てる。
けれども、シルヴィアには手に大火傷を負ったのみ。
「よくも...よくも、やってくれたわねっ!」
そのせいで彼女の中の何かが切れてしまったようだ。
「あんたたちは全員仲良く死んでもらうからっ!」
そう言って、矢を番える。
まずは、
「エレメント・オブ・バーンっ!」
と特大威力の火矢を放つ。魔法使い部隊がその矢に「ウォーターシュート」とやらをぶち込むのだが炎に触れると即蒸発。それが、地面に触れると炎の壁が出来る。これで、後には引けなくなった。しかも、何人かが今ので焼死した。
「レイン・オブ・ユニバースっ!」
さらに、シルヴィアは言う。すると、鏃が炎で包まれた矢やら、水で包まれた矢やら、緑に発光した矢やら、電気を帯びた矢やら、黒い瘴気で包まれた矢やらが雨のように降り注いだ。炎の奴は辺りを燃やすし尽くすし、水の奴は全てを流す。緑の奴は辺りを吹き飛ばし、電気の奴は閃光を放つ。瘴気の奴に至っては草木を枯らした。
「ぐはぁっ!」
「う...。」
「ぐふっ...。」
「や...ら、れた...。」
「きゃぁぁぁっっっ!」
もちろんと言うのは不謹慎かもしれないが、今ので冒険者たちも次々と倒れていく。誰も重傷を免れることは出来ず、即死した者だって少なくない。重傷者も早く運ばねば死んでしまう。かと言って、炎の壁はあるし、水で消すことも出来ない。試しにアリシアに「アイシクル」とやらも試したのだが昇華したよう(実際には瞬間的に水となり、それが瞬間的に蒸気になったのだと思うが)にしか見えなかった。
そんな様子に堪えきれず、俺は飛び出していた。
「悠人、ちょっとま...」
アリシアが止めようとするが、それを雅が止める。
「ここは悠人くんに任せてくださいな。本当に危なくなりましたら私が向かいますから。」
と若干矛盾したことを言いながら。
冷静に考えてみれば俺には彼女を半殺し程度にする勇気はあっても、止めを指すなんていう勇気などなかった。シルヴィアとの思い出にまだすがっている自分が、中途半端な所で情けをかけてしまう自分が本当に情けなかった。が、それでも俺は俺は自分に出来ることをやろうと思った。
その程度の勇気しかないなら、その勇気を盛大に発揮してやろうと。半殺しになっても止むを得ない程の一発を食らわせてやろうと決意した。
「エレメント・オブ・ファイア!」
雅との稽古を思い出す。処理できる攻撃は剣で防ぐ!俺は次々と火矢を切り、
「エレメント・オブ・ウォーター!」
処理できない攻撃はだけかわす。
「『マジッククリエイション』、マルチナイフっ!」
次に俺は唱えて、十数の短剣を空中に生む。魔力がごっそり持っていかれたが動けない程でも、スキルを使えないほどでもない。俺はそれらを一斉に放つ。
「マジックブレード!」
シルヴィアが魔力で剣を作った。バリバリバリィッン!もちろん、あちらの方が硬度があるためすぐ割れる。だが、それで良い。
「はぁっ!」
その隙を狙って俺は剣を振りかぶりながら距離を詰め、横に凪いだ。
雅からは飛び込んで良い隙と飛び込んではいけない隙があると教わった。今の隙は不可抗力であって、そのような隙は飛び込んで良いことが多いのだ。
ギィィィィィッッッッッン!弓で腕の筋力は鍛えられているとは言え、やはり瞬発的な筋パワーと言う面では根本的にシルヴィアが劣っているようだ。彼女が大きく怯む。そこへさらに一撃を与えようとするのだが、その前に距離を置かれ、
「くっ...ミストルティンっ!」
さらに、宿り木の矢が襲う。
「『マジッククリエイション』、シールド!」
咄嗟の判断で魔力の盾を築き、そこで光を爆発させる。その際、俺は「テレポート」で後ろへ下がり、また元の場所へ「テレポート」で向かった。これほど、近くで光が爆発すれば目眩ましの効果があるのは明らかである。
俺はまず、
「『マジッククリエイション』、シールド!」
と後ろに盾を築き、次に
「『プロテイン』っ!」
と筋力増強し先程の盾を蹴って前へ。次に右拳を強く握り、
「スマッ...」
「間に合わないわよ。そんなもの。」
俺の詠唱を遮るように言って矢筒から矢を取り出す。
残念、間に合わないのはそっちなんだよな。
「...『マジッククリエイション』、ガントレット!」
と俺は「スマッシュ」を止めて唱える。「ガントレット」と言っても手を覆うイメージをしたのではなく、前へ飛ばすイメージをしたのだ。あの錬金術師が使っていたあの鉄拳的なのを思い出したのだ。
「なっ...!?」
そして、彼女は魔力剣を生み出す暇もなく、その手甲に殴られ吹っ飛んだ。そこで、クラッとくる。魔力を使いすぎたらしい。
シュシュシュンッ!しかも不幸なことにこちらへ何本も矢が飛んできた。そもそも問題ゴキブリからやり直すのはごめんだし、仲間にあんな思いを、特に雅にはそんな思いをさせるのはごめんだ。
「悠人くんっ!」
と雅も飛び出すがもう間に合わない。俺の死がほぼ決定した、その瞬間であった。
ギュゥゥゥゥゥッッッッッン!青い閃光が炎の壁を突き破り、俺の目の前で落ちる。黒のローブに長い白髪。見覚えのあるその老翁は右手を出して、矢を指で全て受け止めてしまった。
「大丈夫かの、少年。」
熊谷和人と言うその人は俺に聞き、次に指に挟まれた矢を地面に落とした。見ると、シルヴィアは頭から血を流して気を失っている。
と、バタッ!次は熊谷さんが倒れた。
「ぷっ...おいおい、それは反則過ぎるだろ。」
何とか笑いを堪えて俺はそんな言葉を投げ掛ける。そこへ、雅たちはやって来て2人を回収した。ちなみに、その頃には魔力切れによる脱力感に俺の体を動かせなくなっていた。なお、熊谷さんの場合は単なる「疲労感」である。助けてくれたのだからそんなこと言っちゃ行けないのは分かっているのだが、ここでギャグを1つ。
何それ、マジW。そう言えば(笑)の表現、草とか森とかはあったのに、このケースは見なかったなぁ。起源は同じ「W」なのに...。もしかして、寒いからか?嘘、だったらめっちゃ恥ずかしいんだけどっ!?
そんなことを考えていたのはあれから数時間ほどが経ってからであった。




