#87 ヤドリギの矢の威力がヤバ過ぎる件
「フフッ、来たわね皆。」
いつもの礼儀正しい口調(それは店番をしていたからだけなのかも知れないが)が割と砕けた口調になってはいたがその姿形から声までがシルヴィアさんそのものであった。
「あらあら、どうしたの?ダークエルフが昔から人間と敵対していたのは衆知の事実でしょう?」
シルヴィアさんは皆に聞く。確かに、あっちの世界のゲームもダークエルフが敵役を担うかもしくは、害を及ぼす者とする作品の方が多かった。シルヴィアさんを見る限り、この世界だとそうではないと思っていたのだが、どうやら違うらしい。試しに、色々詳しいルナに
「そうなのか?」
と聞いてみれば、
「そうだよぉ。そんなことも知らなかったなんて悠人って本当に無知だよねぇ。」
と返される。ちょっとムカついたがそれは後回し。
俺のシルヴィアさんに対する目が憎しみの目へと変わり、剣の柄に手を掛ける。どうやら、シルヴィアさんは...いやこんな状態の彼女に「さん付け」などあり得ない。そう、店番をしていたシルヴィアさんは敵役をしているシルヴィアへと成り果てたのだ。
「アハハハハハッ!貴方のその顔、とっても素敵よっ!良いわ、掛かってきなさいっ!返り討ちにしてあげるわ!」
彼女がそう言い切る前に俺は飛び出していた。仲間の静止など聞こうともせずに。
シルヴィアは矢筒から1本矢を抜き、弓に掛ける。次に、
「エレメント・オブ・ファイア!」
と唱える。すると、鎧通しの鏃は炎に包まれそれは放たれた。シュバッ!そんな音が鳴ったかと思えば矢は俺の首筋を掠って奥の冒険者1人を射抜いた。その矢は胴の奥まで食い込み、彼はそのまま内蔵を焼かれて死んでしまった。
「あら、ごめんなさい。無駄な殺生はしたくないから目当ての貴方を狙ったんだけど外れちゃったわ。安心して、次は外さないから。」
いや違う、シルヴィアは確実に俺越しにあの人を狙っていたのだ。
「くっ...!?」
俺はさらに歩みを進める。
シュバッ!シュバッ!シュバッ!次々と飛んでくる火矢を時には、
「『マルチロック』っ!」
と岩で受け止め時には、
「『マジッククリエション』、シールドっ!」
と魔力製の盾で防ぐ。そうやって、距離を詰めればシルヴィアは唱える。弓しか持たないのだから間合いを詰めれば勝ちだとそう思っていた。
だが、それは違った。
「マジックブレード。」
との声と共に弓の先を魔力が覆い、しかも鋭くなっている。キィィィィッッッン!そこと剣が接触すれば当然そんな音がなる訳で。シルヴィアは交わる剣を解いた後、後ろへ飛びまた矢を番える。今度は
「エレメント・オブ・サイクロン。」
と唱えて。
鏃は緑に発光し始めそれは俺の足元に放たれる。すると、ビュォォォッッッ!とそこから強風が吹き荒れ最後には竜巻と化す。その前に俺は「マジッククリエション」の生成物を使って何とかか抜け出すが、敵の攻撃はそれだけに止まらず。
「エレメント・オブ・ストームっ!」
シルヴィアは風の矢を放ち、
「『マジッククリエション』、アーチ・アンド・アロー!」
と俺は魔力の弓矢を生みそれにてその矢を撃ち抜く。続く第二撃の矢は、矢の生成が間に合いそうもなく弓を投げてそれを防ぐ。
「アリシア、着地任せた!」
そこで、俺はアリシアにそう叫ぶ。その意図が伝わったようで彼女は
「『ストーム』っ!」
と唱えて俺をキャッチし、繊細な魔力制御により徐々に風を弱めることで着地をさせた。
「良い絆じゃない、全く!」
シルヴィアは言いつつ、狂ったように火矢を放ち続ける。その矢が次々と冒険者を葬り、流石に冒険者たちも頭に来たようだ。
「うぉぉぉっっっらぁっ!」
「このクソエルフがぁっ!何してくれとんじゃぁっ!」
「シルヴィアぁぁぁっっっ、死ねぇぇぇっっっ!」
中々酷い言われようだが気に止める必要もない。
「ハァ...て言うか、貴方たち...。私が魔王軍十二幹部の1人だってことまだ気付かないのかしら?こんなにその確たる証拠を見せてあげてるってのにっ!レイン・オブ・ライトニングっ!」
そこでシルヴィアが飛んでもないことを言い始めた。魔王軍幹部の1人だって?なら...。
「お前ら、とりあえず引っ込...」
そう言った頃にはもう遅かった。分裂した矢が次々と冒険者たちを射抜き、ドゴゴゴゴゴォォォッッッン!と言う轟音とまばゆいばかりの閃光とともに消し炭にしてしまった。
あちこちにクレーターが現れ、その中央には黒く焦げた死体。タンパク質が有機物である以上あんなものを食らえばそうなるのは当たり前、なんてマッドサイエンティスト予備軍なサイコ思考に至っている場合ではない。『見ろ、人がゴミのようだ』と◯スカ的思考に陥ってしまうのも不謹慎だ。
「アハハハッ!これ、楽しいっ!」
しかも、あっちはあっちで人を殺しておいて無邪気と言う。
「雅、手を貸してくれ。」
俺は雅にそう言う。もう、こんなのは懲り懲り。その時の俺には情けなど若干あるのみであった。それは進んで殺しはしないが最悪あの女を殺しても良いと思うぐらいの。
「わかりましたわ、わたくしもいい加減腹が立ってまいりましたわ。」
雅は承諾し、剣を抜く。さらに、第一制御層とやらを解除し、銀光の精霊剣とやらを引き出した。
「では、わたくしから...。」
そう言った次の瞬間には雅が飛び出していた。次いで、俺も剣を片手に飛び出す。
「魔剣持ち...、あれは厄介ね。ミストルティンを使うしかないかしらね。」
そこで彼女は矢筒から宿り木の矢を取り出し、それを番える。それを見て雅は足を止める。
「あれはっ...!」
感付いてしまったのだ。それは飛んでもない代物であると、そして俺を狙っていると言うことを。彼女は即座に引き返し俺を掴んで後ろへ、後ろへ。
「フンッ...、無駄よ。」
が、それを予想してか丁度そこへ矢が放たれていた。
「このままでは、かわしきれませんわっ!」
そして、雅はその判断に従い俺を突き放しその反動で彼女も少しあちらへ。
「うくっ...!?」
矢はまず彼女の右腕を吹き飛ばし、門の上へ直撃した。俺はその様子を呆然としつつ地面を滑る。ドッガァァァァァッッッッッン!とあちらで轟音がしたかと思えば、光の爆発がそちらで起こり、ドゴドゴドゴトゴドゴォォォッッッン!と何か大きな物が崩れる音もそちらからした。
ふと、見てみると町の壁がごっそり崩れ落ちてしまっている
「お、おっかねぇ...。」
その頃には俺もそんなことを言える余裕がある程の取り乱しとなっていた。さっきの取り乱しよりははるかに大人しい。
「外した...か。」
シルヴィアはそう言って、地面に横たわる俺に先の矢を向けてくる。俺は矢が放たれると、ほぼ反射的に
「『テレポート』っ!」
と唱えて元の場所へと戻ってくる。ドッゴォォォッッッン!とその次の瞬間には俺のさっきいた場所に光の爆発が巨大クレーターを生んでいた。
本当にヤバい代物だぞ、あの矢は。薄々気付いていたものがそこで明確となる。あれを食らったら焼死どころではすまないと、直撃すれば間違いなく蒸発するだろうと。
「ヘルス・オブ・ディバイン。」
あっちでは雅が自己回復し失った右腕を取り戻しているが、元の腕というのは明らかに蒸発していた。その推測は間違ってはいない。
「くそっ...、あれに対抗できる策があればっ...!」
俺は歯軋りをし、ついでに地団駄も踏んでみるが何かが思いつく筈もない。何も成す術なしと言う悔しさ、虚しさが残るだけである。
もちろん彼らは知らぬが、何せあの矢は悪魔を一撃で倒してしまう程飛んでもな矢である。そんな物に人間が挑むなど無謀、もしくは愚鈍、もしくはその両方である。
だが、魔王に辿り着くには彼らがシルヴィアを打倒する他に道などないのであった。




