#86 街に焼夷の矢が降り注いだ件
やっとこさ研磨剤を手に入れた俺はその場で研磨し、鞘に納めて館に帰る。
「遅かったねぇ、悠人ぉ。もう、ご飯できてるよぉ。」
ルナはそう言うが、彼女と比べて明らかに俺の分だけ少ない。周りを見ると、何か言いたそうな面々である。
「幸せぇ。」
と、彼女は頬に手を当てているがあえて無視をする。飛んでもなく嫌な予感がしたのだが、杞憂に終われと目を背けたのだ。
が、案の定、杞憂に終わらず。
「その...ルーナちゃんが悠人くんの分まで食べてしまいまして...。止めようとしたんですが、間に合わなくて。申し訳ありません。」
雅が言うので、俺は拳を強く握る。
「よーし、ルナ。一先ず一発食らってみようか、『スマッシュ』っ!」
「『ディスポーズ』っ!」
想いっきり殴りかかるも、あっさりと受け流される。完全に忘れてしまっていたが、よくよく考えてみればルナに並大抵の物理攻撃は効かなかったのだ。
「ぐぬぬぬ...。」
それでも、俺は諦めない。物理がダメなら魔法で攻める!とは思ったが、流石にそれはやり過ぎではないかとも思ったのでやめる。
「後で覚えてろよ、クソビッチ。」
と、残っている野菜炒めに食らいつく。やはり、ルチアの料理は美味かった。
それから、俺は紙でハリセンをつくり、往復ビンタをルナに食らわせてやった。ビシッ!バシッ!ビシッ!と音が立ち、彼女は消沈する。潔く食らってくれて助かったぁ...。
そんな風に思いつつ、ふと窓の外を見る。すると、空に1つの赤い光が見えた。
「んーーーーー?」
俺はハリセンを放り捨て、窓に寄る。そして、その光に目を凝らす。
すると、それが炎を纏った矢であることが分かった。しかも、その次の瞬間にはしの矢が分裂し、小さな火矢がたくさん生まれる。それは街に落ち、家々に火を放つ。
「っ...!?」
俺は反射的に部屋を飛び出し、階段を駆け下り、館の扉を開ける。すると、そこには火の海があった。どうやら、その間にもたくさんの焼夷弾のような矢、名をば焼夷の矢となむ言いけるが、数多降り注ぎけりたようだ。何ちゃって古文が出てしまった俺はすぐさま
「皆、行くぞっ!」
と2階に向けて叫ぶ。
「分かったよぉ。」
「天才アリシア様に任せときなさい。」
「そうですね、行きましょう。」
「分かりましたわ。」
その声を聞き付けたようで、4人が2階から飛び降り、あわがえるポケモンの最終進化形みたいなポーズで着地する。ちょっとカッコよく感じてしまったが、そんなことはどうだって良い。
俺たちは武器を構えて、館から道へ出る。そこで、雅が
「あれが飛んできたのは恐らく東門の方ですわ。西風が吹いて矢を飛ばしやすいですし、あの東向きの窓から真正面に矢が見えましたので。」
と言ったので、そのことを通りすがりの人に伝え、逃げるついでにギルドの人へ伝えるよう断りを入れてからその場を去った。その人はどうやら言う通りにしてくれたようで、すぐにギルドから緊急クエストが出され、冒険者たちが集った。
「『アイシクル』っ!『アイシクル』っっっ!『アイシクル』っっっっっ!」
アリシアは後ろを走りつつ、迫る焼夷の矢を消す。そこで、消しきれなかった矢は、シュキンッ!と雅がダーインスレイブで弾く。ルナの『ディスポーズ』は矢は防げても火は防げないので封印だ。
もちろん、俺が何もしないというわけでもない。
「『マルチアイス』っ!」
数多の氷の礫で何本かを弾き、
「『マルチロック』っっっ!」
と大岩をたくさん矢と俺たちの間に壁を築く。さすれば、コッ、コッ、コッ...と弾かれていく。
そんなこんなしている内に俺たちは東門に辿り着き、街の外を見る。すると、そこには弓を構えては焼夷の矢を放つ人影があった。どうやら、雅の推測は正しかったらしい。
が、そんなことを言っている場合ではなかったのだ。いずれ他の冒険者がやって来るのだが皆同じ反応であった。
「おい、嘘だろ...。」
「マジかよ...。」
「あなたが...どうして...?」
彼らがそんなことを言い連ねる中で、俺たちは余りの驚きと失望に言葉に失ってしまっていた。
その者は俺たち5人パーティーのみならず、多くの冒険者たちが見知った顔であった。




