#83 あの3体とは別の悪魔が現れた件
その日、俺たちはとある中級クエストをこなすために北門からプロスペレを出た。クエスト内容は「バーサクボアの群れを討伐せよ」。バーサクボアは知性がかなり削がれているために単体であれば初級クエストレベルだが、群れとなればその凶暴さが故、数に応じてどんどんランクが上がる。 下手すれば超上級クエストにも上り詰めると言うこだ。
今回受けたクエストの方も印の色は赤で中級ギリギリである。
この辺りでは赤ですら珍しい方なのだが近頃、町から北へ数km行ったところの古城に何やら化け物らしき何かが住み着いたらしく普段魔王城から離れたところに住むここらの魔物が一斉に移動し始めたらしいのだ。
全く迷惑な話だが俺は1ヵ月間剣の稽古をしたし、ルナであれば「ディスポーズ」で奴等の突進程度は捌ける。アリシアは天才天才と自負してるがそれに見会う腕前だけは持っている。雅に関してはもはや何も言う必要がない。故、一番危険なのは回復メインのルチアだと言う可能性が高い。
「皆、ルチアを守るんだ。メイスの打撃は致命傷にはならない!それに、回復メインのルチアに負傷されては俺たちが後で困ることになるかもしれない!」
その判断に任せて俺はそう言った。すると、
「了解だよぉ。」
「分かったわ。」
「分かりましたわ。」
と威勢の良い返事。
ルチアには頼もしさを感じてほしかったのだが、何と言うことだろう。見ると、彼女はその目を輝かせて、ハァハァ息も荒らしながら、
「あ、ありがとうございます。私のために体を張ってくるの...ですね!」
など危ない目になっている。皆で守ってやるとなっただけでこの有り様。いくら彼女が年下好きだからってそれだけで興奮するなんて心底理解できない。もうこいつのこと守るの止めようかな?なんてことも皆の心の奥底には確実にあるだろう。全く酷い話だが。
と、そんなことを考えている内に奴等はもうすぐそこに来ていた。
「まず、私が特大の魔法をぶっぱなしてやるわっ!天才アリシア様の力を思い知りなさいっ!『フレアレイン』っっっ!」
相変わらずブレないアリシアの詠唱の後、無数の火の雨が奴等を襲う。無論、知性のあまりない奴等はただ走り抜けるばかり。ただひたすらに俺らへ突進してくる。その中で仲間が次々と燃え尽きていくのにも構わず。あれで知性があったらとんだサイコパスだ。しかも、宇治拾遺物語にある「絵仏師良秀」の話(こちらは我が道を貫き通すと言う少々立派な理由でサイコパスっぽいことをする)と違ってあいつらは俺たちを殺すなどという下らない理由で、である。
「行くぞ、雅!」
「ええ、行きますわよ!」
俺たちは剣を抜き、前へ。その際、アリシアに向けては
「アリシア、お前はルチアを守りながら、出来れば援護も頼むっ!」
「両方できるに決まってるわ!何てったって私は天才だからねっ!」
何時ものごとくナルシストで返してくるが、今回ばかりは頼もしい言葉だ。俺は小さく頷き、続いてルナに向けて
「お前の固有スキルで奴等の突進を受け流すことは出来るなルナ。」
「出来ると思うよぉ。」
「そうか。なら、お前はルチアを守るのに専念しろ。」
「了解だよぉ。」
そして、俺と雅は剣で切りかかった。ドドドドド...!と音を立てる突進を俺は横にかわす。
「行ける!一ヶ月のキツい稽古のお陰で体が軽いっ!」
俺は呟き、すぐさまそいつの体に剣を刺す。それが見えなかったのかそのボアは突進を続け結果、自らで自らの傷を広げることになる。マジで馬鹿だな、と俺は思いながら、
「『マルチファイア』っ!!!」
と唱えて、止めをさす。
にも関わらずあちらでは雅が飛び回り、一切り一切りで一匹一匹を瞬殺しまくっている。が、あれは規格外の存在である。剣術を物にしたものというのは本来俺ぐらいが普通で、もう3倍ほどやっていれば騎士やら憲兵やらだって目指せるだろう。
俺はそう思いつつ、切って切って切りまくる。
「『マルチサンダー』っ!」
そこへ時折、アリシアの援護が入る。その威力は凄まじく目の前のボアら5体ほどを感電死させる。まあ、物理的なダメージもあったのだろうが。と、気付けばすぐ真下に奴は来ていた。
「しまっ...」
そんな声を漏らしつつ、俺は咄嗟に跳躍する。紙一重でその突進をかわす。
さらに、落ちる力を借りて切っ先でボアの体を深く刺す。瞬間、血は飛沫き顔に浴びる。その痛みに耐えかねてか、ブボォォォッッッ!グォォォッッッ!ボアは鳴き声を上げながら、走り回り、俺を振り下ろそうとする。
「くそっ!」
歯軋りもしてさらに剣を深く刺して、姿勢を屈め振り飛ばされんとする。その状態のまま、
「『マジッククリエイション』、デュアルナイフッ!」
と唱えて、干将・莫耶を手元で想像するのではなく、空中で想像するイメージを思い浮かべる。すると、その通り空中に双剣が現れ、それを下のボアの首にけしかける。そこでついにそいつは力尽きる。
耳をすますば。替え歌「コンクリートロード」で同じみ、そのタイトル通りをすれば、連なる詠唱が聞こえてきた。それは、例のやなヤツ!連呼ではない。そもそも本の貸出履歴によく名を刻んでいる"あの男"はこの世界にだって存在しない。故、その連呼は起こる余地が無い。何だか知らないが、これは結構危ないんじゃないかと俺は思う。別の意味でな!
「『ディスポーズ』っ!『ディスポーズ』っ!『ディスポーズ』っ!」
と、そんなこと考えてる暇に少し見てみるとルナはしっかりルチアを守っているようだ。あるいは、ルチアがメイスで動きを止めるかアリシアが攻撃魔法を食らわせるかしている。
「あいつら、よくやってるようだな。」
俺は少し穏やかな顔をして見せ、振り返り様にすぐさま引き締まった顔へ。奴の目を右から左へ裂き、さらにその心臓に一突き。気付けば、
「その心臓、貰い受ける!」
なんて痛いことを小声で呟いていた。皆に聞こえてはいなかったから、羞恥は無かったのだが...。のだが、それは自分の中の何かを失ったようなその感じとは完全に別腹なのである。
そうして、俺たちは突き刺し、放ち撃ち、流し殴りなどしてボアを着実に仕留めていく。だが、代償に軽傷の雅を除く皆が中度の傷を負う。無論、俺もその域に入っている。
「くそっ!雅のお陰で大分減っては来たがまだ数十は残っているぞ。これが赤印のクエストか。」
俺は呟き、次に目の前のボアを切る。あちらでは攻撃魔法が敵を遅い、固有スキルが受け流し、メイスが動きを止める。雅はまだ切って切って飛び回っている。ジャグッ!ジャグッ!グサッ!俺の方も幾度も鈍い音を立てて奴等を切っていく。
と、その刹那1つ恐ろしげな声が聞こえた。
「そのような狂獣ごときにその様とは...。人族とは本当に醜いですね。」
口調こそ丁寧だが、その奥に邪気を孕んでいるのがよく分かる。
「何...?」
俺が振り向くとそこには黒く巨大な羽を広げる化け物がいた。見た瞬間、俺は奴が悪魔であると思った。それも結構前に世話になったあの3体とは違う奴である。
と、その次の瞬間。
「『ガンド』フィンの豪雨。」
奴が唱えると共に空中から赤いオーラに包まれた黒い球が数十現れて、それらが雨のように降り注ぐ。だが、不思議なことにそれらはボアと地面のみを狙い、ボアは瞬間的に全て倒されてしまい、多くのクレーターが周囲に出来る。
つまり、奴の狙いは俺たちの死ってわけじゃないのか。もしくは、ボア風情に殺させるのが嫌なだけなのかもしれない。
「まあ、どちらにせよ...。」
俺は小さく呟く。そう、どちらにせよ狙いが他にあったにしろ、俺たちは最低限の戦利品を持ってその場から立ち去るしかなかったのである。




