#82 雅の宣言通り稽古が厳しすぎた件
次の日から雅による剣の稽古が始まる。場所は屋敷の裏庭。横にプールが佇むその庭で俺は木刀と木刀を交える。
「あちらの世界で以前剣道をやっていたのか、基本は出来ているようですわね。ですが...」
バチコォォォッンッ!その瞬間、顔に一発食らい吹っ飛ばされる。
「力は弱いですわ!」
続く言葉に俺は情けなく、
「はい...」
と応える。強者とは言え女の子に頭が上がらないなんて、男として本当に情けない。それにまだ力が弱いと言われた。女の子にそんなことを言われるなんて、ダブルで情けない。これでも、剣道は得意だった方なのだが当然の如く武道と実際の戦闘では結構違うところがあるようであった。
バチコォォォッン!バシィィィンッ!バシンッ!まずは頭、次に鳩尾、今度は右腕と次々と打たれる体の各箇所。本当に容赦ない。手加減するつもりはないらしい。
「おらぁっ!」
「弱いっ!」
バシィィィッンッ!
「くっ!」
鳩尾に一発。続いて、
「やぁぁぁっ!」
一度振りかぶり狙う先は彼女の左腕。それを彼女は華麗にかわし、バシィィィンッ!と頭に一発。俺は地に倒れ伏せる。
が、だからって諦めるわけにはいかない。俺は起き上がり
「まだだ!」
と言い、今度は力強さに意識して木刀を打ち出す。雅がそれを防ぐと、ガンッ!!!今までになく高く大きく衝撃音は走った。そこで感覚は掴むことに成功。
「おらぁっ!やぁっ!」
ガンッ!ガンッ!ガァァァッッッン!
「段々力が入ってきましわね、悠人くん。ですが、まだ攻めが足りませんわ。あと、防御もなって...ませんのっ!」
そう言って雅は俺の鳩尾に向けて木刀が打たれる。
「ぐはっ!?」
そして、結局その日の進捗は力についてのみであった。加えていつもに同じく昼も晩もルチアの料理で、いつもに同じくとても美味いのであった。
それから、約1ヶ月間。俺は雅による厳しき剣の稽古を毎日受け、ついに剣の扱いをものにする。基本が出来ていなければこの1.5倍は掛かったらしく、しかも運動神経が劣ればさらに1#5倍は掛かるとも言う。幸い、前者後者ともにある程度こなしていた俺はこの間に高度の剣術を身に付けた。
まず、俺は片手で木刀を横に凪ぐ。そこを雅はかわしてあちらの横凪ぎ。それを見て俺は後ろへ飛び、
「やぁぁぁっっっ!」
と今度は両手で木刀を打つ。ガシィィィンッ!防がれると大きな音が響いた。その状態で彼女は押し込んできたために俺は刀を離し、後ろへ。続いて、また前へ。
ガンッ!ガガンッ!ガシンッ!次々に交わる2本の木刀。特には攻め、時には守る。隙を見れば突きを繰り出す。シュンッ!シュン!ガシガシンッ!全て防がれるが諦めず、何度も突き、何度も凪ぐ。その連なりのお陰かついに彼女は一瞬怯んだ。
「...!?」
「今だぁぁぁっっ!」
俺は逃さず、彼女の腹へ木刀の先を突き出す。
ガシィィィッッッンッ!防ぐ暇など無かったはずだが何故か防がれた。だが、それは稽古始めて以来の惜しさであった。恐らく、雅のような剣士でなければ一発食らわせられたのかもしれない。
「ここまでわたくしを追い詰められるとは...。この1ヶ月本当によく頑張りましたわね、悠人くん。これからもより剣術に磨きを掛けていきますわよ」
雅にそう言われ、俺は歓喜と困惑がない交ぜになったような気持ちに襲われた。故、俺は微妙な表情を浮かべつつ
「え...」
と言って黙りこくった。
「そんな顔をなさらなくても結構ですわよ。悠人くんは十分剣術を体得していますので、大分緩くはなりますわよ」
その言に俺も安心した。気持ちの半分をしめていた困惑は失せ、俺は安堵のため息を吐く。本当に良かった...。




