#75 錬金術師が妙にしぶとかった件
ギュギィィィン!スゴゴゴゴゴッ!シュキシュキィィィッッッン!交わる魔剣に、降り注ぐ短剣。それを打ち払うはまた魔剣。
「『盾』よ、層を成せっ!」
次にアントニウスは盾の層を生むも、
「そのようなもろい盾、何度錬金されましても無駄ですわよ!」
と雅は瞬時に全て破る。
その後もそのような激戦は続いて、その最中。
「複製せよ、『ダーインスレイブ』っっっ!」
錬金術師はその名を叫ぶ。錬金術と言うのは結構万能で、構造さえ把握してやればあらゆるものを複製可能となる。もちろん、それは贋作であり所詮は偽物。ましてや魔剣の真の力に勝るはずもない。が、少しでも戦況は変わる。
ギュギィィィッッッン!ギュゴォォォッッッン!交わる同盟にして、真偽の魔剣。濁った金属音が辺りに響き、しかも今度はこう告げる。
「『ダーインスレイブ』よ、数多となりて敵を撃ち抜け!」
ズギュギュギュギュンッ!その攻撃には流石の雅も大きく退く。
「ぐっ!?」
加え、アントニウスは少し血を吐いた。
いくら彼が無限の魔力を持つとは言え、またいくら彼が複製もこなす錬金術を操るとは言え。異質なほどの魔力を放ち、脅威の力をその内に秘め、しかも未知のものを複製するとなると術師にかなりの負荷をもたらす。
「私の魔剣を複製して相当な負担が掛かっているようですわね。その負担は致命的になりやしませんの?」
雅がニヤリと笑った後突っ込むと、
「戯れ言を。一時の負担など気にならんわ。数多なる『槍』よ、敵を穿てっ!」
言われがともに無数の槍が床から天井へ連続射出。数の暴力は不意打ちに強い。それが奴を囲んだこともありまた雅は行く手を阻まれた。
次に。
「拘束せよ、『ディスターブチェーン』っ!」
彼女を4、5本の鎖が拘束した。その際に、鎖の先の刃がその手から魔剣を離し、しかもスキル使用を妨害する。
「フン、一度吠えたかと思えば所詮はそんなものか。結局、貴様は魔剣も魔法もなければ何も出来ぬのだな。実に今の人は弱い。」
対する本人も一度解けたかと思えば所詮はそんなもの。結局、緊迫も連撃もなければ慢心が戻るのだ。俺がいればそんなことを思ったであろう。
「くっ...うぅ...うぐっ...!」
だが今そこに俺はいないし、苦しむ雅にもそんなことを言っている暇は無い。
「まあ先に告げたことはどうでも良い。何せ、貴様は我にこれを使わせる程までに追い詰めたのだ。最後は敬意を表して、貴様の剣で終わらせてやる。」
また少し慢心がましとなり、アントニウスはそう言って魔剣を引き寄せる。
そこで、雅が苦しい声を上げながらも魔剣に告げた。
「良い...ですわよ、ダーイン...スレイブ。こっ、この際、首さえ跳ねなければ、わたくしの四肢...はくれてやりますの。ですから、早急に...全てを、切り裂きなさなっ!」
その言葉が終わった瞬間であった。銀に光る魔剣ダーインスレイブは独りでにアントニウスの片手を離れ、次々と鎖を絶っていく。まるで、剣そのものに意志があるように。
「くっ...痛っ...あぅっ...。」
その都度、雅の皮膚は裂かれて痛々しい声が響く。が、彼女はそんなことには構わなかった。
「まさかっ...!自らの傷を顧みず魔剣に鎖を切断させているだとっ!?」
その強引かつ確実な策に無論、アントニウスは驚異を隠せない。
そして、最後の拘束部。そこで、魔剣は狂ったのか主の右腕ごとその鎖を絶ったのである。
「きゃぁぁぁっっっ!」
その余りの痛みに雅は悲鳴を上げるが、やがて鞘に戻った剣を引き抜く。
「そんな無謀を犯すからそうなるのだ。まだ左腕は使えるようだが、利き手で無い以上今までのようにはいくまいっ!」
言った次、無数の短剣を撃つ。雅はそれを何とか弾き、次に層を成した盾も破った。
だが、そこでアントニウスの策に敗れる。
「数多なる『槍』よっ!」
敵がそう言うと、次の瞬間には鈍い音ともに十数の槍が雅の胸を貫いていた。
「あぐっっっ!?そんな...嘘...ですわ。」
「嘘では無い。貴様の死は確定したのだ。『魔剣』よっ!」
次いで、魔剣も錬金され痛みと戦う雅に歩み寄る。近くなれば、剣を振り上げる。
と、その次の瞬間。振り下ろされた魔剣をダーインスレイブが弾き飛ばした。その手元のカードには固有スキル「ヘルス・オブ・ディバイン」の文字が追加され、彼女は既にそれを習得。ヘルス・オブ・ディバイン、すなわち神の癒し。雅はそのまま立ち上がり、胸に突き刺さる槍を引き抜きその名を叫ぶ。
「『ヘルス・オブ・ディバイン』っっっ!」
その名から察しのつくとおり、まさにその効果は反則級であった。まずは地に垂れた自らの血が全て雅の傷口に戻り、その傷はまるで何事も無かったかのように消え失せる。さらには、右腕までもが戻ってきてしまったのだ。
「な、何だとっ!?」
驚異を露にするアントニウスに、今度は雅が槍を向けた。
「『サイコキネシス』っ!」
ズゴゴゴゴゴッ!詠唱とともに数十の槍がアントニウスのあちらこちらを貫き、ついには奴に地を拝ませ、しかも沈黙もさせる。それを見て雅はそこを去っていった。
それから彼女はフロリアスダンジョンの入り口を抜け、俺を除く仲間3人の元へと向かう。彼女たちも流石に雅が俺を連れていないことに気付き、成否を問うよりも先にそのことを聞いた。
「ねぇ、悠人はぁ?」
「ちょっと悠人はどうしたのよ、百合。」
「姿が見えないのですが悠人くんはどうしたんでしょうか。」
先にルナ、次にアリシア、最後にルチアと言った具合で質問が投げられる。ちなみに、アリシアの言う「百合」とは雅のことで、雅百合華の百合華からとっての「百合」であり、彼女は雅をそう呼ぶようになっている。
一部の人にとっては「百合」がガールズ何たらの隠語に見えて仕方が無いだろうが、断じてそんな意味はない。雅がお嬢様系だから尚更なのだろうがそんな意味など根本から存在しないのである。
そんな雅は3人の問いに対して、首を横に振って返す。その暗い顔からも彼女たちは察したようで、
「そんな、悠人ぉ。嘘でしょぉ。」
「う、嘘...でしょ。」
「...。」
ルチアはしばらく言葉を出せず、アリシアはすすり泣き、ルナに至っては野○村並の大号泣。
やがて、彼女らの気持ちも大分落ち着いてはくるが、心の奥底に深く沈んだ悲しみは決して消えることはない。ルナが
「悠人ぉ、アリシアからお金貰って豪華なお葬式開いてあげるからねぇ。」
と言うのが聞こえると甦ってきた俺は返す。
「お前な、勝手に俺のこと殺してんじゃねぇよ。」
最後に本当は一度死んだのだとかすかな声で添えて。
「え?」
ルナが振り返る。次に皆もこちらを向き、いなや雅も含めてパーティー全員が俺に抱きついてきた。これには俺も素直に顔を赤くする。いくら9割が残念少女と言えども結構なハーレム状態であることには変わりはないのだ。
「な、なんで生きてらっしゃいますのっ!?」
続いて、雅が驚きと喜びを隠さず聞いてくる。俺は
「あぁ、まぁ、それは深入りしないでほしい。この前、神雷を剣に貯めるのを見せただろ?つまりはほらあれだ。俺には神様の加護があってあの程度の傷ならいくらでも癒せるんだ。」
明らかに嘘っぱちなのだが、皆が俺の望んだ通りそれ以上深入りはしてこなかった。
と、そこでまた別の声が響いた。しかも、その声には聞き覚えがある。それはあの天下の慢心王、その擬きの声であった。
「戯れが好みのようだな、我が仇っ!」
見ると、フロリアスダンジョンの前に槍を刺したままのアントニウスは立っていた。
「チッ...しぶといやつめっ!」
そう言って今度は皆で構える。敵は突き刺さる槍を抜き、さらに叫ぶ。
「現界せよ、『オレルスの骨舟』っ!」
すると、その後ろで骨が生まれて組まれ、1つの巨船を形成する。彼はそこの上の玉座に飛び乗り、
「そこの小娘の固有術が具現化、『不死の霊薬』を我が術にて生み、全てを回復したのだ!まさか、似たことをそこの男が出来るとは思わんかったがな。」
と叫んで、さらに魔剣を生み出す。
「これより貴様らに引導を渡してくれるっ!今度こそここを貴様らの墓場とするのであるぞ!」
宣告すると今度は無数の刃を生み出したのであった。




