#73 錬金術師が真に英雄王擬きと化した件
「食らいなさい、『マルチシャイン』!」
援護専門のアリシア不在で進む戦闘の中、雅は数十の光を放つ。
「『盾』よ。」
そう告げて手を翳し、円形の盾を産み出す。その防御は固く、威力の高いはずの攻撃も全て跳ね返す。が、代償にその盾は砕け散った。
「貴様、この我の盾を砕くとは。単なる若輩者ではないよだな。」
「侮りましたわね、鎧の方。わたくしは若輩者でないどころか手強い女ですわよ。」
アントニウスが慢心に雅は答えて、一気に飛び出す。彼女の剣は魔剣である。常に魔力が漏れ出し、敵もその気を感ずる。
「なるほど、その魔力の漏れ出る剣...。魔剣、か。」
「おっしゃる通りですわ。ダーインスレイブと言いますの。」
「そうか。ならば、我も使わせてもらおう。『魔剣』よ。」
言葉を交わした後、その手元に1本の魔性の剣が現れた。
ギュギィィィッッッン!その瞬間、濁った金属音が鳴り響く。
「魔剣、ですって!?馬鹿な!魔剣はこの世に5本しか無いはずですわ。」
「フンッ、驚きを隠せないようだな魔剣持ちっ!」
そう交わして、互いにまた魔剣同士を衝突させる。
ギュギィィィッッッン!ギュゥイィィン!ギュゴンッ!連なる魔剣衝突の音。その音に隠れて俺は奴の後ろに忍び寄り、そして飛び上がり、静かに剣を振り下ろす。
「なっ...!?」
一度雅を振りほどくアントニウスだったが、もう遅い。俺はその脳天目掛けて剣を奮った。
ガキィィィッッッン!と、そこで今度は純粋な金属音が響いた。それも、砕ける際のその音が。見ると、俺の剣が奴の右腕を覆った鎧を破壊していた。俺は着地し、もう一度切りかかるがそこで奴の術が猛威を奮う。
「『手甲』よ、制裁を下せ!続き、『足甲』よ、蹴り飛ばせ!」
アントニウスは唱えて手甲により俺を、足甲にを雅を柱へ吹っ飛ばす。
だが、俺は諦めを知らない。吹っ飛ぶ最中でも構わず、
「『マルチファイア』っっっ!」
と唱えて、数十の威力マシマシの火の玉を生成。おかげで有り余っていた魔力も半分ほど持っていかれたが構わない。俺は気を集中させ、敵を狙う。
「『盾』よっ!」
詠唱と共に生まれる円盾もその中央の集中攻撃により砕き、さらにそこへ体勢を立て直す雅の一閃。
が、防がれる。バッティングの要領で生み出した魔剣を振り、雅を天井に衝突させる。同じ頃、俺も柱に叩き付けられていた。だが、まだ残り体力に余裕はある。意識だってはっきりとしている。
俺はそこの柱を蹴って初速を生み出し、敵との距離を詰める。衝突の後地面に落下した雅も立ち上がり剣を片手に急加速。
「チッ...『魔剣』よ!」
初めに奴へ剣を奮うのは俺。それは魔剣に防がれるが、思い切り振ったためにその箇所は僅かに欠けた。その瞬間を俺は見逃さない。
「『盾』よ、層を成せっ!」
次いで、雅。彼女に対しては重なる盾を形成。雅はそれを次々と砕き、最短ルートでアントニウスに切りかかる。だが、その寸前にかわされる。
その刹那。今度は俺が飛び出し、剣を凪ぐ。それをアントニウスは同じ魔剣で受け止めようとしたために、またその剣は僅かに欠けた。先程もそうだったが、いくら魔剣と同質とは言えどそれは即興の産物である。むしろ、魔剣であらこそ剣自体の質には疎かになる。
「教えやろう、錬金術師。お前は確かに強いが、錬金術は完全では無い!お前は魔剣に似せるがあまり剣の質ってもんを疎かにし、"偽物"を作り上げた。」
俺はそう言って、同じ箇所に何度も剣を入れる。
「だが、俺たちの使っている剣は質を疎かになどせず、丹念に鉄を打ち、0から作り上げられてきた"本物"だっ!」
俺は幾度も幾度もそこへ剣を入れていく。
「"偽物"が"本物"の性能を隅から隅まで上回れるはずなど無い!」
そう言って、ついに最後の一閃が放たれた。
バリィィィッッッン!そこでひび割れた魔剣は完全に砕かれる。その破片でさえ奴は武器とするが、俺は構わず右拳を強く握りしめ、
「『スマッシュ』っっっっっ!」
と思いっきりぶん殴る。
その勢いで奴は柱へ吹っ飛んでいく。
「チッ...。思い上がったな、若輩者っ!この程度、で?」
「思い上がりなんかじゃありませんわ。」
いつの間にか奴の後ろを取る雅。彼女はそのまま柱ごと魔剣で敵を裂く。だが、またしてももう少しの所でかわされる。だが、それでもその体を覆っていた鎧が大きく砕け落ちた。
「我は今大変驚愕しておるぞ。貴様ら雑魚風情がここまで私に攻撃を当ててくるとは...。」
そんな時間が次々と過ぎ、ルナは不意打ちの物理攻撃に倒れ、ルチアもあくまで霊体の奴に浄化魔法を唱えかけたところで気絶をさせられた。
一方、俺と雅はまだ倒れず、あれから何度も何度も奴へ切りかかり、手足の鎧を全て切り落とすことに成功していた。故にか慢心のアントニウスは珍しく拍手をこちらに送ってくる。
「さて、そうとなればこちらも本気を出す他に無いな。」
とやっとこさ奴の慢心も解けてきたようだ。あれだけの強さを誇っておきながらまだ本気では無かったことが衝撃だったが、その前に彼はあることを行った。
それは倒れるルナにアリシアの追放。アントニウスは、
「貴様らの体は我が久しく本気を出すこの聖戦には不要だ。こうなっては、なぶり殺す価値も無い。さっさとこのダンジョンから...失せろ。」
と言い、彼女らを瞬時に消す。
「おい、お前!ルナとアリシアに何をした!?」
俺が問うと、アントニウスは
「まあまあ、そう顔を赤くするな。奴等ならこのダンジョン外に追放しただけだ。」
と返し、かっこよく指パッチンも決める。ただそれは粋がるのか真の目的ではなく、ダンジョン全体を魔法障壁で囲むのがそれである。
「それに、貴様ら2人は久方ぶりにこの我に認められた身なのだ。あの女どもは所詮雑魚だったが貴様らならこの我の本気を見せるに値する。『聖杯』よ、我が手に!」
そう告げ、アントニウスの現すは黄金の杯。そこから赤い液体が漏れ出ているのが見てとれる。
「これは神子の血が具現化した液体だ。俺はこれを飲んだ瞬間、真に最強となりさらに高等な錬金術の行使も可能となる。」
彼はそう言い残してその液を口に含む。
その瞬間、奴から今までにないほどのプレッシャーが発せられた。それは熊谷和人をも余裕で越し、三大英霊のその一角としての恐怖を俺たちは垣間見る。
「数多なる『刃』よ。」
次にはその詠唱とともにて、敵の背後に無数の短剣が現れた。引き続き宿命に例えると、本質から言えば剣製の方に近いのだろうが、その風貌は明らかに財宝の方であった。
そうこの時、三大英霊の一角、錬金術のアントニウスは真に彼の英雄王様擬きと化したのである。本気を出した時点で性格は真逆となってはいるが、そこは「擬き」と言う表記で説明がつくだろう。




