#66 べリアルの能力が無敵過ぎた件
容疑が晴れ、手錠も外れたからと言って「久しぶりのシャバの空気は上手いぜ」などと出所した囚人みたいなことを言っている場合ではない。俺たちはすぐさま戦闘に移らなければならないのである。
「ラージテレポート!」
まず口を開くのはアリシア。彼女の詠唱と共に裁判場全域を白い魔法陣が囲み、べリアルたちを含め皆が町の外へ瞬間移動する。
しばらくの間、べリアルたち敵側は戸惑いを見せる。何故なら、アリシアの使った魔術は駆け出し冒険者の町というレッテルが張られたこのプロスペレには似合わない大それた代物。この場合、先にアリシアを知るこちら側が有利である。
その瞬間、皆が武器を構え、戦闘態勢へ。
「今がチャンスだ!行くぞ、皆の者ぉぉぉっっっ!」
「うぉぉぉっっっ!」
彼らはそう叫び、得物を持つ者は武器を片手に敵を向けて突進。杖を持つ方はそれぞれ、
「『シャインシュート』っ!」
「『シャイニングボム』っっっ!」
「『オーブ』っっっっっ!」
などと唱え、光の球やら光の弾やらエネルギーの球やらが空を交い、べリアルを狙う。
その結果、幾多もの剣筋がべリアルの四肢に深く深くさらに深く傷を生み、そこへ魔法攻撃が直撃することで大きな損傷を負う。だが、べリアルは不敵にもほくそ笑んでいた。まるで、この状況を大きく覆してしまう程の隠し玉を自らが持っているかのようであった。
そんな想像は案の定、現実として俺たちに突き付けられた。
「我が眷属よ、今こそここに集え。されば、我が血肉と化すを認め、勝利を約束す。」
とべリアルがそう言った瞬間である。遠くの方から蝙蝠の大群を押し寄せ、しかもその一隊がべリアルに寄って傷口を塞いでしまったではないか。
「完全回復だ。さぁ、どうする?愚民ども。」
さらに奴は調子に乗り始める。だが、あんなチート能力を持ってしまっていては油断と慢心による隙を狙ったとして奴を倒すことが出来ない。奴を倒すには奴に回復する暇を与えず、攻撃に隙を与えず、さらには防御する時間なども決して与えず、一度に多大なるダメージを与える必要がある。
しかも、敵はこれで戦闘モードに入った。これで奴等を倒すのはさらに困難となった。もしかしたら、近付く事すら許されないかもしれない。だが、そんなことにも構わず得物を持つものは突進し、杖を持つものは遠くから魔法攻撃ということを彼らは続けた。
最も恐ろしいのは奴の使う、デビルズスティンガーなどと言う攻撃手段。
「発動、邪王の死棘。」
とその口元から聞こえる度に漆黒の針やら糸やら現れ、ウネウネ動き、その全てが味方の命を狙う。そのせいで彼らは次々とやられ、こちらに戻ってこれた者は多くなど無かった。
「フハハハハハ...どうした?掛かってこい、愚民ども!」
おまけにあの慢心である。それだけでも腹が立つが、全く歯が立たないから、さらに腹が立つ。
「クソッ、あいつ無敵過ぎんだろ!」
結果、俺は歯軋りをしてみせる。
と、そこで下を向いたままのアリシアと雅が俺の前に立ち塞がった。
「『愚民』と言ったわね、小者。」
「全く聞き捨てなりませんわ。わたくしを『愚民』などと仰るなんて...。お仕置きを、させていただきますわ。」
そう言ってアリシアは杖を構え、雅はダーインスレイブと呼ばれる魔性の剣を鞘から抜く。
「駆け出し冒険者風情がこの我を小者と罵倒するか。貴様の隣の女は魔剣を持つが故油断は出来まい。だが、貴様のようなただの魔法使いは我が敵ではないわ。思い上がるでない、愚民よ。」
うんうん、確かにそうだ。思い上がるなよ、アリシア。そうは思うが当然彼女は愚民などではない。あれでも彼女は一応大魔法使いであり、心強い仲間なのである。それは雅も同じだ。
「思い上がっているのはそっちよ、小者。世界一美しい天才魔法使い、アリシア様に喧嘩を売るなんて百年早いわよ。」
「本当にその通りですわ。わたくし達に喧嘩を売られたこと、後悔させて差し上げますわ。」
「フンッ...やれるものならやってみるがいい!」
最後に交わされた言葉と共の少女たちは敵と激突した。




