#63 四面楚歌のまま裁判が始まった件
あの後、詳しい罪状を聞かされ俺はプロスペレのその外れ、騎士が管理する牢屋へと入れられた。
何でも俺がアンジェルネさんを家に連れ込み、服を脱がせ、さらには性的接触を強要したと言うのである。もちろん、そんな覚えは無いし、そもそも家に連れ込んですらいない。ルナにアリシア、ルチアの残念少女らはともかく、正統で上品な雅の証言もある。あの御嬢様が嘘など着くはずが無い。だが、そんな少数の意見など無力に等しい。4人は抗議をしてくれたようだが、それより大勢の民意がそれを押し返してしまった。
何せアンジェルネさんの人徳はとても高い。皆が彼女の発言に信頼を持っていたのだろう。そう考えに耽る俺は不意に後ろを向いた。と、そこにはアンジェルネさん。俺は、
「アンジェルネさん!何でこんな酷いことを...?」
と言い掛けて止めた。その理由を悟ったからである。
何とアンジェルネさんが薄ら笑いを浮かべその姿を恐ろしい怪物の姿へと、悪魔のような姿へと変化したのだ。
「私は大悪魔べリアル。魔王軍十二幹部の1人だ。私がこんなことをする理由はこれで分かったか、忌まわしき異邦人め。」
言わずもがな、既にその理由は悟っている。恐らくは、俺を陥れることで魔王討伐を未然に防ぎたいと言った所だろう。
「では、また会おう。」
そんなべリアルの別れの挨拶と共に。彼はアンジェルネさんの姿となり、夜の闇の中へと消えていった。
「クソッ!やられたっ!」
ガンッ!それからしばらくし、俺は悔しさで歯噛みをし、同時に檻も勢いよく蹴った。べリアルがアンジェルネさんの正体なのか、それともべリアルがアンジェルネさんに擬態しているだけなのかは定かでは無いがどちらにしろこれで俺の冒険者人生は終わったも同然だ。
いっそのこと死んでしまいゴキブリとして復活と言う方法を取っても良いが、その場合、人間へと戻る前にべリアルが行動に移れば俺は何も出来ない。第一この檻の中には楽に死ねそうな物は無いし、魔法だって使えないから『ファミリア』でゴキブリに変化して脱出と言うことも出来ない。
この危機を如何すれば乗り切れるのか。そんな考えても無駄そうなことをどうにか編み出そうと頭を抱えていると、後ろから見覚えのある声がした。
「ねぇ、悠人ぉ。」
「ん?」
俺はひとまず考えるのを止め、後ろを向いた。と、べリアルが居たところに今度はルナがいた。
「おい、ルナ。お前、何してるんだ?」
「見てわからないのぉ?脱獄を手伝いに来たんだよぉ。」
「そうか。気持ちは有り難いが、あいつらの許可は取ってるのか?」
「取ってないよぉ。」
「お前なぁ。」
「それより、悠人ぉ。これ上げるからちょちょいとそこのドアを開けちゃってぇ。で、私たちで館まで逃げるんだよぉ。それか、2人で愛の逃避行って言うのもありだよぉ。」
「もう突っ込まないぞ。」
そう、こんな状況でツッコミを入れられる訳など無い。俺はそう締めて、彼女の片手を見るとそこには鍵の代用と思しきクネクネの針金があった。
「じゃぁ、外で隠れて待ってるから出たら言ってねぇ。」
ルナはその針金を残して、何処かへと消えた。だが、月はまだ南には無い。こんな早い内から脱獄などは不可能である。しかも、鉄格子に設けられたドアには南京錠が掛かっているものの鍵穴などは見当たらない。そもそも、鉄格子に腕が入らない。
「こんなの無理ゲーじゃねぇか。まぁ、ルナがこんな前向きに考えてくれて素直に嬉しかったが。」
俺はルナに対して初めて本気の微笑みを見せ、次に針金を外へと放り投げた。
それから少し経った後。外にいるルナは夜の冷え込みに1つくしゃみをした。
「何なのぉ、このデジャビュはぁ?」
そんな彼女はそわな物を感じていた。俺がもしルナの立場なら、確かに見たことあるのだと思ったであろう。
そして、その次の、またその次。その日、俺は裁判に掛けられた。形式的には民事裁判と刑事裁判の中間。俺は被告人席で手錠を掛けられ立ち、弁護席には言っちゃ悪いが素人の4人、対する検察席は聡明そうな方や厳格そうな方などいかにも玄人と言った感じである。その隣には訴えを起こしたアンジェルネさんがいる。そちらを見てみると、薄ら笑いで返された。彼女が魔王軍幹部などと言う失言は控えた方が良さそうである。
しかも、傍聴席からの敵意ある視線は痛い。どうやら何かの間違いだと信じてくれているらしいカウンターの人以外から、四方八方からその視線は飛んでくる。なるほど、今から俺は「人生オワタ\(^o^)/の大冒険 for ANOTHER WORLD」のスタートボタンを押すわけか...。そんな俺の心は既に折れてしまっていた。
と、カンッ!カンッ!領主の隣、その席に座る裁判長が小槌を叩くと共に、
「これより罪状性犯罪、被告人名新嶋悠人の裁判を始める!」
と裁判開幕を宣言した。
ここはまさに四面楚歌。ルナらの弁護もこればかりは頼りが無い。しかも、検察側は見るからにベテラン。傍聴者も味方をしてくれる様子は無い。そんな最悪の状況で俺は裁判と言う名の地獄へと1人放り込まれるのであった。




