#54 狂戦士の力が恐ろし過ぎた件
戦士たちを乗せたウォーターラン。そいつらは水の上を高速で滑り、5分も経たない間に離れのクレーター島、その砂浜へと辿り着いた。戦士たちはウォーターランから降り、
「ありがとう。」
とウォーターランの頭をかき撫で、魔法陣の中へと戻していった。
そして、金髪の大神官の指示の下、2手に分かれて海岸沿いを 回る。だが、召喚主らしき人はおらず、元の場所へと戻ってきた。
「これは主は島に潜伏している臭いな。」
1人の戦士が言う。次いで、みんなが賛同する。それを見て、前衛の戦士たちが先に島の中へと進み、その後、後衛の大魔法使いと大神官とが順に進む。
スパッ!スパッ!スパッ!と、戦士たちが片手の剣で無造作に生え揃った草を払っていく。その際、気持ちの良い小音。斬られた草は地面に散らばり、獣道のような物が作り出されていく。と、そこへ何者かの奇襲。その首元には小さな『隷従の首輪』が着いている。
と、グジュッ!鈍い音がした。それに気付いて一斉に戦士が振り向く。すると、見えてくるのは血を流して倒れる女の大魔法使いと、その体をナイフで弄ぶゴブリン。少し遅れて、
「いやぁぁぁっっっ!」
と悲鳴が聞こえ、彼女は暴れつつ地面をかきむしり始める。全身に痛みが走ったのである。が、それでも杖をしっかり握り、奴等に魔法を一発打ち込もうとした。だが、その前に思いっきりゴブリンに踏みつけられ、それは折れてしまったのである。
「いやっ、やだっ...!いやぁぁぁっっっ!」
大魔法使いはやり大きな悲鳴を上げ、暴れ地面をかきむしり始める。その悲惨と驚愕の様子に硬直していた戦士たちも直ぐに戦闘体勢に入る。ゴブリンは裂かれ、燃やされ、電撃を受ける。そんな状況下のゴブリンたちに成す術など無く、やがて全滅に陥る。その瞬間、金髪の大神官が倒れる魔法使いの元へと行き、「パーフェクトヒール」を唱えた。だが、傷が癒えただけで、動き出す様子が無い。まさかと思って神官が口元に耳を近付けるともう息をしていなかった。
「そんな...。」
彼女の目から輝きが失せた。
その後も、数々の召喚獣が彼等へ襲い掛かり、着々と数も減っていった。その末、島の中央へと到着するがその頃には既に初めの半数も残らないほどに減っていた。しかも、彼等は飛んでもないことに気付いた。とは言え、町の者は気付いていることであったが。
「ミノタウロスが居ない!?」
なんと、そこにあった封印の間には結界石の欠片が散らばり、そこからはかのミノタウロスが完全に消え失せていた。と、戦士1人が地面に倒れ伏せた。その腹には深い傷が出来、鮮血が地面へ広がった。それを境に次々と戦士たちが倒れていき、最終的には金髪の神官を含む大神官2人に大魔法使い1人、戦士2人となった。
と、そこへ深紅の輝きを纏う黒染めの鎧。それを身につける1人の男。その手には、同じく深紅の輝きを帯びる剣。
「ま、魔剣持ちだっ...!逃げろっ!」
それを見るなり残る戦士の1人が叫び、海岸へと走り始めた。だが、男の足は速く、先回りされた彼はその首を跳ねられた。次々と散らばる生き残りたちも倒され、最後は金髪の神官のみとなる。
男は彼女へ後ろから飛び掛かり、剣を振る。キィィィン!島に響く金属音。そこには障壁があり、一瞬怯んだ。それを見て彼女は全力で逃げ出し、男は障壁を斬り砕く。と、そこで
「テ...テレポ、『テレポート』...。」
まだ息絶えていなかった大魔法使いが最後の力を振り絞って、詠唱を行った。すると、神官の足下に白い魔法陣が現れ、気付けばリヴァイアサンがあちらこちらで倒れるあの海岸へと転移していた。
「それにしてもあの最後の女。やけに、前魔王を倒したパーティの大神官に似ていたな...。」
クレーター島にて。地面に転がる血だらけの死体、それらに囲まれ空を見上げる男。彼は何やら物思いに更ける。鎧は黒から金に変色し、陽の光を反す。彼は魔王軍の幹部。人々は男を狂戦士と言った。




