#5 女の家がどう考えても監獄な件
ボトン!ボトン!ボトン!と、日に日に、ゴキブリは増えていく。ただでさえ、繁殖力がヤバいって言うのに、こんなに大量にいれば、子供もたくさん生まれる。そうなりゃ、すっごく、吐き気がするし、いずれ、水槽もいっぱいになって、圧死は免れない。
「マズい...。このままじゃ、本当にマズい...。」
俺はそう呟き、蓋の下に張り付いた。ハッーハッハッハッ!この物好きめ!特殊性癖め!次に、新しいゴキブリを入れようと、蓋を開けた時、お前の負けは決まる!さぁ、いつでも来やがれ!
そして、噂をすれば、女は新たなゴキブリを持って、こっちの向かって来た。
「よっしゃ!来い!」
すると、トン、トン!トン、トン!俺の張り付いた所を、蓋の上から何度もつついてきた。しばらく、俺は張り付いていられたが、やがて、耐えきれなくなって、下に落ちた。
「いでっ!」
俺は悲鳴を上げる。それから、体を起こして、女を見た。
「手間かけさないでよ、全く。ねぇ?ホイホイ?」
あ~、「トッカータとフーガ」が聞こえる~!不幸だぁぁぁぁぁ!
ていうか、スキルを使えば良かったんだ!俺は今更ながら、思い付く。クソッー!どうして、もっと早く思い付かなかったんだ?俺のバカ!俺は自分を攻めながらも、真剣に脱出作戦を考え始めた。
まず、「カサカサ」であの女を怯ませる。その内に、「ハイスピード」で蓋に張り付き、つついてきたら、「ハイスピード」で避け続ける。それから、「ハイド」で隠れ、ドアの隙間から外へ出る!完璧な作戦だ!さっすが、俺!俺は恥ずかしながら自画自賛した。
そんなこんなしている内に、女は新たなゴキブリを持ってやってくる。俺は、彼女をギリギリまで引き付ける。そして、
「『カサカサ』っ!」
と唱える。しかし、ゴキブリ大好き女には効かなかった!
「クソッ!『ハイスピード』!」
俺は、瞬時にして蓋に張り付き、彼女が蓋をつつこうとすれば、それを避け続けた。
「手間かけさせないでって言ってるだろうがっ!『スマッシュ』っ!」
彼女はそう言って、蓋を殴る。すると、蓋は粉々に砕け散り、水槽にも亀裂が走った。
「『スマッシュ』とは怒りと屈辱を乗せた強き拳のこと!ガラスぐらいなら簡単に粉砕出来る!」
何それ、恐い!ほんっと、恐い!だが、これはチャンスだ!俺は空中で状態を起こし、「ハイド」を唱えて、「ハイスピード」でドアまで一直線。
「悪くない考えね。ホイホイ、あんたは相当、知力があるんだね。でも、人間に勝てるわけがないわ!『プリズン』っ!」
女はそう唱える。しかし、俺は知るよしもなく、ドアの隙間へ一直線。そして、ゴチーン!俺は、何かにぶつかった。俺は、軽い脳震盪状態となり、しばらくは目がおかしくなった。ただ、何故か女のほくそ笑む顔と、残忍な目だけはくっきりと映っていた。
その後、俺はいつの間にか元通りになっていた水槽に戻され、目が覚めると、俺をゴキブリが囲んで、
「おい、大丈夫か!?」
と心配してくる。俺は、
「大丈夫だと思う...。」
と答える。畜生!何が悲しくて、俺はゴキブリたちに心配されなきゃならないんだ?まぁ、俺もゴキブリだけど!て言うか、ここは監獄か何かですか!?一生、お世話になる自信しかないんですが!
「不幸だ...。」
そして、結局、俺はそう悲観するのだった。