#47 暗闇の豪邸内を彷徨った件
「『スマッシュ』っ!『スマッシュ』っ!『スマッシュ』っ!」
俺は人形を殴って殴って殴りまくり、吹っ飛ばしては吹っ飛ばす。ゲシッ!ゲシッ!ゲシッ!一方、アリシアは杖で地面に叩きつける。
そんなこんなで、俺たちは人形たちを退けながら、ルチアの部屋の扉前へ。
「この中にも人形がいる可能性がある。開けていいか?」
俺はアリシアに一応聞いておく。すると、
「私のような天才は如何なることにも動じない者よ!覚悟は初めから出来ているわ。」
嘘つけ!さっき、甲高い悲鳴あげてたくせに!てか、今、天才は動じないと言ったよな?つまり、動じたお前は天才じゃないつまてことだよな。俺はドアノブに手を掛けつつ、
「こんな時に墓穴掘るんじゃねぇよ。自虐ネタは辛いだけだぞ。」
と言う。
「ちょっと、待って!それどういうことっ!?」
少しの沈黙の後、アリシアがしかめ面をした。俺はそんなことも構わず、勢いよくルチアの部屋の扉を開けた。バタァァァッッッン!大きな音の後、俺は部屋を見渡した。そこには、ルチアの姿は無く、月光が空のベッドまで差し込むだけであった。
「いない!?」
部屋を見て驚愕を露にする俺の声と、
「う、う、う、う、嘘でしょ...。」
廊下を見て恐怖を露にするアリシアの声が盛大にハモる。
あまりにもアリシアの声が震えていたので、俺は取り合えず部屋から目を離し、廊下の方を見る。と、彼女の目先にはさらに増えた人形たち。奴等は、
「フフフフフ...。」
「フヒヒヒヒヒ...。」
「フハハハハハ...。」
と不適な笑い声を上げながら、こちらへ向かってくる。さらに、部屋の奥。ガン、ガン、ガン!ガラララララ...。窓が叩かれる音に開けられる音。
「へ?」
俺は部屋の窓の方へ目を向ける。
「フヒヒヒヒヒ...。」
「フヘヘヘヘヘ...。」
「ホホホホホ...。」
そこには不適に笑む、人形たち。その数はあっちに勝るとも劣らない。
「おい!あっちからも来るぞ!」
俺は窓の方を指差しながら、アリシアに言う。すると、彼女の震えがさらに増した。
「え、え、え...う、嘘?」
しかも、目元はわずかに涙で湿っている。天才は如何なることにも動じないんじゃなかったっけ。やっぱり、墓穴堀りしてじゃねぇか。俺は目を細めながら見つめながら、
「マルチファイア!」
と唱え、部屋の人形を一部焼き落とした。
それから、俺はこれでもかと震えるアリシアの手を掴んで引っ張り、
「『マルチファイア』っ!」
幾多の人形を幾多もの火の玉を焼き落とし、
「『スマッシュ』っ!『スマッシュ』っ!『スマッシュ』っ!」
幾多もの人形を幾度もの拳で吹っ飛ばしていく。
だかしかし。その末、俺は急にクラッと来て廊下の上に倒れ伏した。
「うっ...。魔力が...。」
ったく、こんな時に魔力切れとか不幸過ぎだろ。てか、スキルの使い過ぎで魔力切れノックアウトととか俺、ダサ過ぎ。
「大丈夫、悠人?ねぇ、悠人!」
薄いくなった意識の中、己を呼ぶアリシアの声がボヤけて聞こえる。俺はその声を耳に、地面を這い空き部屋へと進み、アリシアに扉を開けてもらい、彼女とともにその中へ。
「『マジックシェア』っ!」
そこで、アリシアが自らの魔力を犠牲にし、俺にそれを分け与えてくれた。お陰で俺は動けるようになり、しかも、彼女は全く疲れた様子も無く、ピンピンしていた。さすが、魔導都市の領主の娘。たくさんの魔力を分け与えても、まだあんなにも余裕があるのは流石である。だが、これを口に出してしまうと、彼女が調子に乗ってしまう。ので、俺は言葉を心に留めた。
と、ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドン!扉を叩く音。
「ひっ!ゆ、悠人!」
こいつ、天才気取りしてるけど、ただのビビりじゃん...。俺そんなことを思いつつ、扉を勢いよく開けた。もちろん、俺だって怖くて力んでしまったのである。バタァァァン!その時、何やら手応えを感じた。俺は扉を閉め、そちらを見る。すると、そには顔を押さえるルナがいた。うわっ、やらかした...。
「あの、ル、ルナ?今のは本当にごめん...。」
俺は反射的に謝った。すると、ルナは暗い顔でフラフラしながら、
「ゆ・う・と・ぉ?」
と両肩を掴んでくる。
「はいっ!」
俺は恐怖で体をビクらせつつ、返事をする。と、ルナが言ったのは、
「悠人はSMプレイが好きなんだねぇ。」
であった。絶対に有り得ないな。俺はルナの頭にチョップをお見舞いする。すると、強くし過ぎたのか、彼女は地面に叩きつけられた。
「痛っ!痛っ!」
彼女は初めにチョップ、最後は床衝突。2つの痛みを感じ、そんな声を出したのであった。うわっ、またやらかした...。
俺は倒れ伏したルナに向かって手をパチンと合わせて、
「本当、ごめん。」
と謝り、俺はルチアを見つけるべく、再びアリシアを連れて豪邸内を彷徨う。人形はどんどん増え続けるが俺はスキルの使用を抑えて、人形の壁を掻き分け、掻き分け前へと進む。一方のアリシアも杖で同じことをした。
そして、その行く末。俺は浴場から出て来たルチアを見つけた。
「どうしたんですか?こんなに遅い時間に?」
いや、それはこっちの台詞だ。何で、こんな遅くにまた風呂に入るよ?俺はそう疑問に思いながらも、
「何か人形みたいな悪霊が俺たちを襲ってくるんだ!」
と言う。と、あちらから不適な笑い声。その次の瞬間には俺たちの目の前まで来ていた。
「ギャァァァッッッ!」
「いやぁぁぁっっっ!」
俺とアリシアの叫びが響く。
だが、ルチアは少しも恐怖の色を見せず、勇敢にも俺たちの間を通って、前に飛び出し、杖を翳し、
「『デリートアンデッド』っ!」
と唱えた。すると、杖から青白い柱が放たれ、人形たちを殲滅。さらに、
「『デリートアンデッド』っ!」
とも唱えた。すると、辺りが青白い光に包まれ、一度眩しく輝いた後、段々収まっていき、最終的には元の暗闇に戻った。
その後、人形の悪霊は俺たちの前へ現れなくなった。俺とアリシアは、「おやすみ」を言ってから、それぞれの部屋のベッドに寝そべった。それは午前4時過ぎのことであった。俺たちは1時間も豪邸内に彷徨っていたことになる。
そこためなのか、睡魔は直ぐに襲い掛かり、俺は静かに鼾をかき始めた。俺にとってはこれが熟睡した、と言うことである。
そして、次の日。目が覚めたのは午前11時30分頃であった。俺は眠気眼のまま、目をこすりながら、扉を開けた。同じぐらいでルナやアリシアも部屋から出てきて、3人で1階のダイニングキッチンまで歩いていった。
その中途、地面に転がるあの人形を見つけたので俺は持っていった。その人形は可愛らしく、昨晩のような面影は何処にもなかった。
そして、食卓には食パン2枚ずつとサラダが1皿ずつ、さらにソーセージ3つずつが置かれていた。この朝食はルチアが作ったらしく、俺たちは期待しつつ、それらに食らい付いた。彼女の料理はその期待に応えてくれた。サラダはフレッシュ(それは野菜の品質のお陰もあるかもだが)、さらにパンの焼き加減はパリッと抜群(もちろんそれは食パンの品質のお陰もあるかもだが)、ソーセージはプリプリジューシー(やはりそれもソーセージの品質のお陰もあるかもだが)であった。とにかく、ルチアの作った料理には期待通りの美味しさがあるのである。




