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#46 真夜中の人形が怖すぎた件

 午前3時頃。月が西に傾くこの時間。夢の中で崖から落っこちた俺は勢いよく起き上がった。鼓動は激しく、息は荒い。と、言うより息苦しい。俺にとっては珍しさの「め」の字もない、そこそこの恐怖を感じる、在り来たりな悪夢であった。

 そして、俺はふと辺りを見渡した。すると、ドサッ!何かが落ちた音がした。俺はビクッとなり、恐る恐るそちらを向いた。そこの床に落ちていたのは、幼ない女の子の姿をした人形であった。いわゆる、フランス人形である。

「人形か...びっくりした...。」

俺は安堵のため息をつく。大丈夫、あの人形は昼間に見た奴だ。俺は昼間のことを思い出しながら、そう自分に言い聞かせた。

 その束の間のことであった。人形が首を不自然な向きへ動かしこちらを向いた。その目が窓から差し込む月光を反射して青白く光る。

「フヒヒヒヒヒ...。」

その人形が不気味に笑う(ようにしか見えなかった)。何その不自然な首の動きは!?中国雑技団か、あんたは!

「フヒヒヒヒヒ...。」

また、不気味な笑い声。ひ、ひぇぇぇっっっ!

 俺はすかさず布団に潜り、耳を塞いだ。な、な、な、な、何だ、おの人形!?昼間はあんなに可愛らしかったのに、夜になったらいああなんのかよ!?テンパり始めると焦りのせいか体が熱くなってくる。しかも、布団の中なので熱が篭ってさらに暑い。俺は耐えきれなくなって、布団を取っ払ってしまった。

 「フヒヒヒヒヒ...。」

「フヘヘヘヘヘ...。」

「ホホホホホ...。」

「フフフフフ...。」

「キャハハハハハ...。」

と、不気味な笑いの大合唱。俺はまさかと思って下を向いた。そこには、さっきのと同じ人形が1つもこちらを向いて立っていた。こ、これがあの爺さんが言ってた悪霊か!こんなにいるってことては、昼間ルチアが悪霊退散した時はいなかったってことだよな...。

 「ギャァァァァァッッッッッ!」

考え事を終え、我に返ってくると、目の前にフランク人形が現れた。俺はそんな叫び声を、奴等には実体が無いことをわかっていながら、

「『スマッシュ』っっっ!」

と拳で殴りにかかってしまった。まさに、暖簾に腕押し、豆腐に鎹、糠に釘。そう思っていたのだが、違った。なんと、人形は俺の拳を受けて、棚の方へ飛んで行ったのである。

 「行ける!」

それを見て俺はガッツポーズ。そして、

「『スマッシュ』っ!『スマッシュ』っ!『スマッシュ』っ!『スマッシュ』っ!『スマッシュ』っ!」

と「スマッシュ」を連呼し、奴等をどんどん吹っ飛ばしていく。そうやって、俺は自分の部屋の中の人形たちを殲滅。そのまま、勢いよく扉を開け、廊下へと出た。

 「フヒヒヒヒヒ...。」

「フヘヘヘヘヘ...。」

「ホホホホホ...。」

「フフフフフ...。」

「キャハハハハハ...。」

すると、後ろからの笑い声。俺は恐る恐る振り返る。案の定、人形たちがそこにいた。しかも、さっきより圧倒的に数が多い。

「めっちゃ増えてるし!」

俺は廊下を走った。それは、決して学校でしてはいけない過ちであった。でも、仕方ないじゃん!怖いんだから!俺は全速力で廊下を走った。何なんだ!あいつらは!何なんだ!このどこかで見たことのあるベタな展開は!

 そう心が叫びたかっている。だが、叫び声は上がらない。そやな俺は一番奥のルチアの部屋を目指していた。もちろん、速度を弱めるつもりなど微塵も無い。

 「いやぁぁぁぁぁっっっっっ!」

束の間。後ろでアリシアの悲鳴が聞こえた。俺は急ブレーキと共に、腰を捻り、

「『スマッシュ』っ!」

と唱え、強行突破の策を取り、彼女の方へ。すると、そこには人形たちに襲われるあいつの姿があった。

 「『マルチファイア』っ!」

俺は思わずそう唱える。すると、たくさんの火の玉が飛んで行き、たくさんの人形を焼き尽くした。そして、最後の1つ。俺は走り幅跳びのように飛び、左足着地と同時に、

「『スマッシュ』っっっ!」

と右拳を前へ。その最後の人形は吹っ飛んでいった。

 「もう少しで『バーニングブラスト』を放ってやるところだったわ。ありがとう。」

えっ?「バーニングブラスト」ってあれ?ケンタウロスが来た時にあの人が使ってたあの魔法?あの破壊魔法を屋敷の中で使いかけたってのか、こいつは!?俺は取り合えず、

「おお。当然のことをしたまでだ。」

と言うが、本音はは遅くならなくて良かった、のみである。だが、それよりも気になることが俺にはあった。

 「ところで、お前、なんで部屋から出てきたんだ?」

俺は聞く。すると、

「ト、トイレに行きたいの!だ、だから、ルチアに付き添って貰いたいの!」

とアリシア。いや、そんなモジモジしながら、切実に言わんくても!目的は違えど俺もルチアに用がある。

 「そうか。なら、行くぞ!」

俺はアリシアの腕を掴み、無理矢理立たせる。

「え?」

彼女が首を傾げる。

「いや、『え?』じゃなくて、着いてこいよ。」

俺は出来るだけ優しく言ってやる。

「うん!」

アリシアの飛び切りの笑顔。気持ち悪っー!こいつがそんな笑顔とか気持ち悪つー!俺は心の中でそうディスりながらも、人形のことを教えてやる。

 「あの人形は恐らく悪霊だ。だけど、さっきも見た通り、物理攻撃が効いてしまう。お前もその杖を武器にして参戦してくれ。」

「分かったわ。魔法をぶっぱなすのね!」

「違うわ、バカ!その杖で殴りまくれって言ってんだよ!」

「杖は魔法を放つ物であって、殴るものではないわ。」

「今はそんなのどうでも良いから、それで殴りまくるんだよ。」

「だけど!」

「口答えするな!お前が魔法なんて放ったら俺らの5000無駄になるだろうが!」

「悠人は私が手加減出来ないって思ってるの!?悠人は私の天才性を見くびり過ぎよ!」

「このタイミングでいつものお前に戻るじゃねぇ!」

 と、そんな醜い口喧嘩をしていると、奴等は刻々とこちらに迫ってきていた。仕方が無い。俺はアリシアに耳打ちした。

「おい、あのレベル相手に魔法なんて使うか?ただの悪霊だぞ。そんな低俗をお前は魔法でしか倒せないのか。さっき、俺はお前を見くびってと言ったが、一番お前を見くびっているのはお前自身なんじゃないか。あんな低俗、お前みたいな天才なら打撃だけで倒せるだろ。」

と。すると、アリシア。

「わかったわ!」

彼女は正面を見据え、杖を構えた。扱いやすい女で助かった。俺はそんなクズみたいなことを考えながら、右拳を強く握った。

 「『スマッシュ』っっっ!」

そして、殴り1発。真ん中の人形が吹っ飛ばされ、そこに大きな隙間が出来る。その瞬間、アリシアが突っ込み、その間へ杖。そのまま、四方八方振る、振る。そのおかげで目の前の人形たちが全て倒された。

 そんなこんなで、俺たちはルチアの部屋へと突入し、ドアを閉め、鍵も掛ける。それから、ルチアのベッドを見た。しかし、そこに彼女の姿は無かった。俺とアリシアの顔が青ざめた。ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!連なるドアの音。それが部屋に響く中、大袈裟ではあるが、俺たちは人生の終わりを確信したのであった。

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