#32 伝説の勇者が強くも弱々し過ぎた件
「ぎゅわぁぁぁぁぁっっっっっ!」
俺はずっと叫びなから、最後まで走り続けた。棍棒により薙ぎ倒された木が地を揺らそうが、棍棒が直接地を揺らそうが、お構い無しに生き残るためだけに前へ前へと突き進んだ。
そして、やっと森を抜け、そこで俺は茶色いローブをはおった白髪の男に出会った。もちろん、宿屋で遭遇したのはその人である。て、ことはこの人が伝説の勇者って謳われている熊谷和人か?前魔王をたった3人のパーティで倒したって言う。そう思って、俺は聞いてみた。
「熊谷和人さん?」
俺がその人の顔を覗きこもうとすると、その人はフードを脱ぎ、その白く長い髪と深く黒い瞳、髪と同じ色の口髭、顎髭を露にした。部分的に見れば肌は白みを帯びた黄褐色でいかにも日本のお年寄りと言う感じである。一方、全体的に見ればいかにも強そうな老戦士という感じであった。
「そうだ、私が熊谷和人である。少年よ、危ないから少し下がっておれ。」
その人改め、熊谷和人にそう言われ、俺は言われた通り少し下がった。と、その老戦士に超巨大な怪物が迫る。そして、彼に向かって棍棒を振り下ろしてきた。
「危ないっ...!」
俺が言ったその瞬間、あり得ない現象が起こった。熊谷和人は左腰の剣を抜き放ち、そのまま横に一閃しただけであった。その簡単な動きとは裏腹に、奴の棍棒が真っ二つになり、後方へ綺麗な放物線を描きながら飛んでいってしまった。
その刹那、超巨大な怪物は使い物にならない棍棒を熊谷和人に向かって投げつけた。彼はそれをジャンプでかわし、空中で怪物に手を翳す。それから早口で詠唱を始めた。
「数多なる紅蓮の炎よ、汝の力を以て邪悪なる物を焼き尽くせ。『マルチファイア』っ!」
それが終わるとともに、100を超える炎が雨のように怪物を襲った。
ドカ、ドカ、ドカーン!そんな激突音がなったが、怪物はまだ生きている。そいつは炎を振り払い、未だ空中にいる熊谷和人に手を伸ばした。
「握り潰そうと言う寸法か。そうはいかん!」
そう言って剣を横に薙ぐ。すると、5本の指は骨ごと断たれ、ボトボトボトと次に地面に落ちていった。
「『ブースト』っ!」
そして、そう言った瞬間、熊谷和人は前へ。その勢いのまま、今度は首を骨ごと断つ。その大きな首は血飛沫と共に地面へ転がり、次いでその大きな体も前に倒れ、地を揺らす。
その様子に俺は目を大きく見開いていた。何なんだ、あの剣は?何なんだ、あの強さは?そう思った俺は自らの疑問をそっくりそのまま、熊谷和人に投げかけてみた。
その結果、分かったことが3つ。まず、あの剣の正体。あれは、魔剣レーヴァテイン。凄まじい魔力を纏うおかげで斬れ味は抜群。使用者を選び、その使用者が死ぬまでは他の誰にも使いこなすことは出来ない。そして、素質の無い者は使うことすら出来ないと言う。レーヴァテインはそんなややこしい剣なのだそう。
そこで、俺は思った。この人はかなり強い。最強と言っても過言では無い程に強い。実際、前魔王をたった3人で倒したと言う。年を取っているため、かつてよりは劣っているかもしれないが、強いことに変わりは無い。例えるなら、どこぞの最強さんである。そんな彼にもう一度、魔王を倒してもらおう。自分は家でのんびりしよう。外にいるから不幸が一杯なのだ。
と、思ったのも束の間。熊谷和人が地面に横たわってしまった。
「もう動けん...。」
さっきまでが嘘だったかのように、彼は弱々しく言う。その様子に俺の期待は一瞬で消え去り、
「ダメだ、この人。お年寄りだからか知らんがスタミナが無さすぎる。」
と囁きつつ、しばらく呆然としていた。




