#30 あの男がとんでもない奴だった件
俺はギルドの扉を開けた。荒くれ者たちは未だにお祭り気分で酒を飲み交わし、他はその輪から外れえてジュースらしきものを飲んでいるので、あまり目立っていない。中には戦利品を見せあったりする者たちもいるが。
俺はそんな彼らを横切り、ギルドの壁際にあるボードへ向かった。そこには、クエスト系の依頼が印刷された羊皮紙と、求人系の依頼が印刷された羊皮紙が分けて、並んでおり、俺はクエスト系の方へと目を向けた。
羊皮紙に印刷の内、「スライムを5体討伐せよ」やら「ゴブリンを3体討伐せよ」やらの初級クエストが半分を占め、残りの半分は「ラージスライムを5体討伐せよ」やら「ジャイアントゴブリンを1体討伐せよ」やらの中級クエストがほとんどで、「ジャイアントセンチピードを1体討伐せよ」やら「フェニックス1体を討伐せよ」やらの上級クエストはちょくちょくある程度である。
なぜ、それらのクエストのクラスが分かるのかと言うと、クエストの内容が印刷された、羊皮紙の右下の余白に難易度ごとに色の違う印鑑がおされているからである。ちなみに、金、銀、紫、桃、緑、青、赤、黄、茶、白、灰、黒の順に難易度の高い、合計12段階で、ランクによって依頼を受けられる範囲が決まっている。基準は申告者にあるので、パーティーがいくら雑魚でもOKである。
この世界では黒~白が初級、茶~赤が中級、青~桃が上級、ここには無いが紫~金がそのさらに上、超上級である。この難易度のクエストはもう少し魔王城の方へと行かないと、まず見かけないらしい。
とは言え、俺のランクはF。ほやほやな新参者の冒険者である。それに、パーティーさえいない。他の人に頼むと言う作戦はもちろん使えない。そして、ランクFで受けられるクエストは黒~白の初級クエストだけ。
俺は白の中でも一番報酬の高い「ドワーフゾンビ5体を討伐せよ」が印刷された羊皮紙をベリッと剥がした。クエストの受け方は少し前にカウンターへ羊皮紙を持っていないが人の見よう見まねで、俺もそれをカウンターへと持っていった。ちなみに、報酬は1000コルドである。
「あっ、初めて依頼をう受けになるんですね。」
すると、カウンターの女性は笑顔で言った。その笑顔に俺は頬を赤らめてしまう。さらに、体が熱くなり朦朧としてしまう。しまいには、
「毎朝、俺に味噌汁を作ってください。」
などと遠回しに告白してしまった。全然そんなつもりは無かったのだが、ついその言葉が口から出てしまった。
「それがどういう意味か分かりかねませんが、悪い意味では無さそうですね。」
束の間の、スマイル2回目。俺は頬を赤らめながらも、聞かねばと思っていたことを聞いた。もちろん、あの男のことである。
「あの、昨日、ギルドの横にある宿屋に言ったんですけどね。」
「はい。」
コクッと頷かれる。それだけで、その豊満な胸は縦に揺れた。俺は無理矢理、目を剃らしながらも、話を続ける。
「そこで、一見、凡人に見えてしまう男に会ったんですけど、擦れ違いの時、妙なプレッシャーを感じたんですよ。何ででしょうか?」
その瞬間、相手は驚きの色に染まりきった。
「おの、その人、どんな感じの人でしたか?顔とか髪型とか!」
そう言われて今一度、思い出してみる。あの男は茶色いローブを着ていて顔はよく見えなかったが、長い白髪を肩の後ろに下ろし、繋がった白い顎髭と口髭はとても目立っていた。一瞬だけ見えた瞳は、いかにも日本人らしい深い黒色をしていた。俺は日本のことだけを控えて、そっくりそのまま伝えると、彼女の驚きは絶頂に達した。
そして、彼女が言ったその言葉に俺も思わず、目を大きく丸く見開いた。あの妙なプレッシャーはあの男の「力」が波動として伝わった物、さらに、彼は俺と同じように突如として現れた。
「その人は前魔王をたった3人のパーティーで打ち破った伝説の勇者、熊谷和人さんですよ!たぶ...いいえ!絶対そうに決まっています!」
俺はその言葉に心底驚いたのであった。まず、あの男が勇者であったことに、次に、俺がその勇者と出会ってしまったことに、そして、何よりその名前がいかにも日本人らしい名前だったことに。




