#26 ケンタウロスが完全に精神病者な件
「我はケンタウロスのブケパロス!魔王軍の十二幹部の1人である!せいやっーーー!」
ケンタウロスのブケパロスは両方の前足を振り上げて叫ぶ。彼は岩に立ち、波がそれに砕かれている。そんな妄想を彼はしていた。
「はい?」
みんなが首を傾げる。無理も無い。急に叫び声を上げたのだから。ブケパロスの額からは冷や汗が出る。プルプル震えながら、顔を赤くする。スベッたことに対する羞恥心であろう。
そんな雰囲気の中、ブケパロスは再び、叫ぶ。
「せいやっーーー!」
反応は微妙である。彼はさらに顔を赤くして、三度、叫ぶ。
「せいやっーーー!」
やはり、反応は微妙である。彼はさらにさらに顔を赤くして、四度、叫ぶ。
「せいやっーーー!」
案の定、反応は微妙である。顔の赤さはついに絶頂に達する。それでも、彼は、もう一度、叫ぶ。
「せいやっーーー!」
どう足掻いても、反応は微妙である。その瞬間、彼の羞恥心は怒りへと変化した。
「お前らぁぁぁっ!」
ブケパロスが後ろ足で地面を踏み潰す。馬の後ろ足と言うのは凄まじい力を生み出す。時に、一蹴りで人の命を脅かしかねない。彼が魔王の一味であることもあって、その後ろ足の強さは尋常ではなかった。
その瞬間、大地に亀裂が走り、多くの人が一歩後ろに退いた。俺も後ろへ退いぞきさえしなかったが、ドン引きであった。当たり前である。1人で勝手にスベッて、1人で勝手にキレたのだから。彼は俺たちを指差ながら、一方的に叱りつける。
「おい、お前ら!何でそんなシーンとしている!?」
え...いや、だって面白くないですもん。それぐらい、お察しください。
「魔王様や他の幹部どもは我のこの一発芸で笑ったぁ!なのに、何でお前らは笑わないぃ!この面白さが分からんのかぁ!この下等生物めぇ!」
いや、狩られる運命のあなたの方が下等生物ですよ。それと、魔王と他の幹部にウケたのは、そいつらがおかしいだけですよ。
「結構、恥ずかしいんだぞぉっ!」
じゃあ、もうしないでください。面白くないですから。てか、あなたは精神病者ですかぁ?
「ふざけんなぁ!人の町を勝手に襲っておいて、何様だぁ!」
全員が騒ぎ立てる。ある者はブケパロスに石を投げ、ある者は彼に向かってブーイングを浴びせ、さらにある者は彼を散々罵りまくった。俺は不覚にも彼に対する哀れみを覚えた。そのような一方的ないじめを受けていたからである。まあ、仕方無いと言えば仕方無いのだが。
そして、多くの人が武器を片手にブケパロスに突っ込んでいった。しかし、彼らは返り討ちにあって死んでいった。後ろ足を食らったのだ。その後、彼に戦いを挑んだ者は皆同じ目に合った。
「私に任せてください!」
そんな中、手を横に広げる頼もしい女性が現れた。彼女はブケパロスに片手に持った杖を向け、呪文を詠唱し始めた。
「現に住まいし、全ての炎精よ...。今こそ1つに集いて、爆焔となりてここに顕現せよ!爆ぜよ、邪悪なる者!『バーニングブラスト』っっっっっ!」
最後にスキル名が鳴り響く。他のみんなが目を大きくして、彼女を見ている。どうやら、「バーニングブラスト」を使える魔法使いはとても珍しいらしい。
そして、次の瞬間、大量のエネルギーを放出しながら、炎の球体がブケパロスに激突した。ドゴォォォォォン!と言う爆音とともに、天まで届くほどの爆炎が草を焼き、不自然な程のサークルを作る。光とともに、凄まじい爆風が吹き荒れ、俺の服をたなびかせた。見ると、それを放った彼女は地面に崩れ落ちていた。
「クッソ...。こんな新米の集まるちんけな町に、あんな強者がいることは誤算であった。かなり、効いたぞ。今のは!」
しかし、ブケパロスはこの攻撃を受けてしても、生きていた。どうせ、中ボスレベルだと舐めていたのが間違いであった。ブケパロスはかなり強い。ラスボスレベルでは無いが、少なくともゲーム中盤のボスレベルに達している。あの攻撃に耐え抜いたのだから。
しかし、それでもブケパロスは明らかに弱っている。俺が前に見たゴキブリ大好き女も使ったスキル「スマッシュ」。それは、意外と強い攻撃スキルだったりする。幸いなことに、俺は今、そのスキルを覚えている。少しだが、勝利に貢献出来るだろう。
そう思い至った俺は、みんなの前に立つ。
「あいつは!新人の...!」
「止めとけ!新人のお前が太刀打ち出来る相手じゃないっ!」
「て言うか、前から思ってたんだけど、あの服、変じゃね?」
「おい!変な服の新人!戻って来い!」
や、野次馬が煩い。言っとくけど、あっちの世界ではこれが普通なの!自分のジャージ姿を見ながら、俺はそう思う。そんな怒りを乗せて、俺は右手の拳を強く握って、引きつった笑みを浮かべた。
「良いのか?散々言われているが?」
ブケパロスが聞いてくる。俺は鼻で笑って見せる。
「ヘッ...お前だけには言われたくねえよ。」
そう言ってさらに強く拳を握る。そして、俺はスキル名を口に出す。
「『スマッシュ』っっっ!」
ゴギィィィン!しかし、攻撃は防がれた。ブケパロスがけしかけた巨大な怪物の持う鉄棍棒によって。もちろん、あんな音が鳴ったので、俺の右手に激痛が走った。
「あぁぁぁっ!痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!」
俺は腫れた右手を押さえながらゴロゴロゴロと左に右に地面を転がり続けた。それを見ていた怪物の目が邪悪な輝きを放った。その怪物は棍棒を後ろに振りかぶる。
「えっ?何をする気でござんすか?」
俺は転がるのを止めて、そいつを見据える。そいつは後ろに振りかぶった棍棒を前に振った。
当然のごとく、俺は虚空の彼方へと消えていった。それと同時に、俺は久しぶりにとある叫び声を上げた。
「ゴルフがよぉぉぉぉぉ!不幸だぁぁぁぁぁ!」
と。
でも、あの怪物はきっとプロゴルファーになれる。だって、ナイスショットだったし。俺は知らず知らずの内に、右手でグッドポーズを作っていた。俺はマゾヒストにでも目覚めてしまったのだろうか。そこが一番気掛かりな点であった。




