#191 魔術使いたちのビーチバレーが戦場な件
5体の悪魔を見事打ち負かし、その日から数日たった真夏の日。俺たちは昨年、結局楽しめなかった海水浴のためにリヴィエラの砂浜へと来ていた。
ついでに、エミール、レスター、熊谷さんも着いてきている。エミールは海水浴を楽しむ目的のようだがレスターは明らか水着を見る目的、熊谷さんに至っては楽しむ皆を見て楽しむ目的であった。
さて、ルナ、アリシア、ルチアの水着はそれぞれあの日に同じく白、黒、淡青。一方、いなかった雅は深紅である。
その不純な紅は赤である故に白の肌には映え、しかし、赤とは違うどこか落ち着いた雰囲気も醸し出していた。簡単に言えば、似合っているということ。種類としては皆と同じビキニ型。トップの前側中央には両先に真珠のアクセサリを付けた丸紐リボンが施され、、ボトムは赤いパレオであった。その色と言い、着合わせと言い実に上品で赤ながらに清楚さを感じさせる、お嬢様感ある仕上がりであった。
俺はルナ除く女性陣3人とエミールとで海へと入っていく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方、パラソルの陰で座ったままのレスターは
「皆の水着可愛いなぁ...。特に雅ちゃんはエ...いでっ!」
などと見惚れて、後ろから頭にチョップを食らう。それはこの上なくグッドタイミグのことで犯人は先程、いかなかったルナであった。
「ねぇ、レスタぁ。私が本当のエロスが何たるかってことをぉ、教えてあげるよぉ?」
と彼女は言い、彼の横に座ろうとする。そこへすかさず、
「まぁ、ルーナちゃんはそのままでもエロいと思うが。」
とセクハラ発言。だが、彼女にはこれをセクハラだと捉える能が全くない。
「いや、それほどでもぉ...。」
それどころか照れながらそんなことを言う有り様である。えっ、嬉しいの...?とツッコミを入れたところだが、生憎そこに俺はいなかった。
ちなみに、ルナの言う"エロス"とはサンオイルイベントのことであったらしい。
対する悠人は海を泳ぎながら、水を掛け合う3人の声に紛れて、「あぁっ」だとか「いぃっ」だとか決して甘美などではない変な声がするのを聞いていたが、彼はガン無視することにしたのである。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しかし、その声もいずれは止み、ルナはレスターを率いて海へ入ってきた。しかも、ちゃっかり女性陣3人の胸元を見てニヤリとするという有り様である。まぁ、彼女たちが気付いていない時点で俺がどうこう言うつもりもないが。むしろ、気持ちは分かる、と一定の理解を持っているつもりである。
「皆ぁ。ビーチバレーしよぉ?」
しばらくそちらを見ているとルナが「ストレージ」からゴムボールを出して掲げるのが見えた。ビーチバレーか、定番だな...。てか、テニスはないのにバレーはあるのか..
。そんなことを思いつつ、
「良いわね、ビーチバレー。この際だからアンタのその贅肉、付け根の辺りから削ぎ落としてやるわよ。」
「私もやります。」
「では、わたくしも。」
と参加を表明する彼女たちに続いて、
「俺も。」
も言った。初っ端から男に対して女の子にしてやろうか、物理的にな!(なお、隠喩を使用)級の不穏な言葉が聞こえてきたが、まぁ、削ぎ落とされるのは俺のじゃないしどうでも良いだろう。そう思ってその後はルナに寄っていく。
これで選手は5人。数合わせのためにレスターが自分から名乗り出た。と言うわけで、試合は3on3の形式に、熊谷さんとエミールはレフェリー兼観客となった。なお、15点先取の1ゲーム制にしている。
チームの方は俺&アリシア&ルチアとルナ&雅&レスターである。
それから、先攻決定のコイントス。表は俺ら側、裏ならルナら側でして、裏が出たためにあちらに最初のサーブ権が渡された。サーバーはルナである。
「『ハイジャンプ』ぅ。そして、『パワードストライク』ぅ。」
ルナは思いっきりボールを上投げし、高く飛び上がって落ち際にこれを叩く。逃げた重力の一部がその勢いを加算し、何か知らんが魔力のよる加速もある。
「「「は?」」」
俺たちはまず驚き、勢いよく横切る球を見て戸惑った。もちろん、レシーブなど繰り出せる訳もなくボールがあげた土煙をただ浴びた。やがて止むと、ボールが線の中から線の外へ砂を抉り進んだ跡が見えた。
その後、ルナにスキルまで使った某殺人のソレ級に強烈なサーブにノータッチ3回、レシーブミス1回で合計4点を先取される。だが、ここでアリシアの堪忍袋の緒がプツンと切れた。
「そっちがその気ならこっちだって使ってやるわよ、この贅肉っ!アンタたちっ!こうなったら問答無用よ、スキルをバンバン使いなさいっ!!!『ダイナミック・ビジョン』っ!『ファスト』っ!」
と動体視力強化のスキル。本来魔法使いとは攻撃特化の職だが、身体強化系の初級支援スキルではあれば低コストで習得できるのだ。
このスキルのおかげで俺たちはボールを捉えることができるようになる。だからといってレシーブが決まったという訳ではなかったが、「マジッククリエイション」で作った大きめのグローブがしっかりボールを掠める。これでボールには前回転がかかって勢いは弱まり、
「アリシアさん!」
とルチアはトスで受ける。ボールは高く上がり、これに合わせてアリシアも高く上がる。
「『マルチキャノン』っ!『ジェットストライク』っ!」
さらに前方へいくつか白の輪を重ねその間を縫うように超絶強く打ちつけた。ただでさえ凄まじいボールの勢いは輪を通るとさらに加速し、相手コートの空いている場所へと一直線。
「俺に任せろぉぉぉっっっ!」
と叫んでレスターが飛び出し、何と片手でボールに触れるが、勢いが消えぬまま少し跳ねて、彼の顔面を激突した。
「ぐぁぁぁぁぁ...。」
と断末魔を上げてコートの外へ砂上を滑らせれた。
「大丈夫ぅ?」
「だ、大丈夫ですの...?」
と誰にでも優しい2人は彼に寄っていく。俺は彼が問題行動を起こすと危惧したが、幸いにも杞憂に終わる。ルナが差し出した手を掴んで立ち上がった。どうやら、彼もご立腹のようである。
こうして、ビーチバレー版イナ◯レみたいな現実離れの凄まじい試合が始まった。こちらもあちらに同じく超耐久ボールで今までの超強烈サーブorスパイク×6を受けても無傷であった。
コートとコートとを凄まじく交うゴムボール。
「『ハードスマッシュ』っ!」
「甘いっ!」
「『パワードストライク』ぅっ!」
「『マジッククリエイション』っ!」
「アリシアさんっ!」
「『マルチキャノン』っ!『ジェットストライク』っ!」
「『ディスポーズ』ぅ。」
「わっ...。」
と繰り出される魔術の数々。 だが、その末に後衛のルナが突然走ってきての固有スキルをかますでブロック。巧妙な手口に対処が遅れてあちらに1点が入ってしまった。
これで、1-6。依然としてあちらの優勢である。
だが、そこから俺たちが追い上げを見せつける。
まずはレスターのサーブミス。
「『マッハストライク』っ!」
とか言ってボールは一瞬で線の外にから跡を引く。その時、明らか自分を狙っていたということを見逃すはずもない。
「チッ...。」
と言う彼の舌打ちを聞き逃すこともない。
「おい、レスター!お前、絶対俺を狙ってきただろ!?」
と俺は抗議するのだが、
「そうか...まぁ、わざとじゃないし、『すまない』と謝るしかないが。謝って欲しければ何度も謝るぞ?」
と言われるのである。
「嘘つけ!今さっき、舌打ちしてただろうが!」
「はて?お前に聞き間違いじゃないか...?」
と証拠を突き付けても知らんぷり。女好きであって女贔屓でない彼は雅の、
「いいえ、この方、完全になさっていましたわよ。」
と言う言葉にも耳を貸さなかった。
とは言え、これで2-6。さらに、俺は次のサーブで「ハイジャンプ」からの「シューティングスマッシュ」を繰り出し2連続の得点。ここであちらに1点を返されるが三往復ほどラリーを繰り返した末にルチアが「マザーハンド」で返して1点、こちらにサーブ権を戻してくれた。
「マザーハンド」と聞くと、優しそうな感じがするが、実際そうではない。"マザー"とはあくまで神官・大神官を加護する地母神のことであり、「マザーハンド」とは神の手、つまりゴッドハンドであり、その力は絶大であった。ただし、ビーチバレー版イナ◯レだからと言って某守のキーパー技ではないし、もちろん某半神半人の大英雄が十二の功業を昇華した代物でもない。単に地母神の加護を使って、その腕と同一の力を自分の腕に一瞬宿すだけである(神力を肉体に下ろすことになるだめ、長く宿すと以前グングニルを使った時と同一の現象が発生する)。
という訳で5-7。続くサーバーはアリシアである。彼女はボールを高く上げ、高く飛び上がり、
「『ハンドウィンド』っ!」
と叩くとともにの風魔法。ボールは勢いよく相手コート、ネット真下へ叩きつけられた。
「同じ手は効かんっ!」
そういうレスターはスライディングでボールを受け、あちらも
「『ハンドウィンド』っ!」
高く飛び上がったボールを雅が引き継ぎ叩きつけんとした。しかも、見事に線ギリギリを狙ってきている。
俺はやむを得ず、「マジッククリエイション」で靴を生んでからの蹴りで何とか受ける。そこをルチアの繋ぎ、そしてアリシアが今度は小指から入っての「ポイントスマッシュ」による横回転を使ってアタックを決める。その回転速度は尋常でなく、ネットを超えた瞬間に軌道を翻して何とこちらに戻ってきた。
「ポイントスマッシュ」とは「スマッシュ」の派生型でコストが原形の5倍を要する代わりに、力を一点に集められるために単純な威力で言えば原形の10倍は跳ね上がると言う。
そのおかげで7-7の同点に。続く、アリシアのサーブでも「ポイントスマッシュ」でドライブシュートを決めて1点。次もとは思ったが、三度目の正直で返されてしまう。
その後も凄まじいサーブやラリー、スパイクや三段アタックが続き、得点が入る度に土煙が上がる。もしくは、誰かの顔面に激突する。しかも、ボールがネット上を通過するたびに風も吹き荒れるという始末に、
「も、もうビーチバレーでも何でもないな...。」
「そうじゃな...。もはや、戦場じゃ...」
とエミール、熊谷さんも眉をひそめるほどであった。
ただ今、17-17。もはや戦場と化した白熱の戦いは「デュース」が3回生んでいた。そして、サーブ権はこちらでサーバーは俺である。
そう言えば...と俺は1つ思い出す。某バレー漫画でとんでもないアンダーサーブを見たな、と。確か、椿原の女の子みたいな名前をした彼(小野妹子なんて可愛く見えちゃうほどに)の隠し技である。その名を天井サーブと言った。
俺はそのシーンを細かく頭に思い浮かべ、あの必殺アンダーサーブを、
「『ハイジャンプ』っ!『スマッシュ』っ!」
と魔術の補正も加えて繰り出してやる。ボールは目測で50mぐらいの超高所へと飛び上がり、やがて自由落下を開始した。
「来いぃぃぃぃぃっっっっっ!『フリクション』!」
それを見てレスターが手に摩擦を強化する魔術を掛けてオーバーハンドでスタンバイ。
「ヤベッ!」
と思わず口に出てしまうが、ボールはレスターの落下予想地点を大きく外れ、雅が滑り込みでオーバーハンドを構えるも手を滑って砂に落っこちた。
18-17。次を取れば俺たちの勝ちである。そこで俺は続く止めのサーブは派手な奴を、と提案をした。これにアリシアは応えて「ストレージ」から杖を出す。一方、あちらもあちらで俺の繰り出した天井サーブの対策としてレスターも共に飛び上がり、「ジェットストライク」で逆に得点を奪ってやろうということで固まった。
だが、俺の天井サーブが前提となった時点でそれは仇となる。
俺はまず「マジッククリエイション」で手甲生成・装備をし、アンダーハンドの構えへ。
「アンダー来るぞ...!作戦通り俺が行く!」
と言うレスターの声を聞いてしれっとニヤリとし、続いてボールを投げる時に、一気にジャンプの構えへ。さらに、その時、
「『ライトニングロッド』っ!」
と避雷針の役割をボールに付与。飛び上がったボールに俺が「ハイジャンプ」で触れるとともにアリシアが、
「『マルチエクスプローシブサンダー』っ!」
とボールに爆裂の雷を集めてやる。
「いや、ジャンプサーブだ...!雅ちゃん!ルナちゃん!」
「了解ですの!」
「了解だよぉ。」
とあちらから撤回が聞こえるがもう遅い。
「止めだ!解放ぉっ!」
俺はボールを打つとともにそこに貯まった雷のエネルギーを全て推進力に変えて飛ばした。アリシアの高密度高出力の雷は伊達ではなく、レスターや雅の目を以てしても何かが通った程度にしか感じなかった。故にボールは誰にも触れることなく砂浜へ激突。上がった土煙は今までの中で最も高く、あちらのにもこちらにも砂の雨が降り注いだ。ボールは着地点に深くクレーターを作り、俺たちが見にきた所で破裂した。
「流石にやりすぎたわね...。」
と自分で自分に呆れ、
「あぁ...。」
「はい...。」
と俺とルチアもこれに倣う。確かにこれは派手にやり過ぎた。だが、勝利は勝利。俺たちは奢りを受けることとなったのである。




