#190 色々あって悪魔に一矢報いた件
新嶋悠人は熊谷和人とともにベルゼバブを浄化し、アリシアはルシファーを退けた。そして、その他3体の悪魔もその他3人に一矢報われようとしていたのである。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
例えば、ルナ。彼女は超強化されたサタンの猛攻に「ディスポーズ」と急成長した体力とを以てして何とか持ち堪えていた。ただし、その全身は痣だらけで、簡単な回復魔術しか使えない彼女は所々から血を流してもいる。
「はぁ...はぁ...。」
特に痛む肩を押さえながら、たった今、奴の突進攻撃をかわしたばかりのルナはゼェゼェ息を切らす。
「分からぬ、我輩を相手してなぜ未だに立ち上がれる。守るべきものでもあるのか、女よ。」
「守るものなんて自分の命ぐらいだよぉ...。そのためにあなたと戦う必要があるだけだよぉ。」
「ほぅ?貴様、よほど死に急ぎたいようだな...。ならば、貴様は優しくゆるりと殺めてやろう。苦痛を味わうのもまた一興であろう?」
「まぁ、私はMだけどぉ...。それは違うわぁ。」
不穏な言葉にルナはテキパキ返し、再びサタンは突進した。すぐにルナは「ディスポーズ」の構えを取るが、
「ディスポ...うぅっ...!」
と言いかけたところで横腹に強烈な蹴りを食らって吹っ飛ばされる。
彼女は腕から入って足も一緒に勢いよく地面を滑ってたために肌が露出した部分の表皮はまるごと剥がれてしまった。
「つっ...。」
ガクッ...。立ち上がろうとはするが、激痛が迸り虚しく体勢を崩してまた倒れる。趣味の悪いことにサタンをこれをしばらく眺めてから、彼女に近寄り、彼女の頭を地面に打ち付けるのである。
「うっ...っ...ぅう...くっ...。」
当然のことながら彼女は痛みに呻き、血が飛び散るのである。
だが、そこへ1人の救世主が現れた。
「ドラゴンスレイド!」
ルナの方から突如として響く男の声。刹那、サタンの目前に槍が現れ、奴は咄嗟に手を十字に首を庇ってそれが首を突き刺す寸前で防ぎきる。だが、何者かの攻撃はまだ止まない。今度は、
「『レイン・オブ・ファイア』っ!」
と聞こえて、無数の焼夷の矢が降ってきた。
「くっ...。」
その余りの量に奴はやむを得ずその場を離れた。やがて、矢は止むのだが見事、ルナにだけは着弾がない。
そうして現れたのはエミールその人であった。彼は倒れる前の彼女に立ち塞がり、
「おい、クソ悪魔。貴様にはルーナを虐めた大罪を、貴様のその罪とともに贖ってもらわねばな...。由、こいつは悪魔風情が手を出していい女ではない!」
とサタンを睨み付ける。
「フハハハ...偽善者が!貴様も魔王軍幹部としてそこの女に手を出したはずだぞ?」
だが、魔界から常に愉悦を求めて人界を眺めていたサタンには武器があったのである。愉悦を欲するところといい、悪趣味なところといいどこか「運命」におけるエセ神父を彷彿とさせる感じである。
だが、エミールはそんなエセ神父みたいな奴の言葉にも怯まなかった。
「偽善者だと?そんなものはとっくに心得ているわ!だがな、クソ悪魔、善の真偽なぞ今はどうでもいい。これが善であろうと偽善であろうと、女を守り貴様を殺すことに変わりはない!それが叶うというなら、俺は喜びて偽善を成す!縛れ!『邪王の死棘』っ!」
そう言い切り、木々からサタンに黒の針が飛びその四肢を強く縛る。
「こ、これはベリアルの...!なぜ、人間風情がっ...!」
その身動きは完全に封じられ、動かせるの口ぐらい。だが、
「黙れ。」
とエミールが言うと、首まで絞められ奴の口から漏れるのは呻き声のみとなる。
「エ...ミールぅ...?」
「遅くなってすまないな、ルーナ。悔しいが奴の言う通り、俺は偽善者だ。だが、俺がお前たちを手にかけたのは本意ではない。」
未だ倒れるルナにエミールは言って一種の毒を渡してやる。
「すまないが、回復魔術というのは俺の専門外でな...。今は回復薬もない。今あるのは痛覚を一時的に麻痺させる毒薬のみだ。ここは俺に任せてルチアちゃんの元に行け。」
そう言う彼は後ろめたさそうな顔である。ルナは何の疑いもなくこれを飲み、
「苦ぁ...。」
と言いながらも、痛みが消えたために彼女は立ち上がる。
そこから少し進んでアリシアに合流し、アリシアの応急処置の後、テレパスストーンを見ながらルチアの元へ向かうのである。
そして、彼女を見送ったエミールは目を瞑り、地面に右手を付け、前に向けまま魔剣を後ろに。剣に魔力を流すと、その刃は呼応するかのように白く輝き、炎に包まれる。
「貴様、何をする気だ!?」
たった今、邪王の死棘を振りほどいたサタンは身構える。だが、彼は答えない。そもそも、耳に届いていすらいない。
「裏面制御、解除。朱雀...。」
答えず、エミールは言う。彼が目を開け、全身を炎に包み、急加速して奴の胸を貫くまではコンマ1秒分も要さなかった。
「な...に?」
と振り向くサタン。やがて、エミールが降りて地面を滑るのを見、次に胸の穴から広がる炎を見、あの日のベルヘェゴールのようにして消えていく。全身を炎に包み、一瞬にして何者も寄せ付けぬ直線を描く。それが魔剣グラムの秘技朱雀であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方、雅。マモンの強欲の財を見切ったのは良いものの、接近戦に持ち込めばやはり剣の雨で距離を取られるのである。
「(あぁ、もう...!大きな隙でもあれば白虎で一発ですのに...!)」
雅は降り注ぐ武器や放たれる魔弾を処理しながらそんなことを思う。思いながら、
「『シャインバレット』っ!」
と光の球を連射。これを奴は使い捨て前提で盗品の盾わ前に出して、予定どおりこれを犠牲に全て防ぎきり、続いて一気に距離を詰める。翼に今付けた装置の効果である。
「なっ...!?うぐぁっ...!」
その超速は常人を超える動体視力の彼女にも捉えられず、勢いで威力の嵩んだ手甲が彼女の鳩尾を殴打する。何とかその前に魔力の膜でそこを保護したお陰でダメージは減ったが、痛みはかなり走って、そのまま向こうへ。
「ふ、不覚を...。」
と言ってる内にまた突進。だが、手の内が分かった以上は術がある。
「『ブースト』っ!『エンゼルレイン』っ!」
加速と慣性で奴との距離を保ち、光の雨で面制圧。翼をやられては元も子もない奴は動きを止め、ここで奴は装備の使用が不可となる。
そこで一瞬硬直したその隙、雅は飛び出し剣を振り上げる。だが、そこへ1本の巨大な刃。
「うぅぐぅっっっ...!?」
彼女はこれを腹にまともに食らい、余る勢いで刃に血の横筋を残して少し進む。その度に血は弾けて、口からどくどく血が垂れる。
「い、痛い...です...わ...。」
だが、動けば内蔵が抉れるのは目に見えていて、彼女にできるのは歯を食い縛って痛みに堪えることだけである。
そこへマモンは1本ずつ射出していき、
「うっ...くぅ...ぐぅ...くぁっ...くっ...。」
と苦しむ彼女の顔を愛でて楽しむである。既に辺りは雅の血でまみれ、酷い貧血で意識を失いかけていた。
「でも、これは待ちに待ったチャンスです...わね..。」
人は苦しい時こそその本性を現すと言うが、彼女の場合、それは"心の強さ"であった。
「何だ...?」
と思ってマモンがこちらを向いている内に雅は秘技の構えに入り、
「裏面制御、解除。秘技・白虎!」
と言って傷口が開くのも構わず剣に沿って進み、柄の所で一撃目。その延長線上で奴も斬り、振り向く暇も与えず切り刻んで奴を倒してしまう。
もちろん、この後、彼女は「ヘルス・オブ・ディバイン」で失った血を戻し、体を貫いた大きな怪我も全て治すのであった。
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そして最後は、ルチア。彼女は奴の「フィンの豪雨」を障壁で防ぎ、立て続けの打撃を食らい、痣を現しながらも何とか意識を保っていた。
「『マルチファイアバレット』っ!」
とそこへ不意に炎の連射。ルナとともにアリシアが現れたのである。見ると、ルチアは察してルナに
「『ハイネスヒール』。」
と高めの回復魔術を。
「フィンの豪雨。」
とそこへ奴の攻撃が来るが、アリシアがあの時のように、
「『マルチレイジバースト』っ!」
とこれを全て弾き返し、ルチアに悪魔拘束の指示を出す。これを聞いて、
「分かりました。相手は上級悪魔ですし数秒しか持ちませんが...。」
「それだけあれば十分よ。お願い。」
これにアリシアはさらに言う。
「では、『ホーリーチェーン』っ!」
ルチアが唱えると彼女の周りに光の鎖が現れ一瞬、奴の動きを止める。その数秒の内にアリシアは奴へ杖を向け、
「悪魔よ爆ぜよ、『バーニングブラスト』っ!」
と高速詠唱。実は事前に破れた服の布から魔術触媒を作り出し、ここに「Minerva」と記していたのである。アリシアは唱えると同時に、これを象徴として女神ミネルヴァの神性から魔術を引き出し詠唱を短縮するという荒業を成功したわけである。
ドガァァァァァッッッ!
と大量の魔力を含み、ミネルヴァの加護もあって強化された巨大な火球はその分、膨大な爆裂を引き起こしまともに食らった
レヴィアタンは、
「ぎゃぁぁぁぁぁっっっ!」
との断末魔とともに脱落するのである。そこでアリシアの魔力は尽き、触媒が砕けて意識も飛ぶ。ルシファーとの一戦、そして神性を引き出す象徴術式と要魔力の高い「バーニングブラスト」との同時使用。いくら魔力量、魔力回復量がかなり優れるアリシアも浪費し過ぎたようだった。
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5体の敵方は1体無力化、1体浄化、残る3体脱落で全滅。対してこちらは魔力が尽きた者2人と大怪我を負うも癒えた者2人、1人は自分で自分の傷を癒し、残る2人はピンピンしている。
バラバラにされてどいなるかと思ったが熊谷さんとエミールの加勢もあって俺たちは長い戦いを大勝利というか形で納めることができたのであった。




