#189 アリシアの大魔術が悪魔に牙を剥いた件
同じ頃、アリシアの方も対峙するルシファーを退ける一歩手前にまで来ていた。それも全て自力で、である。やはり、アリシアは「天才」と言われても異論はない逸材であり、それをこれみよがしに自画自賛してしまうから冷めていただけなのだ。
度重なる生死の交替、終わりなき苦痛の猛威。彼女はただ生き地獄を味わいながらも、その中で奴の傲慢たる創造の無から有を作り出せない点よりも致命的な弱点がわかるようになっていた。
「『マルチファイアシュート』っ!」
アリシアはルシファーから走って逃げながら、無数の炎を発射。
「数多の炎よ、等しく術者に返るがよい。」
これに奴はそう言い、これを反射。だが、これをしたのは炎と奴の距離がそれなりに近いときである。
「(やっぱり...あの力、効果範囲があるようね。)」
そう心で推理的中を確信しながら、「アイスウォール」を発動。ほとんどが炎で水に還元したか、防ぎきることはできた。その内にアリシアは、
「テレポート!」
と言って白の光に包まれ、その場から消え、グリモア南西に佇む標高第二位にして魔力産量第一位の霊山、ソロモンへと再び現れた。
彼女が消えたのを見てルシファーは、
「追跡の羅針を我が手に。」
と自身の掌で根源を指定しこれを針で指し示す魔道具、根源針を生成。紫電に輝くその先は見事、ソロモンの方を指していた。
ちなみに『根源』とは万物が有する魔力の源流であり、生物類にとっては本質的にして特異的な魂の性質でもある。ただし、遺物や旧物には魂が宿ることがあって、その時はその『根源』と同じ性質を示すのである。
固有魔法、ないし固有スキルを定めるのはこれであり、古代魔術において己の"根源"を知覚することは固有魔術の発現を意味した。しかし、近代魔術においてはギルドカードが持ち主を監査し、条件を満たすのみで同質のものを発現させるのである。なお、アリシアの根源は《記憶》であり、それ故に『黙示録』暗記による「アポカリプスキャノン」であったのだ。無論、悪魔はこれを見抜いて指定したのである。
アリシアがソロモン山麓を周りながら地に魔石を埋め込んでいると、やがてルシファーは彼女を探し当て再び対峙した。
「『マルチエクスプローシブサンダー』っ!『アイスウォール』っ!『マルチファイアシュート』っ!『アイスウォール』っ!」
アリシアは自前のチート級魔力量を存分に消費し、距離を取りながら攻防を繰り返す。しかし、着実に地に魔石が埋め込まれ、ソロモンは魔術用に区切られた1つの箱庭となろうとしていた。しかも、壁が奴の視覚を遮断するためこの企みに気付かれることもない。
しかし、何かを感付いたかもう少しのところで奴は魔法で直接、彼女の前に立ち塞がった。すぐにアリシアは止まるが、もちろん奴に遠距離攻撃の手段がないわけではない。
「魔獣の杖よ...。」
言うと、悪魔は杖を生成。それも魔族のみに使用が許された上質の杖である。これを手に取り、奴は
「『マルチファイアシュート』。」
と炎をたくさん撃つ。アリシアはすぐさま氷の壁を展開するが、簡単に砕かれてしまう。こうなってはアリシアも「マジックウェア」でダメージを減らすのみ。特注品の衣服のお陰もあってか受けて無傷で済んだが、所々が焼け尽きて素肌がはみ出していてもう次はないことだろう。
「一か八か...いいえ、私のことだもの。成功するに決まってるわ。」
そう囁き残る3つの魔石を右手に。その手を振りかぶり、
「『ロングスロー』っ!」
と長距離投擲をした。ただし、手を巧みに使ってそれぞれ別々に、しかし地面に勢いよく向かうようにした。結果は成功、これで魔術を行使する領域は定められた。
「さっすが、私ね!『クイックテレポート』っ!『クイックテレポート』っ!『クイックテレポート』っ!」
それを見てまずは自画自賛、すぐさま瞬間移動を重ねて魔術を実際行使する頂上へといく。
それからすぐにルシファーも追い付くのだが、その頃には既に彼女の企みは完遂していた。そこは12の木々に囲まれた開けた場所でたった今作られ魔力を長した魔法陣がある。そこに12の異なる属性の魔石を埋めた12の木々を内包している。
「何を企んでいるかは知らんが、一先ず止まれ!我が炎を直に受けるがよい!『マルチファイアシュート』っ!」
ルシファーは傲慢たる創造発動の後、炎を発射。だが、これはアリシアの展開した「アイスウォール」に防がれる。壁が崩れて平気で動いて見せるアリシアを見て、奴は
「何故だ!何故、我が力がその効力を失っている!?」
と口に出してしまう。
「フフ...そうよ。もうあなたは私に力を使えない。何故か分かるかしら?」
とアリシアは笑って返す。
「(木々に埋められた12の魔石、この山は魔力産量第一位の高霊山...。そして、その頂上という位置関係...。)」
言われて分析してみると、頭に1つの答えが過った。
「あら、気付いたようね。この世のいかなる生物より下等のくせによくやるものだわ。」
アリシアはまた笑って返し、
「そう、今ここはオリュンポス十二神の集うかの霊峰に等しいわ。天界から追放されたあなたがこの天界に近しき神の領域でそう好き勝手やってられるわけがないわ。」
と説明をしてやる。これに奴は案の定か、という顔をして見せる。
「いや、あり得んだろうっ!?いくら大魔法使いとは言えどこの山全体を術式に組み込み行使するなど!どん...」
とルシファーはワナワナ震えるのだが、その前にアリシアの「マルチエクスプローシブサンダー」で肌が焼け爛れる。
「くっ...人の話を聞きのが道理であろうがっ!」
と言うのだが、もちろんアリシアは聞く耳を立てない。
「人外のくせに"人の"なんてよく言えたものね...。悪魔崇拝者でもなけりゃ、あんたみたいな下等の話を聞く奴なんていないわよ!まぁ、魔石から魔力を吸ってるとだけ言っとくわ!『マルチエクスプローシブサンダー』っ!」
と言ってまた同じのを。しかも、この大魔術のお陰で彼女には相当な強化が付与されているのか、そのダメージも笑ってはいられない。少しでも隙を見せれば集中砲火でやられてしまうかもしれない。
「悔しいが、貴様の息の根を止めることはできぬようだ。」
何としても上級悪魔であり続けたいルシファーは、他を捨て置き、自身の傲慢を抑えて奴は魔法陣の中へと消えていく。
「逃がさないわよ!『マルチエクスプローシブサンダー』っ!」
アリシアはすぐ爆裂の雷を放つのだがそれらが捕らえたのはルシファーではなく空気であった。
しかし、先ほど奴は自分で自分の傲慢たる創造の効力を失ったと口に出してしまった。ここで無効になるのはあくまで奴からアリシアへであり、奴から奴へはもちろん有効。つまり、奴は自分で自分の能力を永久封印した訳で、それがそれがかつて神に逆らい、「傲慢」を象徴するまでに至った奴の天罰だったのであろう。
それはまさに傲りが人を滅ぼす道理の現れである。
そして、小癪なことにここまでがアリシアの手の内であったのだ。
「私としたことがまんまと逃がしてしまったわ...。まぁ、私の」
それでも少し暗めに言う彼女であったが、すぐ次にやるべきことを定め、善は急げと実行に移す。
それは1人では最も悪魔を負かすに向かぬ神官ルチア、そこへ手ずから加勢することであった。




