表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/202

#187 悪魔退治のため金ぴかに知恵を求めた件

 少し歩くと見覚えのある顔が見えてきた。その手には竜を殺した聖槍、いや今は愚槍か。ともかくアスカロンを扱う殉職者、ゲオルギウスである。

 「お前は...あの時の異邦者か...。なぜ、ここにいる?まさか、魔王の軍に殺された訳でもあるまい。」

彼に近付きと、あちらから話を掛けられる。

「あぁ。今は精神だけで霊界に干渉しているだけという状態だ。」

「なるほど。幽体離脱など人の意志ではできぬはずだが、何か魔術を使ったな?」

「その通りだ。」

俺の返事に、彼は返し、俺がまた返すというやり取り。だが、俺の目的は彼ではない。彼に提供してもらう情報と言えばアントニウスの居場所について知っていることだけである。

 「で、肉体と精神を乖離してまで霊界を訪れた由は何だ?私に何か用でもあったか?」

「いや、俺はアントニウスを探しているんだ。成仏したってんならそれまでだが、どうか奴の居場所について知っていることを教えてほしい。今更、虫の良い話だとは承知しているけどな。」

次に用件を問われ、俺はそう答える。

「フッ...そんなこと気にするまでもない。元より私は現世に存するが故、理解者である魔王様に仕えていただけの身だ。俺は愚者に落ちた聖人であって、決して騎士などではない。そんなものは協力しない理由にはならん。」

これになんとゲオルギウスはそう言い、あっさりアントニウスの居場所を教えてくれた。どうやら、成仏はしていないらしい。


 俺は彼に言われた通りに霊界を進む。その際、何度か霊とぶつかることがあったが、もちろん感触もなく通過した。

 そして、その先に膝置き付き、背凭れ長めの洒落た椅子に座すアントニウスを確認する。彼の横には付き人らしい、しかしどこか人間らしからぬ雰囲気を漂わせている。

 「三大英霊が一角、錬金術のアントニウスよ。俺だ、久しぶりだな...!」

俺は大きく叫ぶ。

「ん、何者だ...?我が名を呼び立て、我が不可侵たる休息を妨げる狼藉者はっ!?」

これに奴も叫び返して、先程まで閉じていた目を開いて、俺を捉える。

「ほぅ、お前か...。精神のみにもなって、この俺にいかなる用件だ?」

と奴は言い、返答を促した。性格もかは知らないが、やはりこの錬金術師の口調はかの慢心王に近しいものである。

 「現世に悪魔が5体いるだろう。俺は今、その内の一角ベルゼバブと戦っている。」

俺が言うと、アントニウスは掌を上に向けて、

「全見の水晶よ、その深淵に悪魔ベルゼバブを映し出せ。」

と言ってその手に水晶を生成、これを現世に繋ぎ止め何とその奥にベルゼバブと隠れる熊谷さんまで確認した。

「で?その悪魔ベルゼバブがどうしたと言うのだ?」

「俺はそいつを熊谷さんと協力して倒そうと思っている。」

奴は聞かれて俺は即返す。


 しばらくの沈黙。俺とアントニウスの間に長く緊張感が漂い滞り...。

 「フッ...。ハッハッハッハッハッ...!お前、気は確かか?お前のような凡俗がアレを倒すだとっ!?お前の肉体を匿うあの老翁なら可能性は十分あろうが、お前に関してはそれが0に等しいぞ?」

高笑いとともにの侮辱。こ、こいつ...!どこまで慢心王に倣う気だっ!?本物がいたら、「至高の王たるこの我を許可もなしに模倣せんとは身の程を弁えろよ、雑種!」とか言われる案件だぞ!何て思いながら、

「当然だ!だから、あなたの知恵を私に分けていただきたいっ!」

と俺は叫びを返し、

「世迷言を...。お前ごときがこの俺に知恵を求むるなど万年早いわ!お前には10秒の猶予をやる。早急に立ち去るがよい!さもなければ、お前の精神を一欠片もなく吹き飛ばす!」

とまた慢心王みたいなことを言い始める。

 だが、そう易々と立ち去る訳もない。ここで恐れをなして立ち去ればそれこそ凡俗のソレである。幸い、腕をつねっても痛みはないし、虚像の身体をいくら破壊されても本体である魂さえ無事なら肉体に戻ることが可能なのである。

「受けてたってやる...。」

俺は小声で言う。もちろん、恐怖がないわけではない。痛みはないと言っても、絵面は真っ正面から慢心王が無数の武具射出を受けているようなものである。だが、どうしても彼の知恵が必要なのだ。俺は腹をくくり、そしてただ正面から目を離さんとする意思を示した。

 「さぁ、10秒待ったぞ、凡俗?俺の武器は条件次第で霊体をも打ち砕く。精神が破壊されれば、たとい肉体があれども死したも同然だ。だが、喜べ。本来お前のような雑兵を俺を倒した功績に免じて凡俗に格上げしているのだぞ?」

と言って、頭上にたくさん剣を生成。

「無数の霊剣よ、雨のごとくして全てを吹き飛ばせ。」

と告げられると、剣は雨というよりは雹のように勢いよく降り注ぐ。まず右肩に当たって右腕が吹っ飛ぶ。次に左手首に当たって左手が吹っ飛ぶ。さらに右足まで持っていかれたが残った左足でなんと自立している。

「こ、これも霊体の恩恵って奴か...。」

俺は言いながら、ただ奴を見据え続ける。

 やがて、剣の豪雨は止み、俺は頭、胴の上半分、そして左腕の肘から上を残してアントニウスを見上げていた。その断面からは血の代わりに炎のごとく魂の一端が見え、

「何っ!?」

と奴は未だそこに居座り続ける俺にまず驚き、続いて高笑いを始めた。

 「クックックックックッ...。なるほど、お前はそうまでもして俺に教えを請うか。」

「そうでもなけりゃ、あんたと再会なんてまっぴらごめんなんだよ!」

そこへ俺が叫ぶと、アントニウスはニヤリとして、

「俺は生前、ある軍の総長を担っていたのだがな。そう言えば、俺が統べたその軍に『命を惜しまずここを守れ』との我が命を本当に死すまで果たす側近がいたぞ?あれほどの覚悟はその日以来だ。全く...凡俗が我が臣下を知らず倣うなど今の世は飽きさせぬ...。」

と思い出話に耽りながら、若干奴の哲学的なものを示して見せる。どうやら、この男はその良し悪しの前に"覚悟"というものに興を感じるらしい。要するに俺は勝ったも同然、ということである。

 「フッ...良いだろう。お前のその覚悟に免じて、1つ入れ知恵を施そう。」

とアントニウスは俺の思い通りに告げ、

「お前、『マジックセンス』を得ているな?まずはその術でその目に魔力を映せ。」

「あぁ。」

「そして、その魔力の外側をお前の借り物の固有術『マジッククリエイション』で覆うのだ。さすれば、我が『アンリミテッド』には及ばずとも、その紛い物として魔力消費を抑えつつもその数で押すことができよう。」

な、なるほど...。流石は幾多の戦場を兵士とともに駆け抜けた軍の総長。策を立てる天才である。

 「さぁ、戻るがよい!この俺から知恵を勝ち取ったのだ。その誇りとともに、勝利を取らねば許さぬぞ?使えるものは全て使うがよい。圧倒的な力を前に"知"のみでは太刀打ちなぞできないからな。」

だが、アントニウスは自分が讃えられているなど見ず知らず、俺の退去を催促するのである。

「ありがとう、助かったよ。」

俺はそう言って肉体へと戻っていった。

 

 「三大英霊が一角、錬金のアントニウスから知恵を得ましたよ、熊谷さん。この戦い、俺たちが勝利したも同然です。」

傲慢とは分かっていたがまぁ、引き寄せの法則という奴である。熊谷さんは、

「そうじゃの、少年。必ずわしらの手で勝利を掴むのじゃ。」

と言って、俺に手を差し伸べる。俺はその手を取って横ばいの身体を起こして、立ち上がる。

 「ベルゼバブ、準備は整った!ここからは俺たちも本気でお前を殺しにかかる!」

俺はそう言ってベルゼバブを睨み付ける。

「フン...見栄を張りおって...。端から本気であったろうに。まぁ、お前が本気を出すというならこちらも本気を出させてもらおう。」

これに奴は笑って見せて、先程までとは比べ物にならないほどに魔法陣を展開。その中央へ魔力が収束する。

 両者本気の戦いが今幕を開ける。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 そして、その幕開けを、もっと言えばその閉幕を水晶を介して見届けんとする者がいた。

 無論、アントニウスである。

 「良かったのですか、アントニウス。あんな者に知恵を与えて...。」

「フン、構わんわ。お前はただ我が意に協賛すれば良いのだ。分かったな、ホムンクルス?」

「はい、以後気を付けます...。」

奴はその実、人形ホムンクルスである付き人と言葉を交わし、

「(さぁ、恐いもの知らずの凡俗よ...。貴様の全力を見せてみよ。)」

と心の中で奴なりの応援をするのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ