#186 初めて幽体離脱を経験した件
「フィンの乖離。」
魔法陣がベルゼバブの頭上に複数展開、それらが一斉に俺を狙う。
「『ハイジャンプ』っ!」
俺はこれをかわすのに左右ではなく上へ、三次元空間を存分に使い、俺は上から奴に魔力の剣で斬りかかった。
「暴食者。」
そこで、奴は再び原罪を発動。
「『マジッククリエイション』!シールド!」
俺は黒泥に呑み込まれる手前で魔力の盾を生み出し、それを足場に二度目の「ハイジャンプ」。その先でもう1つを盾を生み出し、
「『ブースト』っ!」
「暴食者。」
加速すると、奴は原罪を発動するがもう遅い。俺は剣を振りかぶり、思いっきり振り下ろした。だが、横にかわされて大きくはずす。そこへ黒泥を導く。
「『テレポート』っ!」
と瞬間移動で何とかかわし、今度は二刀流で飛びかかる。
「チッ...しぶとい奴め...。これで終わりだ!フィンの乖離!さらに、暴食者を追加。」
奴が言うと俺を赤の魔法陣が囲み、しかも、黒泥までが俺を襲う。
「くっ...。『マジッククリエイション』!剣を長大に!」
俺は両手の剣にさらに魔力を重ね掛けし、「カース・オブゾード」。これを投げて全ての乖離を受けて、
「『ドラッグ』っ!」
引き寄せの魔法を発動。引き寄せたのはフルンティング、剣は回転しながら奴の脚を1つ落として自らの手に戻ってくる。俺はそのまま、「ブースト」で黒泥のない下へと回り、もう一方の脚を切り落とした。
「ほぅ、今のを切り抜けるとは...。新米冒険者とは言えんな、全く...。」
そう言いこちらを向く敵。奴は常に浮遊していて、もはや脚などは必要ない。
「フィンの乖離。」
と奴は黒の光線で俺を狙う。今更ながら、その風貌は某「運命」に見る黒に染まったブリテンの王である。俺は「ブースト」で後ろにかわし、そこにあった岩へ張り付いた。
そして、ここで先から待ち望んでいた奴を打ち負かすためのチャンスが訪れる。
「間に合ったようじゃな。そこに止まっておれ、少年っ!」
との聞き覚えある老人の声。影が俺の頭上を通過し、その正体熊谷さんは剣を神聖で満たし、連なる斬撃で次々と乖離を打ち払った。
だが、もちろんそこですぐに息を切らして、地面に足をつける。
「フッ...何事かと思ったが特攻か...。馬鹿馬鹿しい。」
それを奴は笑って見せて、
「だが、その一撃は重かったろうなぁ?老翁。だが、どれほどの精鋭であろうと攻撃が当たらなければ意味がないのだ。」
とも言い、魔法陣を展開。放たれた「フィンの乖離」が彼の体のあちらこちらを貫いた。
「熊谷さ...っ!?」
俺が名前を叫ぶところで口を塞がれ、そのまま、近くに木の裏へ転移する。横には息を切らしたままの熊谷さんがいて、道端の方を見ると、ベルゼバブを少し奥に捕捉できた。
「いいかの、少年。あれは正真正銘の悪魔が一角だ。それも七つの大罪に座する上位の悪魔、そして、あれはその中で第二位に値するベルゼバブじゃ。魔王を倒したわしとて1人では太刀打ちできない。ましてや、わしは老いたから尚更じゃ。」
「では、どうすれば?」
「それはじゃな、少年よ。故人に知恵を求める、つまりは温故知新の精神じゃ。今は亡き英雄から知恵を受け、策を見出だすのじゃ。」
「しかし、生きている俺が死者に合いまみえることなんて...。」
「いいや、不可能ではない。まぁ、今わしが君といるからじゃがのぅ。わしの固有スキルは『メンタルセパレーション』、自他の肉体と精神を切り離す能力じゃ。そして、『精神』とは霊魂の類、それのみであれば死者の霊が住まう精霊界へも願えは干渉できるのじゃよ。そこで、英雄に知恵を求めるのじゃよ。三大英霊のどれかであれば一番良い。」
そこで作戦構築の言葉を交わす、と言っても俺は特に参加したわけではないが、とりあえずはこれで策が決定。
「では、その『メンタルセパレーション』を。」
と俺は言う。これに応えて熊谷さんは、
「了解じゃ。では、その先に勝利があらんことを。『メンタルセパレーション』。」
とカッコいい風の言葉とともに俺の肉体と精神を切り離す。
幽体離脱の初体験。鏡などに映さず、自分で自分を見るとは何とも不思議な感じだが、俺は言われた通りに霊界へゆくことを願い目を閉じた。
そして、再び目を覚ますともうそこは霊界の中。見渡す限り、いかにも幽霊って感じの半透明な人間ばかりである。霊界はどうやら冥界の1つ上層らしく、死後、成仏できずに冥界へ行けなかった者が貯まる場所なのだそうだ。しかも、霊界において生前の能力は維持されたままである。
「さて、問題は誰に知恵を求めるか、だ...。熊谷さんは三大英霊が好ましいって言ってたけど...。」
俺は顎に手を当て考える。
フランシェスカ...は、見た目は可愛らしくてもかなり狂ってるから駄目だ。あと、モーガン...は、多分ここにいないな。死に際に笑みを見せておいて成仏していないということはあるまい。となれば、アントニウス...。俺の「マジッククリエイション」とよく似た錬金術を使えて大いに参考になりそうだがあいつが俺にまともな知恵を与えてくれるのか?無名でも強そうな人を探して知恵を求めた方がいいのでは?
そう色々考ええ、俺は結局、アントニウスに意見を求めることにした。あいつが真の慢心王擬きだというのなら、堂々としてれば悪くは思われぬだろうし、適切な言葉で素直に頼めば興で応じてくれるはずだし、興味を持ってくれさえすれば協力的になるかもしれない。
こうして、俺は黄金の錬金術師、三大英霊が一角、アントニウスを求めて霊界を歩み出すのであった。




