#184 準々最強の悪魔に全く歯が立たない件
ベルゼバブは悪魔王ベリアル、悪魔長ルシファーに次ぐ、地位と力を持つ悪魔官と謳われる悪魔である。そんな準々最強の悪魔を前に、今、俺ができるのは奴の攻撃を「ブースト」も使ってただ右に左にかわしつづけることだけであった。
「えぇい!ちょこまかと逃げ惑いおって...!この小心者が!このっ...!このっ...!戦おうは少し思わぬか、臆病者っ!貴様など、戦士の風上にも置けんぞ!!!」
小心者、臆病者、風上にも置けない。こららは全て典型的な煽り文句だ。もちろん、俺が何の苛立ちも感じなかったなんていうことはない。だが、俺は賢明な判断のできる人間だ。俺1人では決してあいつに敵わない。あいにくと、どうせ死ぬなら戦って死ぬなどという軍人魂を俺は持ち合わせていない。あるのは、襲いかかる脅威に抗い、迫り来る死を拒み、いずれチャンスが訪れるその時までただ待つのみである。
「小心者とは賢人のこと、臆病者とは賢人のこと、戦士としてダメでも賢人の風上には置ける!小心者とは賢人のこと、臆病者とは賢人のこと、戦士としてダメでも賢人の風上には置ける!小心者とは賢人のこと、臆病者とは賢人のこと、戦士としてダメでも賢人の風上には置ける!」
俺は連呼して一向に奴の言葉に耳に貸さぬ決意を示した。
「そうか...貴様、よほど私に殺されるのが疎いようだな。そこらの下等生物どもにやれるよりかはマシであろうに...。」
「強者に殺れるなら悔いはないなんて武士道も俺は持ってねぇっ!」
相手が上等生物だとか下等生物だとかの前に、殺られれば五十歩百歩。命あっての物種、死ねば相手が神であろうと神に殺られたと誇ることもできないのである。
とは言え、「ブースト」で避けているだけでも魔力はどんどんと失われていく。幸い、魔方陣が出現してからフィンの乖離が撃ち出されるまでは多生のラグがある。俺はその手の魔剣へ、
「『カース・アブゾーブ』っ!」
と呪いの類を剣に吸収する効果を付与。容量は武器の質量に依存し、またどのレベルの呪いを受け止められるかは武器の硬度に依存する。フルンティングは軽く長いのが特徴で前者の面では弱いが、多くの魔物を斬って硬度はかなり上がっているために後者の面では強い。難なくフィンの乖離の呪いの部分は剣に吸収され、物理的干渉も跳ね返した。
「何っ!?」
「カース・アブゾーブ」は必要ポイントが70ポイントとかなりの高コストだが吸収した呪いの質、そして、量に応じて剣が強化される高性能なスキルである。フィンの乖離は悪魔が発していた所から考えて、おそらくかなり良質な呪い。呪いに対して良質とかどうかとは思うが、俺はその呪いで鍛えられた魔剣をベルゼバブの肩に向けて振り下ろす。
「暴食者。我が原罪は人の持つ忌まわしき善をも喰らい尽くす...。さぁ、罪に呑まれて死に絶えるがよい!」
だが、そこで奴の原罪が行く手を阻むのである。その手に現れた黒泥に俺は呑み込まれ、闇の中へ放り込まれた。
「喰らえ...。すべでを喰らえ...。喰らい尽くせ...。」
そんな声が脳に直接響き渡り、激痛とともに指の末端から邪悪に蝕まれていく。俺は一度、剣にためた呪いを解き放ち、
「『カース・アブゾーブ』っ!」
と再び呪いを吸収。
だが、まだ足りない。全く足りない...。足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない...!未だ聞こえてくる声の影響か、もしくは剣がそれを欲したのか、何か外的な力によって俺の心はただ貪欲に支配されていた。
そして、魔剣制御の第一段階を越え、第二段階が解除される。剣から溢れる膨大な魔力、俺は自我までもが蝕まれながらも確かにそれを手先に感じていた。
「第二制御、解除。暴食ノ剣...。」
思わずとも、口が構わずそう発していた。
瞬間、俺を包んでいた闇がいとも簡単に消滅する。いや、剣に吸収されたと言った方が正しいか。ともかく、俺はあの黒泥から抜け出し、再びベルゼバブをこの目で捉えたのである。ただ1つ、自我を犠牲に。
「ふっ...。その剣、我が力と同室と見たぞ?だが、あまりの膨大な魔力に自我を失いかけているようだなぁ?」
と言う奴。
だが、四肢は思うような動きを呈し、視覚と聴覚が働いている。頭も少しは回る。それだけの自我があれば十分である。俺は魔剣を離し、
「『マジッククリエイション』っ!ロングソード!」
と魔力の剣を生成。さらに、「カース・アブゾーブ」でフルンティングに貯まった呪いを少し回収、「マジック・ウェア」もかけてさらに強化。一瞬にして残りの魔力の半量超が消し飛んだ。しかし、自我は完全に元通り、それなりに強い得物もある。これは必要な犠牲である。
とは言え、あの原罪に有効な策を行じない限り、あの準々最強の悪魔に全く歯が立たないという現状は変わらない。未だ、俺は振り出しのままなのである。




