#182 悪魔の戦略が普通に巧妙だった件
ダダダダダダダダダダ...!一度死んで、一度生き返った病み上がりの俺たちを狂ったような「ガンド」の雨が狙う。「マルチファイア」ごときでは相殺できないし、雅の剣捌きもこの量では処理しきれない。
「『マルチレイジブラスト』っ!」
だが、アリシアだけはこの降り注ぐ呪いの雨に最大の防御を行使することができた。アリシアの周りで数多の光の球が収束し、そのエネルギーが光線となって高速短スパンで射出される。ビギュゥンッ、ビギュゥンッ、ビギュゥンッ!とその都度、例えるなら直訳すると「星戦争」な宇宙戦争劇に見る光線銃、みたいな音が鳴り響く。放たれる光線は次々と「ガンド」を潰し、
「『マルチドラゴファイアレイ』っ!」
と5本の熱線がそれぞれヤツらを狙う。現実をねじ曲げる奴(ルシファーとか言うらしい
)がまた、
「反射。」
と言って、跳ね返った熱線が彼女を狙うが、こちらも二度目はない。彼女は斜め前に「ハンドウィンド」を放って緊急回避。熱線は地面へ溶けていった。
それに紛れてステータス強化の奴(サタンとか言うらしい)が一瞬で距離を詰め、俺たちを拳で狙う。だが、そこでルナが飛び出し、
「『ディスポーズ』ぅっ!」
その拳を掠り傷で受け流した。だが、すぐに鳩尾への蹴りが入る。
「くぁっ...!?」
肋は余裕で折れて、彼女は仰け反り血を吐き、そのまましばらく吹っ飛ぶ。地面に接しても勢いは収まらず、低く土煙を上げ、地面を滑る。その間、彼女の体が動くようなことは一度も無かった。命に別状は無いようだが、飛んでもない痛みであることは想像に足る。
「ルチア!」
と俺は言って、ルチアも彼女の元へと向かわせる。そこへ、雨の奴(レヴィアタンとか言うらしい)が仕掛けてきた直接攻撃、嫉妬の念で編んだ黒剣が斬撃を飛ばしてきて、俺は
「『ハイプロテイン』っ!」
と唱えている筋力強化。そのまま、腰を入れて踏ん張る準備。斬撃を魔剣の腹で受けて、消し切れない勢いを地面との摩擦と体重で打ち消す。
「はぁぁぁっっっ!」
「くっ...!!!」
さらに、雅が飛び出し反撃。彼女の放った縦回転の斬撃は勢いが凄まじく、流石の悪魔とて少しは怯む。そこへさらに畳み掛けようとしたところを、現実をねじ曲げる奴が、
「勢いよく地面に身体を打ち付けろ。」
と言って阻む。しかも、彼女は奴の命令に抗えず、
「うぐっ...!」
と地面に身体を打ち付け、痛々しい声を漏らす。
痛みで体は上手く動かず、「ヘルス・オブ・ディバイン」を唱えようとするも、その前に連なる攻撃が雅の動かぬ体をを弄ぶ。
「ぐっ...!あっ!くっ!うぅ...。」
ベルゼバブとか言う奴の拳が彼女の背中を打ち、その都度、痛々しい声が辺りに響く。
俺がルチアと回復したルナを伴い助けに向かうも、ねじ曲げる奴が
「歩みを止めよ。」
と言うだけで体は完全に動かなくなり、俺たちには仲間が痛め付けられる様子をただ指を咥えて見ることしかできなくなってしまった。アリシアも同様の命と魔術禁止の命まで出されて太刀打ちができないでいる。俺が「マジッククリエイション」でナイフを飛ばすもベルゼバブが手を翳して現れて黒い何かに取り込まれて消えていった。
「マ、マル...マルチ、『マルチミサイルランス』っっっ!」
その時、アリシアが何と命に一瞬だけ抗って見せて、数十巨大な魔力の槍を射出。
「マズいっ!」
ベルゼバブはそう言い、手を十字にしてこれを防ぐ。その隙に、雅は足に血を垂らしながらも立ち上がり、
「『ヘルス・オブ・ディバイン』。」
神秘の回復は彼女の傷を全て癒し、普通の回復魔法ではなし得ない血の還元までが起こっていた。
「なるほど、やはり女剣士の高度回復魔法は厄介、大魔法使いも侮れず、男の方も戦闘の技術はそこそこ。さらに、連携を取っていることが厄介に拍車を掛けている...。」
その後も続く悪魔と俺たちの戦闘。それを高みの見物で見下ろしながら、冷静な分析を遂行。その間、命の効果もなくなり、しかも新たな命も出されないでいた。
そして、次なる命が出されたのは、アリシアがベルゼバブのフィンの乖離に直撃し、胸ごと持っていかれて二度目の死と蘇生を体験した時のことである。奴は、
「敵5人を悪魔5体でそれぞれ分けよ。」
と誰にでもなく命じる。すると、目の前の景色は一瞬で移り、俺はおそらくペイラスモスの麓に来た。目の前にはベルゼバブがいて、フィンの乖離の魔法陣を展開している。
「や、やべっ!」
俺は取りあえずは逃げ出し、この攻撃を何とか防ぐ。
一方、他の4人の目の前に悪魔が1体ずつ。ルナの元にはレヴィアタン、アリシアの元にはルシファー、雅の元には奪う奴(マモンとか言うらしい)でルチアの元にはサタンである。
こうして、俺たちはバラバラとなってしまう。つまり、悪魔1体をそれぞれたった1人で相手をしなければいけないわけで、さっきまで連携次第で何とかなりそうみたいなのもない。そもそも、連携と概念がそこにはない。これはルシファーの冷静な分析の賜物であり、巧妙な戦略だと敵ながらに思う程であった。




