#178 今度は変なスライムに囲まれた件
そして、次の日が訪れる。俺たちは近くにあった湖で魚を釣ってきて、これを朝食とした。普段のルチアの料理やギルドの料理と比べれば、大変質素だが野宿をすると決めたからにはこれぐらいは我慢の範疇であった。
それから、掃除道具を持って再び古城の中へ。
「...?」
そこで、早速何かを感じた様子の雅。
「どうした?」
「いえ、たった今、何かとてつもない邪気を感じましたの。気のせいでしょうか?」
俺が聞くと、彼女は答えて、
「私もよ。」
「私もです。」
「私もぉ。」
他の3人もこれに続く。え、また俺だけ仲間外れなパティーンなの?1人だけ何も感じなかった俺は落胆のため息をついていた。
「まぁ、良いわ。私たちの仕事はこの古城の掃除よ。本来なら数十人でやる量だけど、私の清掃用魔道具があればすれぐらい簡単にカバーできるわ。」
そこで、アリシアの転換に救済され、その件とは遮断され、その落胆も少しは忘れることができた。もちろん、本人にそのつもりはなかったのだろうが、俺にとっては明らかな救済措置に値するのである。
「そうだな。」
俺はそう言って、アリシアからステータス強化の箒「ハードワーカー」を受け取った。
どうやら、この箒の使用者は常人の5、6倍の持久力と俊足力を手に入れ、やはり、5、6人分の掃除力を手に入れられるらしい。しかも、貯めた魔力が半径5cm以内のホコリや微細なゴミを引き寄せてくれるらしい。ダイ◯ンのリスペクトとすら思える、中々の吸引力だ。
「どれどれ...?」
俺は早速、その効果を確かめようと箒に少し力を入れる。すると、それだけで一気に数m進んだ。ただし、疲れは感じない。どんどん進むが疲れは感じない。俺は、
「これはすごいですね...。」
「そうだねぇ。」
「流石は魔導の町グリモア製の魔導具、性能もかなり良いのですね。」
「それほどでもないわ...!まぁ、私の町の魔道具が優秀だってことは初めから知ってたけどねっ!」
と言う4人と1階を箒で交い、アリシアの返事には、
「いや、それ作ったのアリシアじゃなくて魔道具職人だけどな。」
と小声でツッコミを入れ、1時間足らずで古城の広く長い廊下をキレイサッパリ掃きききってしまった。他にも壁をこれもまたステータス強化の雑巾スーパークロスを使ってまた1時間、ハードワーカーとスーパークロスの合わせ技で各部屋を今度は2時間ちょっと。つまり、1階分の掃除をたったの5人で4時間足らずの間に終えてしまった訳である。しかし、さほどの疲れは感じていない。
この城は3階建てで、単純計算だとこの掃除にかかる時間は半日足らず。改めて魔導具というものの有用性に驚かされてしまった。
「死ぬ前は科学が生んだ空飛ぶ車とかで驚いてたけど、こういう魔道具に比べたら可愛いもんだな。」
全自動掃除機やスマートフォンなど科学技術の集大成、その普及を数多見てきた俺にこう言わせるほどである。
そして、そんな無疲超速の大掃除の内、俺たちは今朝4人が感じた強大魔力の源をその目に確認した。昼食後、3階でのことである。
体は緑で巨大。それ故、動きも鈍い。その周りには数種のスライムが護衛のごとく並び、その種類は昨日出会った数種のスライムから出会っていない黒だとか黄だとかのスライムまで色々である。
「なるほど、スライムが大量発生してたのはそのせいだったのね...。」
それを見てアリシアは言う。
「と言うと...?」
「あれはサモナースライムよ。自身の体を媒体に魔力を流すことで色々なスライムを生むの。全身を使い切っても半日ぐらいで完全回復するから、あれを倒さない限りは永遠にスライムが発生し続けるわ。」
俺が相槌を打つと、アリシアはこう答えて杖を構えた。倣って、ルチアもメイスを構える一方、俺と雅とルナはただただ魔法を発動する心の準備を整え、戦闘態勢へと移行した。
奴らが襲いかかったのはその瞬間のことである。最初に飛びかかるは黄色い奴。その表面はどうやら電気を帯びているようだ。
「そいつはボルトスライムよ。触れたら感電するから気を付けて!」
アリシアが言うのでとりあえずはこの攻撃をかわす。からの、俺が
「『マルチロック』っ!」
と押し潰す。雅とアリシア、ルチアも
「『マルチクラッシュアロー』っ!」
「『エクスプローシブスプレッド』っ!」
「『クリスタルハンマー』っ!」
とそれぞれ唱えて攻撃する。雅からは矢がたくさん放たれ、着弾するとそれらが爆発。アリシアからは赤の小球がたくさん放たれ、着弾するとそれらが爆発。ルチアからは魔力の槌が生まれて、これで奴らの体を叩き潰していった。
すると、今度はバトルスライム(鋭利な触手を振り上げながら)とメタルスライム(体を固めながら)が高速で飛んでくる。バトルスライムについては俺と雅で
「「『マルチファイア』っ!」」
と炎の散弾で跳ね返して、「マルチロック」で一括潰し。メタルスライムについては雅が魔剣を振り回して全て切り裂いた。
そんな内にいつの間にか下でスリップスライムが陣取っていた。すぐに辺りをツルツル滑る体液が埋め尽くし俺たちは何度も転ける。そのために皆の服がベトベトになって、下着が透けるとかいうまたまた分かりやすい展開。あと、「滑る」だとか「こける」だとか受験生にはかなり縁起の悪い状況。ただ、これは割り切ってしまえば代わりに滑ってあげる、こけてあげるの精神である。
「『マジッククリエイション』っ!マルチナイフ!」
滑る上に、俺はもう立ち上がるのを諦めて刃を生成。かなり魔力は削がれたがこれで一先ずスリップスライムは消えた。俺はゆっくり立ち上がって、
「『マルチウィンド』っ!」
と風魔法で足元の液体を吹き飛ばす。後ろでも同じようにして液体を吹き飛ばしていた。
さて、雑魚の相手をしている間に鈍い親玉も目の前へと迫っていた。俺は奴に向けて、
「『マルチファイア』っ!」
と唱えるも現れた銀色の触手で防がれ、しかも一気に広げて攻撃してくる。俺はこれを「ブースト」で何とかかわし、4人の集まる場所へ。
すると、今度は奴の口が大きく開いてそこから赤い液体が放たれた。
「『マルチアイスウォール』っ!」
アリシアは氷の壁を何層も重ねて形成。その液体は次々とこの壁を溶かして貫き、5、6層行ったところでその動きが止まった。術者の合図で壁が崩れると、
「サモナースライムはね...召喚するだけじゃなくてスライムとの融合もするのよ。しかも、そのスライムの性質をそのまま残してね。さっきの銀色のはメタルスライム、今の赤い液体はマグマスライムが由来ね。」
と彼女は説明をしてくれる。
と、バシィィィッッッ!突然、俺たちはアッパーカットを食らった。立ち上がって見てみるとそこには黒のスライムがいる。
「あれはシャドウスライム。日向じゃ普通のスライムにも劣るけど、日陰では攻撃力自体は普通のスライム、ただし、高速移動や潜伏が可能なの。ごめんなさい、あいつがいるの完全に忘れてたわ。」
とアリシアはそう説明し、俺たちを日向へ促す。
と、今度は後ろに気配。振り返って見てみると、何とそこにはさらに4体のサモナースライムらしきものがいた。あちらもこちらと同じように護衛感溢れるスライムを連れている。アリシアによるとどうやら、ポジショニングスライムとかいう灰色スライムの差し金らしい。
「これはマズいわね...。サモナースライム5体を相手にするとなると下手したら数でやられるわよ。」
これを見てアリシアの一言。範囲系の魔法でも唱えたらどうにかなりそうだが、場所も場所。迂闊に「バーニング・ブラスト」みたいなのをぶっはなして城が壊れるみたいことになれば、報酬を貰えないどころか、また多額の借金を負うことになりかねない。
それは!それだけは絶対に阻止せねば!そう強く思った俺は
「奴らをギリギリまで惹き付けて『ラージテレポート』、その先で『バーニング・ブラスト』みたいな範囲系で一掃ってのはどうだ?」
と耳打ちする。
「良いわね、その線でいくわ。」
アリシアはこれに賛同し、ルナ、雅、ルチアもリーダーが言うなら理論で倣って賛同。作戦が決定した。
そして、俺たちはすぐさまこの作戦の決行へと取りかかる。




