#170 過激派が喫茶にお出でなすった件
「お待たせしましたー。フレンチートーストとリーベックコーヒーでーす。」
出迎えてくれた店員さんがフレンチートースト6つとリーベックコーヒー7つを奥から順番に置いていく。
「こちら、サンドイッチになります。」
同時に向こうではサンドイッチが置かれた。
それを横目に、俺はナイフで切ってまず一口。瞬間、サクッ!という音の後、食パンが口の中に溶けて卵のコクと牛乳の風味、砂糖の甘味が広がる。表面に乗せてあったザラメは未だにそのバリバリとした食感を残す。間に挟んだコーヒーも甘味と酸味と苦味と香りと程よく混ざり合って、非常に美味であった。
ルナはガツガツ食らっていたと言っても、皆も美味しそうにフレンチートーストを食べて、コーヒーを啜る。ルチアは食べさしのサンダイッチをルナに渡して、ガツガツ食べるのを見て興奮していた。
「ヤベェ。」
俺はまた目が線になる思いに見舞われた。
バギィッ!と、そんないつも通りの雰囲気をそんな木の折れる音がぶち壊す。その元凶は扉をぶち壊す。入り口には大きいリングに小さいリングがいくつか引っ掛かったメイスをジャラジャラ鳴らして、1人の黒人巨漢が立っている。
「店長を呼びやがれ!今日からこの店は俺、ヘラ教大司祭ルーフェンがものにしてくれる!!!」
その人はそう言って、メイスの底で床をコンッ!と叩く。同時に、上部のリングがジャラジャラジャラ。
「何だ、あれ。」
俺はとりあえず色々詳しいルナに聞く。
「あの黒い十字架は間違いなくヘラ教だねぇ。ヘラ教の神官はその信仰心の強さから、強大な力を持ってる人が多いんだけどぉ...そういう人に限って、他を排除する節があるんだよねぇ。」
これに相も変わらず余裕で答える彼女。ここにセレスが
「ただ他を排除するだけなら珍しくとも何ともないけど、あれはそんなレベルではないわ。あれは過激派の1人よ。自身を大司祭と慢心し、非過激派のヘラ教徒を信仰心が弱すぎるとぬかす連中だわ。」
と説明を付け足した。
「おい、そこの姉ちゃん。」
これを聞きつけたが、奴は一瞬でセレスの後ろへ。そこで、
「ヘラ教は同胞への愛を重んじる。他の宗教がためにその愛を忘れてる奴らを信仰心が弱いと言って何が悪いんだ?」
と問いかける。
「その前提が間違ってるって言ってるのよ。その人たちが愛を忘れている、みたいにこじつけるのは、果たして同胞への愛なのかしら?アンタの愛は同胞愛なんかじゃなく、ただの自己愛よ。」
「言ってくれるじゃねぇか、姉ちゃん...。それにしても、よく見たらホントにべっぴんさんだなぁ...フヘヘへ。今日から俺の愛玩になってもらおう。」
対するセレスの答えに、奴はまたまた飛んでもないことを。
「愛玩ならわ...むぐっ...!?」
「冗談でもそういうことを言うんじゃない。あと、舐め回すな、気持ち悪い。」
ルナが何か言い掛けたが、俺はすぐに走り寄ってその口を塞ぐ。これを引き摺ったまま、奴を止めようとその元に向かおうとするが、その前にセレスが手を打った。彼女は、
「その生意気な口を慎みなさい。私はアーバスノット家の娘よ。」
と右腰の方の剣を一閃。ギィィィッッッン!との音とともに刃が杖と激突する。奴はガタガタと震わせながら、その杖を剣と交えた。
「ヒッヒッヒッ...アーバスノット家ってのはあの貴族のか。美人で強くて、おまけにエラいなんて最ッ高じゃねぇか。俺はそういう女を墜とすのが大好きなんだ。」
交えながらそういう奴。女性陣は身の毛もよだつほどドン引きし、セレスも呆れたようなため息を吐いた。
「はぁ、アンタね...そういう妄言は妄想をとどめときなさいって教わらなかったのかしら?」
と言って、剣を思いっきり振った。すると、
「ぐぉっ!?」
と間抜けな声を漏らして床をゴロゴロ。店外へ出てもゴロゴロ。そのまま、運河脇の塀にヒビまで入れて打ち付けた。
このことが奴を激怒させる。
「よくもやりやがったな、姉ちゃん!!!こうなったら、この店ごと貴様らを木っ端微塵にしてやる!良いか、そこの客は姉ちゃんのせいで死ぬことになるのだ...!」
奴はそう言って、メイスを地面にコンコンコン。リングはジャランジャランと音を発し、魔力が収束した。その瞬間、
「『ヘスペリデス・オーバー』」
奴は唱えて、固有スキルを発動。と、その周りには色とりどりの球が現れる。
バキィッ!ボギッ!バリィッン!ドガァッ!球は店内に突進すると、様々な方向へ飛んでいき、椅子や机を割ったり、グラスを砕いたり、床を剥がしたり。
「キャァァァッッッ!」
「いやぁぁぁぁぁっっっっっ!」
「ぎゃっ...!」
あちらからもそちらからもほんな悲鳴が聞こえ、負傷者も大勢出る。ルチアは「プロテクト」で守りつつも彼らの回復に走り、雅とセレスは剣を振り回して、球を弾き返していった。
そんな混沌とした雰囲気の中、弓矢を腰に携えた店長らしき中年辺りの男性が現れる。その人は、
「貴様、俺の店でなにしてるぅっ!?」
と外にいる奴に怒鳴り散らした。が、奴は構わず攻撃を続ける。このことが怒りをさらに増幅させて、堪忍袋の緒を切る。
「『ランダム・オペレート』、『ランダム・オペレート』、『ランダム・オペレート。』」
今度は店長も固有スキルを淡々と詠唱。球は全て翻って奴の足元に衝突した。その衝撃で奴はまた塀に打ちつけられる。
やがて、やむとすぐに弓を構えて、奴に狙いを定める。その内に奴は立ち上がるが、その頃には既に店長さんの狙撃の準備が整っていた。弓に番われるは光の矢。
「『スリープ・アロー』。」
と言って弦から手を離す。放たれた矢はあちらへ一直線。頭部に当たった瞬間、奴は突然脱力して地面に倒れ伏す。矢は粒子となって空気に溶けていった。
その後、奴は同じ黒の十字架を首に掛けたヘラ教らしき神官さんたちに引き摺り運ばれていった。
「ったく、とんだ変質者だったわね...。あんな奴に体を売るぐらいなら、自殺するわよ、私。」
その様子を横目で見て、正直にセレスは言う。
「でも、やっぱ、男の人はあぁでなくちゃぁ...。欲望に忠実なぐらいが丁度良いよぉ。悠人はむっつり過ぎるよねぇ。」
ルナはその言葉に異論があるかのように言う。
「どういう価値観で言ってんのよ、それ。アンタ、本気であんなのに体売っても平気なんて思ってるの?」
「へ、平気だよぉ...???」
が、セレスにそう返されるとそっぽを向いて、口をすぼめる。が、口笛らしき音はなし。
「吹けてねぇじゃねぇか...。」
「これは平気じゃない奴ね。」
俺とセレスは真顔で、ほぼ同時にそんなツッコミを入れた。
ルナはあれでも1人の女子。クソビッチではあっても、望まぬ男にまでほいほい付いていく軽い女ではない(若干、矛盾?)。そんなことは、彼女が顔色悪く奴隷になる、と発言した辺りから既に確信していた。




