#163 某水の都へ湯治に向かうことになった件
「悠人ぉ、昨日の戦いで疲れてるんじゃなぁい?」
ルナがそう聞いてきたのは、俺がアリシアと並んでリビングルームの扉を開けたそのすぐのこであった。
「お、おぅ。何なら未だに傷口が疼くことだってある。」
俺は正直にそう答えた。
すると、彼女は何度かコクコク頷いた後、
「じゃぁ、アドリアへ湯治に行こぉ?観光もしたいんだぁ...。」
と言う。それを聞いた俺は難しい顔になって、何か引っ掛かふなという感じで、
「湯治...つまりは温泉?そして、観光?ふむふむ...。」
と考察を開始した。と言っても、その答えはすぐに出る。絶対俺への労いよりも自分の性欲(大方、覗きでもするつもりだろう)と食欲(大方、食べ歩きでもするつもり)の方が大きい、この女!と。
「わたくしも行きますわ。」
「そう言うことでしたら、私も...。」
「私も行くわよ。」
ルナの提案で温泉に行くというのは何となく後ろめたさがあったのだが、流石に全会一致の一歩手前となれば、1人で屋敷に残るのも嫌だし、
「じゃぁ、俺も。」
と乗らざるを得ない。後々考えてみたら、この欲望に忠実系女子が俺のことを少しでも気にかけてくれただけで十分であった。と言うか、たまに見せるこういう一面のおかげで素直に嫌いになれないでいる。普段とのギャップのせいでこういう時に限っては「嫌い」よりも「好き」に傾いている気さえした。嫌いから好きに変わる心には実についていけないものである。
そして、次の日の早朝、早速屋敷を出発した。その最中で町を歩くエミールに出会い、領主様と話すレスターさんに出会い、ギルドから出てきたシリアン・マーリー・ファットロール(俺たちが金持ちボケしてた時、雅とタッグを組んだことで彼女と仲良くなったらしい)と出会い、全員が湯治に付いてくることとなった。
正直、残念少女ばかりながらもハーレム状態で温泉へ行くということに一定の期待、若干の動機、そして僅かな興奮もあったのだが、そんなものは男3人が加わるだけで、まるで風の前の塵のように何処かへ行ってしまった。そこで、そもそも残念少女ばかりのハーレムに何を酔っているのだとも気付いた。そう、これは実質、雅(女)、俺(男)、エミール(男)、レスターさん(男)、シリアンさん(男)の逆ハーレムである!みたいなぶっ飛んだ考えにも至りかけた。
そんな俺たちはまず、アドリアへ続く馬車のあるセコンドの町へ「テレポート」。
それから10分ほど待って馬車の列が来たので、俺たちはそれに乗り込んだ。どうやら、シャトルバス的なノリらしく、荷台を覆う革には「アドリア温泉」とそれぞれ印字されていた。
馬車は6人乗りと言うので、じゃんけんの結果、俺&シリアンさん&レスターさん&雅&ルナ&ルチアとエミール&アリシアで前後の馬車に別れることとなった。だが、テレパスストーンがあるのでそこまで問題はない。
後ろを見ると、次々に老若男女が馬車へ乗り込んでいるのが分かった。その中には、見覚えのある顔もいくつかあった。
そんな感じでまた5分程すると、馬車は一斉に動き出した。いよいよ、俺たちは某水の都へと向かうのである。もちろん、水の都と言ってもベニスではない。もちろん、ベニスと言っても男性器ではない。もちろん、頭文字は「パ・ピ・プ・ペ・ポ」の「ペ」ではない。
流石にクドい文章だとは自覚している。ただ、こういう「ではない三段構え」でもしないと、ベニスと聞いて第13話中盤あたりみたいな心の汚い人間は勝手に下ネタ変換をしてしまうのだ。無論、今回の場合はヴェネチアと言うだけで簡単に難を避けられるのだが、そういう「転ばぬ先の杖」を咄嗟に発動するというのは結構難しいことである。




