#162 一魔王軍幹部の正体が判明した件
「一度、奴の毒で腐食した金属器は元には戻らない。いかなる手段を持っても...だ。その剣には愛着があるかもしれんが、もう諦めろ。代わりフルンティングを受け取れ。」
灰の山の横に突き刺さるソレを見ながら言うエミール。俺は
「あぁ。」
と答えて寄っていき、その刺さった魔剣を抜いて受け取った。
試しに横の木へ一振してみるとザクッ!軽く幹が砕けて、一回切っただけにしては深い切れ込みが入る。しかも、剣自体も調子が狂うほどに軽い。今までの感覚で振ると、かなり振りかぶってしまった。
「これでお前も魔剣持ちの仲間入りだな。魔剣にはそれぞれ魔力補正の力がある。種によって程度は異なるがな。上からEX、SS、S、A、B、C、D、Eがある内で、例えばグラムはSS、ダーインスレイブはA。フルンティングはBだったかな。」
とそれを横目で見るエミール。そう言われてみると、確かに力が増したようには感じるし、でもそれは少しでってのも分かる気がする。だが、今の俺は魔剣を手に入れたというだけで満足していた。普通にカッコいいなと思ったのと、普通に強くなれたなのとの五分五分である。
「まぁ、補正が少なくても別に良いや。魔剣ってだけで十分っしょ。」
俺はそう言って彼に背を向けた。
「そうか。それより鞘はどうするんだ?前の剣とは細さだったり、長さだったり、もっと言えば形状だって違うぞ?」
そんな俺へエミールも続いて、さらに聞いてくるのだが何のための「アイアンワークス」だという話である。しかも、今俺にはもう1つ鍛冶系のスキルがある。
「そのために『アイアンワークス』があるんだって。それに最近習得した『ブラックスミス』も組み合わせれば、それで丈夫な鞘になるさ。」
俺は言って返した。
そして、この日は家に帰ってからずっと作業をしっぱなしであった。まずは「アイアンワークス」で鞘を柔らかくして、次に魔剣を刺して型を取って簡易的に形を固定、その次は帰りしなに買ったチタニウム製工具セット(お値段5万コルド)から金槌を取り出して、
「『ブラックスミス』っ!」
と唱えてカンッ!カンッ!カンッ!どうやら、使用すると工具の腕前とか鍛冶のノウハウが外から頭に入ってきて、その通りにするだけで目的のものができてしまうらしい。その代わり、本来は鍛冶屋スキルというわけで60ポイントもしたし、まず鍛冶屋がやらないと完成品の強度という面で半減してしまう。
まぁ、そんな感じで鞘を完成させた俺はそのままベッドに飛び込み、深い眠りに就いた。
さて、次の日のことである。俺はアリシアの連れられてグリモワールの図書館へと向かった。必然的に2人きりになって、彼女が普通の美少女ならドキドキしたかもだが、何せ普通の美少女じゃないので微妙っしょ、としか言いようがない。地味に韻を踏んだが、これはわざとだ。
「なぁ、アリシア、急にどうしたってんだよ。」
「今更だけど悠人に私のご先祖様を自慢しておこうって思ったのよ。ご先祖様が優秀だったって分かれば、その血を引いてる私も優秀だってことがわかるでしょ?」
「まぁ、俺も前々から戦闘員としては優秀だったと思うよ。」
戦闘員としては、という大事なことだから2回言いました、は発動しないでおいた。それが功を奏して、何のお咎めもなく、俺は手首を掴まれそのまま引きずり込まれた。
こ、この女、やっぱ普通に力強い...一瞬でも気を抜いたら男の俺でも腕相撲に負けたりするんじゃないか?俺はアリシアは女の子なのに失礼だってことは分かっていたのだが、やはりそう思わざるを得ない状況であった。
そんな訳で館内に2人並んで入るとまずそこがかなり広いと言うことに気付く。アリシアも前に言っていたが、これは確かにプロスペレのの2つ分は確実にすっぽり収まるだろう。
この次に気付いたのは、入って早速の所にグリモワールについての資料コーナーがあることである。『マドリード・プラム・グリモワール』みたいな伝記系だとか、『グリモワール年表』みたいな通史系、また『グリモワール家計譜』みたいな家系図系だとか色々である。
「『ピックアップ』。」
その前に立ち唱えて、指を下に払うアリシア。すると、お目当ての本が魔力に包まれ独りでに棚から飛び出し、彼女の手元へ。それは『グリモワール子女概略』という書であった。
「何なに?」
と見てみると、まず初めにに「ローグ・ブロッサム・グリモワール」っていうのが現れて、5、6ページほどめくってみるとそこには「ディーノ・ロータス・グリモワール」という名前が現れた。グリモワールの初代領主とある。
「ん、ディーノ?」
小首を傾げる俺にはその名前に1つ心当たりがあった。
「そうよっ!この人こそがグリモワール初代領主のディーノさんよっ!!!この人ったら、ホント凄いんだから!固有魔法は『レリックストック』って言って、ゲートの中からどんなものでも出してしまうのよ。食べ物や武器もちろん、未知の超兵器でさえね。その代わり、取り出されたものは元々それがあった空間からは消えるらしいわ。それにあらゆる魔術を使いこなす魔術王。その末裔だなんて、私やっぱり天才。」
と謎ロジックを振りかざすアリシアであったが、一々それにツッコミを入れている場合ではなかった。
そして、俺はあの日、エミールが言っていたことを思い出した。それは以前、彼とテニスをした後の銭湯でのことであった。彼はあの時、フィアマンが召喚した魔王軍として「鎧番人プロテギウス」と「魔人ディーノ」を挙げていたではないか。魔人と言うからには魔法に長けている人ってことだろうから魔術王と呼ばれていたって話に合致するし、そう考えればアリシアの一族が魔術師の家系だってことにも辻褄が合う。
「アリシア、もしかしたら俺たち、今後そのディーノと戦うことに。」
ほぼほぼ確実なのだが、一応仮定の範囲内であるので、俺は英語で言うところの「may」に抑えて言う。
「何言ってんのよ。彼はもう死んだのよ?聖遺物も屋敷に厳重保管されてて、今もそこにあるんだから召喚魔術なんて不可能よ。『サモンズ』って召喚スキルがあるけど、あれは魔物を召喚するもので人を召喚するものではないわ。」
これにまぁ、予想通りの反応。が、反論の余地はあった。
「でも、誰も聖遺物の在処を知らないはずの三大英霊、その内の2つを俺たちは既に見てだろ?それに、ソースはエミールなんだが、敵軍の中には聖遺物なしで英霊でも何でも召喚できる奴がいて、さらに魔王軍幹部の中にディーノってのがいるらしい。」
「なら、可能性はあるわね。だとしたら、1人も生きて帰れないかもしれないわ。『レリックストック』は実質どんなものでも取り出せてしまうから...。本来、人間の味方である彼はグリモワールの街は固有魔術はもちろん、その他魔術も駆使して1人で建ててしまったの。魔物たちから人々を守るためにね。でも、それが敵になったというなら話は別。人々を守るも滅ぼすも彼には簡単にできてしまうのよ。」
俺が言ってやると、何ともおっかない返事が返ってきた。このままでは不安が残るばかりである。
「こ、怖いこと言うなよ...。」
「でも、事実だからしょうがないじゃない。ま、そこを全員生存にしちゃうのが天才アリシア様のにくいところよね。」
「オーケー、それが聞きたかった。」
そんな不安を取り除く方法と言ったら、アリシアのいつものナルシを聞く以外には思い付かなかった。その慢心が初めて本当の意味で役立った瞬間である。
もうこれは、一魔王軍幹部の正体を暴いた、と言ってそう違いはないだろう。




