#103 敵勢のリーク情報を色々手に入れた件
「グレイの奴...よくもまんまとやられおって!」
帝国軍中将ジェイル・ディーンは邸宅外周を徘徊しながら、やられた少将グレイに怒りを覚える。
「まあ良い、奴が弱いことなど既に知れていたこと。思った通りだ、クソ野郎!」
そう言いつつ、彼は地面に落ちていた小石をその怒りに任せて蹴っ飛ばす。
「そう、思った通りである...。」
とその時、ジェイルの耳におぞましい声が響く。
「何者だ!?」
彼は辺りを見渡してみるも、何者も見えず。
と、その刹那。シュキィィィッッッン!声の主が振るう鎌の刃と、ジェイルの凪ぐ長剣の刃がぶつかり、鋭い音が響く。
「なっ...!」
その時、彼の目に映ったのは茶色のローブに身を包み、目が赤く輝き、その奥は闇があるのみという、言わば死神のような怪物である。
「ぐぐぐっ...。貴様、何者だ!?」
その死神の押しに耐えつつ、ジェイルはそいつに誰何する。
「私は魔王軍幹部が一角、死神ハデスである。魔王様より貴様の部下が魔王軍幹部へ不敬を働いたとの言伝があり、もろとも排除しに参ったものであるっ!」
そう告げ死神は鎌を振り上げ、交えていた剣を真上へ。そして、
「死の大鎌っ!」
と奴は鎌に魔力をためて、深紅の飛ぶ斬撃でジェイルを真っ二つにする。
エミールの奴がちゃっかりあのことを報告していたようである。実に恐ろしい男である。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
さて、その一方で俺たちはエミールから敵勢のリーク情報という奴を色々と聞き出していた。
「魔王軍幹部は計十二もいるわけだが、それぞれに魔具という固有の武器が与えられている。『ストレージ』!」
エミールはそう言って、貯蔵庫のゲートを開く。すると、そこからミノタウロスが持っていた巨大な斧とゲオルギウスが持っていた竜殺しの槍、シルヴィアの持っていた魔法の弓が現れる。
「そ、それは...!」
「ああ、今までお前が出会ってきた幹部どもの魔具だ。流石にケンタウロスの崩壊の後脚やら怪巨人の呪詛の息吹やらは持ち合わせてはおらんが。ちなみに、この手袋は大悪魔の魔具邪王の死棘を展開できる。奴の魔具が肌を媒介して展開されるもので助かった。」
目を見開く俺に、エミールは返し3つの魔具とか言う奴の説明してくれた。
ミノタウロスのは迷宮の巨斧、ゲオルギウスのはもちろん竜殺しの愚槍、シルヴィアのは必殺の大魔弓とか言うらしい。これらはまあ、『宿命』でいう所の宝の具と考えればよい。
その次に教えてくれたのはあのグレイとか言う奴の属する帝国軍について。
「魔王もその名の通り、列記とした王の1人だ。治めるのはレギルス帝国。ほら、奴のマントにRの紋章があっただろう?あれがレギルス帝国の国章だ。」
エミールにそう言われて、その国章とやらを頭に思い浮かべてみる。
「あぁ。」
と相槌を打つと、彼は話を続けた。
「奴等は帝国軍。無論、魔王軍とは別組織だが業務上提携関係にある。魔王軍は魔王が統べるのに対し、帝国軍は帝国政府と呼ばれる魔族の集団が統べている。その帝国軍とやらには階級というものがあってだな。上から元帥、大将、中将、少将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、軍曹、曹長、兵長、一等兵、二等兵、三等兵の計十六ある。あいつは少将、つまり上から4つ目だ。奴等の生業は絶対戦線と呼ばれるアルクスの維持。だが、将校にはその場を離れる特権が与えられている。少将であればまだ太刀打ちは出来るが、中将以上は精鋭ばかりが揃っている。レギルスの国章をつけたものには十分気をつけろ。」
ゴキ進化始まって以来の300字近い長い会話文を聞きつつ、俺は敵勢の実体を大体だが掴めてきた。うんうんとうなずいていると、雅が
「つまり、わたくし達が相手にしているのは魔王ではなく列記とした一国であると...そう、おっしゃられていますのね?」
と先に思ったこと全てを言われる。
「ああ、そう言うことだ。そこを履き違えないでほしい。魔王を倒す、ということはより多くを生かすために多くを殺すことになる。」
そんなエミールの言葉に俺はゴクリと唾を飲んだ。おそらく、次にくるのは...。
「その覚悟がお前たちにはあるか?」
やはり、流れ的にその言葉に限る。
「私、覚悟はあるよぉ。何となくそんなこ気はしてたんだぁ。」
「わたくしも...少し躊躇いはごさいますが...支障はきたさせませんわっ!」
「私もあり、ます。だって、私は年下にしか興味がないですから。」
ルチアに関して訳が謎過ぎるが、この3人は覚悟を決めたようである。
「悠人、お前はどうだ?覚悟を決めるってんなら、俺も協力するが。」
エミールは言うも、それが耳に届かない程に俺は考えに耽っていた。
「宿命」の主人公は万人を救うとい理想を抱いたが、聖杯の奇跡でも無ければ実現は不可能。そんなことは既にわきまえている。だが、弓の漢のようにより多くのために多くを殺すという遣り方も間違っている気がするのだ。魔王を倒すからには正義ではなくてはならないのだが、そもそも正義とは何だ?主人公と弓の漢、どちらがより正義か?それとも両者共に正義、あるいは共に正義ではないのか。
「(まぁ、人の匙加減で決まる正義を客観視しようとしたところで無駄、か...。なら、俺は自分自身の正義を信じるしかない。)」
俺は割り切ってしまう。それは、まるで文系に「なんでそこに補助線引くの?」と聞かれて理系が「これはこういうものだ」と告げるかのように。ちなみに、俺が掲げる"正義"とは大衆のための正義。
「(より多くのために多くの命を蔑ろにする...。それも仕方ないか...。)」
思いつつ、俺は呆れ(割り切る自分に)と諦め(誰も殺さないことを)の混じったため息を付く。
「おい悠人、いい加減にしろ!覚悟があるかって聞いているんだ!」
そんな声が聞こえて、俺は我に返る。だが、意思は変わらず。
「ああ、もちろんだ。」
と力強く言うと、エミールは
「そうか、なら良かった。俺もお前らに協力しよう。」
と言った。
「ん...何...うるさいわねぇ...。」
と、そこで魔力切れで失神状態だったアリシアが杖を持ってきて現れる。エミールも酷いもので、
「アリシアちゃんだっけか。覚悟は...あるか?」
と彼女には何の説明も無しにそんなことを言い始めた。「空気読み。」というゲームがあるらしいが、彼女は今その赤いアレといった感じである。
「え、えぇ...あるわよっ!」
あからさまに読めてるぽいぃぃぃっっっ!!!と俺は心の中で中間結果を叫んでやった。
そして、覚悟を決めた俺たち4人はエミールとついでに熊谷さん共にアリシアに寄る。
「アリシア、クエストは既に終わった。病み上がりで悪いが、『テレポート』を頼む。」
「ええ、分かっているわ。病み上がりでも朝飯前よ。何て言ったって、私は天才だから。」
全く冗談を言うなって感じだが、今は良い。
「『テレポート』っ!」
彼女の詠唱とともに俺たちは白き光に包まれて、プロスペレへ飛んだ。




