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#101 狂戦士と元勇者の激闘が勃発した件

 「第一制御層プライマリ、解除。堕天の漆黒剣ルシフェルブレードっ!」

束の間出来事に驚く内に、エミールは魔剣グラムの真価を見せる。彼がこちらへ斬りにかかってくると、雅が飛び出しその剣を弾いた。

「させませんわっ!」

「ほう...先の衝撃でかなり背中を痛めているはずだがまだ動けるか...。」

彼女が威嚇すると、彼はそう返す。

「ええ。あの程度の衝撃、慣れたものですわ。」

「そうか。」

 そんなやり取りの内に金色だったエミールの鎧は完全に黒く染まり、元々銀だった刃と元々金だった柄も隅から隅まで漆黒に染まっていた。そして、

「改めて名乗ろう。俺は魔王軍幹部の一角、エミール・グレイス・デーモンロード。魔王様より『デーモンロード』の姓を授かった狂戦士ベルセルクである。」

との付け足し。からの、見えない斬撃。軌道は直線、傾きは左上から右下。俺は

「『ソードビーム』っ!」

と見えするが同じく飛びはする斬撃でそれを相殺し、アリシアに

「アリシアっ!」

と叫ぶ。それに応えて彼女は

「え、ええっ!『マルチエクスプローシブサンダー』っっっ!」

とたくさんの爆裂する雷を敵に放つ。

 ドゴドゴドゴドゴドゴォォォッッッン!それらが地面に激突するとともに黒い土煙が高く立ち、轟音が響いて閃光が走る。

「やった...のかしら?」

その様を見つつ、アリシアは問う。だが、俺にはそうとは思えない。

「いや、今まで出会ったどの幹部もこの程度では死ななかったから...。」

と言う間に、エミールの声が聞こえた。

邪王の死棘デビルズスティンガーっ!」

と。

「デビルズスティンガーっ!?って、あいつの!」

俺は奴に冤罪を掛けられたあの日を頭に大いに驚く。

 そして、地面から現れた黒い針が両手両足に巻き付き俺たちを拘束する。おまけに最後には胸元まで巻き付いてきたため雅ら女性陣を見れば若干アダルトな状況である。とは言え、少なくともR15を超すことはないので違反でないが。

 と、そんな下らないことを考えながら俺は

「『マジッククリエイション』っ!マルチナイフっ!」

たくさんの短剣で黒い針を切ろうとするのだが何故か出来ない。先程からルナが

「『アンワインド』っ!」

と確か「ほどける」とか言った意味合いの詠唱をしているも、針がほどけないということは彼女も俺と同じなのだろう。

 「驚いたか、人族。俺の固有スキル『テールム・インペリウム』は死者の武具防具に付与すれば、我が物として扱うことができるのだ。そして、この邪王の死棘デビルズスティンガーには『ディスターブ』という魔術の使用を阻害する魔術を施しておいた。」

エミールはそう言いながらこちらへ魔剣を片手にこちらへ近付いてくる。

「っ...。」

そう言われて、俺もルナも抵抗するのを諦める。

 「ぐぬっ...ぐぅっ...!」

その頃、雅は何とか振りほどこうと抵抗をし続けていた。

「ちっ...。邪王の死棘デビルズスティンガーっ!」

「う、うくっ...!!!」

が、エミールが巻き付く黒の針を追加し、締め付けもさらに強まる。これには流石に諦めるより他になかった。

 「さて...。まずは悠人、貴様からだ。あの日、貴様にはこの上ない屈辱を味あわされたからなぁ。楽には殺さんぞ?貴様にこの上ない苦痛を味あわせてから、首を持ち帰ろう。」

とエミールはさらに近付く。ちょっと待て、ちょっと待て、エミールさん!楽に殺さんって何ですのぉっ!?心で俺は結構古いネタを披露しつつ、かなり慄然とする。死ぬこと自体に恐怖はないが、死ぬ前に苦痛を味わうなら話は違ってくる。

 「...。」

恐怖のあまりか俺は黙りこくり、全身から力も抜け始めた。確実に死ぬというのに走馬灯が見えないのだから嫌気も指す。

 と、ブゥゥゥン!そんな音がしたかと思えば頭上にはグラムの切先。

 「くっ...。」

「悠人ぉっ!」

「悠人っ!」

「悠人さんっ!」

「悠人くんっ!」

ルナ、アリシア、ルチア、雅が俺の名を叫ぶ。切先は既に僕の肩スレスレまで来ていた。

 

 と、そこへ。

 「その一太刀、お待ちください。」

茂みの向こうからが止めが入った。

「何?」

そこで、エミールは剣をそのまま放置し、そちらを睨み付ける。

 すると、その茂みからとある紋章を付けた黒いマントを翻して、面長茶髪の男が現れる。

 さて、ここで紋章の説明を。大きく開いたカラスのような翼2つがフリューゲル・デア・フライハイトみたいに交わり、その中央には縦線にその上から始まる右へ二瘤状に湾曲したもう一本の線。云わば粗いRの筆記体のようなものが置かれている。ちなみにその縦線とその二瘤線の交点はどこにも見当たらない。

 エミールは剣を鞘に納めて、そんな1人の男に

「貴様、何者だ?」

と問う。すると、男は

「私はレギルス帝国軍少将、グレイ・ベルモット。どうか、わたくしめにそちらの男を抹殺させていただきたい。」

と言うが、エミールは

「断る。」

と即答。

 対して、グレイは不敵に笑んで

「ならば、手荒い真似を使うしかありませんね。『コール』っ!」

と、パチンッ!指を高く鳴らす。すると、シュンッ、シュンッ、シュンッ!とエミールを囲むように兵が現れる。

「...?」

「「「「「『ダークオーブ』っっっ!」」」」」

それらの兵どもはそう唱えて、一斉に黒い球を放つ。と、ドッゴォォォッッッン!次の瞬間にはエミールのいたところに高く土煙が上がっていた。

 「ちっ、貴様の固有スキルは転移か...。うざったい。」

エミールその人は彼らの頭上。そこで、剣を振り回す。

「どこを斬ってやがる?」

兵の1人が上を見て言うが、ザグッ!束の間、その首が落ちる。次いで、他の兵の首も断たれて胴は血を飛沫いて転がり落ちた。

 「コ、『コール』っっっ!」

エミールが降り立つと、グレイは恐怖しながらまた指をパチンッ!今度ははるか上空に短剣を転移したようだ。彼は

「物ってのは高ければ高いほど落ちるのが速くなる。流石の貴様もこの高さからの攻撃はかわせまい。」

とあっさり自由落下の説明をしてしまう。正確には位置エネルギーという単語も必要なのだが、この際どうだってよい。エミールが

「何?」

と上を見、白い輝きを確認した次の瞬間には既に剣は彼と目と鼻の先。

 ズガガガガガッ!そして、短剣は雨のように降り注ぐ。だが、人でありながら魔王軍幹部をするだけあって身体能力も動体視力も半端ない。

「どれほどの大技かと身構えたが、所詮この程度か。造作もない。」

と、本当に造作もない様子で腕を動かし、手を動かし、胴を動かしで華麗に短剣をかわしつつ、水平方向の見えない斬撃。バリバリバリンッ!と、軌道上短剣は次々と砕かれグレイにせまる。それを見てか男は地面に寝そべり、転がってそれをかわす。

 「はぁっ!」

キィィィッッッンッ!その隙にエミールは距離を摘めてグラムを奮うも、グレイが立ち上がり際に長剣で防ぐ。

「ほう。『コール』に甘えているだけのものと思っていたが、流石は帝国軍将校をやるだけのことはある。」

「それは、どうも。」

エミールが褒めれば、グレイは礼を言う。

「だが、爪が甘いっ!」

と言って、交えた剣を一度離し次に振り回す。が、その剣筋はいい加減な方の適当なものではなく、相応しい方の適当なもので彼の両手両足を切る。

 「さあ、吐け。貴様、誰の差し金で参った?」

とエミールは手足を失ったグレイに剣を突き出して問いただす。

「て、て、て、て、帝国軍中将のジェイル様の命で参りました。」

「そうか...。教えてくれてありがとう。」

グスッ!そんな風に正直に答えたグレイだったか、無情にもグラムで胸を貫かれる。

「え...正直に吐けば助けていただけるのでは?」

「誰がさようなことを言った?」

と容赦なく返して、こちらを振り替える。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 一方、熊谷和人はその様子で遠目で眺めていた。

 「ふ...。」

熊谷和人は魔力を腕先に収束し、

「『ロングスロー』っっっ!」

とレーヴァテインを槍投げの要領で投げる。

 すると、ギュゥゥゥッッッン!と言う音を立てて森の上抜け、街の上抜け、剣は一直線に悠人らの元へと向かう。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 それと同じ頃。俺はまたブゥゥゥン!と剣を奮われんとしていた。今度こそ、終わりかと思って

「くっ...。」

と歯を食い縛る。

 だが、その前に超速で飛んできたレーヴァテインがグラムを弾く。

「ちっ...。次から次へと俺の邪魔をしやがって!」

エミールが舌打ちするとともに、今度はその持ち主である熊谷さんが突如現れて、しかも

「『パワードキック』っ!」

と剣を失った彼に蹴りを食らわす。

「神出鬼没のスキルっ...か!ぐっ...!?」

両手をクロスしダメージを抑えるも、勢いあまって後ろの木に激突する。

 その内に熊谷さんは魔剣を引き寄せ、その手に握る。

「はぁっ!」

で、その刹那にすぐさま剣を奮う。

「くっ...!」

対するエミールは地面に突き刺さったままのグラムを引き抜いて、その斬撃を何とか防ぐ。

「おらぁっ!」

それから、思いっきり剣を凪ぐことで熊谷さんを吹っ飛ばして距離を稼ぐ。

 両者は睨み合って、自らの剣を構える。

 こうして、狂戦士と元勇者との激闘は勃発するのであった。

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