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童話集

終わらない冬と眠る四季の物語

冬の童話2017提出作品です。

一応、提示された条件は満たしてるのではないかと思います。


昔々から、世界のどこかにある四季の塔に春夏秋冬の四人の女王様が持ち回りで塔の一番上ある「女王の間」に(こも)って過ごす事で、私たちの住む世界にそれぞれの季節が訪れます。


とは言え女王様方は結構いい加減な性格なので、いつもいつも決まった時期に季節が変わるとは限りませんでした。

ほら、よく春になっても雪が降ったり夏がとっくに終わった(はず)なのに、残暑がずっと続いたりする年があるでしょう? それは前の季節の女王様が交代の時期になっても寝ていたり、逆に次の季節の女王様が交代の日を忘れていたりしてしまうので、そうした事が(困った事にしょっちゅう)起きてしまうのでした。


とは言え、四季の女王様もこの世界や女王様方を御創(おつく)りになった神様ももう何十億年以上も生きている方々なので、時間の感覚が我々とはかなり違っておりまして、僅か数週間や一~二ヶ月の季節の狂いなんぞは余り問題にはしないのでした。

私たちだって、待ち合わせの時に何分か相手が遅れてもそんなには怒ったりはしませんよね?

え? 怒る? いけませんね、短い人生とは言えもっと心に余裕を持たないと。


まぁ、神様や四季の女王様方は暢気(のんき)な……と言うか結構いい加減な方々なので、そんな感じで地上の四季は少々の狂いを見せながらもずぅっと永い間、四季を巡らせてきました。


ところが、その年は四月になっても五月になっても冬の女王様は四季の塔から出てきませんでした。

地上には雪が降り続け、人々がそれでも耕して種を()いた畑の上には当然芽は生えず、育つ物と言ったら氷柱(つらら)霜柱(しもばしら)ばかりと言う有様でした。

本来なら春であった時期が過ぎ、夏であるべき季節が来ても地上は白く染まったままで、人も家畜も飢えてやせ細り、一枚の葉も着けない凍えた木の皮を食べて空腹を(ふさ)ぐしかありませんでした。


王様はいつまでも続く冬を終わらせる為に、冬と春の女王様を入れ替える手段を講じる様に御触(おふ)れを出しましたが、所詮(しょせん)は神ならぬ人の身ゆえに全く上手くいきませんでした。

多くの勇者や騎士や賢者達が冬の女王様を塔から引き出すために四季の塔へ乗り込みましたが、誰も戻って来ませんでした。

別の者たちは春の女王様を見つけるべく世界中をさ迷いましたが、これも地上をくまなく探しても全く見つからず寒さに負けて行き倒れる有様でした。


そうして人々には為すすべもなく神様や他の季節の女王様に祈るしかありませんでしたが、本来なら夏であった時期が終わろうかと言う時になって、ようやく他の女王様方は地上の異変に気がついて四季の塔に(そろ)っておもむかれました。


何を今頃になって……とお思いでしょうが、先にも申しました様に女王様方は神様と同じく時間の感覚が我々と違っておりまして、もともと寝起きの悪い冬の女王様がまた寝坊をしていると思って、自分で起きてくるまで待っていようと思っていたのに、いつまでも塔から出てこないので流石(さすが)に心配になって様子を見に来られたのでした。


さて、そんな訳で人々の祈りとは全く関係無く、世界の果てにある四季の塔の前に春・夏・秋の三人の女王様が降り立たれました。


塔のある敷地は高い壁に囲まれていて、たった一つだけの出入り口である正門から塔に続く庭園に入る事が出来ます。 その門の扉には魔法が掛かっていて、本当なら四季の女王様が近付くだけでひとりでに開く仕掛けになっていました。

ですが、その扉は固く凍りついてしまって全く開く気配はありません。 門の周りにはどうにかここまでたどり着いた勇者や騎士や賢者たちが凍りついて真っ白な氷の像になったままになっていました。


「冬の女王、いつまで寝ているのですか? とっくに交代の日は過ぎているのですよ? 早く門を開けてください」


春の女王が塔に向かって呼びかけましたが、何も返事はありません。


「冬の女王、いつまで寝ているのですか? 早く起きて春の女神に替わって下さいな。 でないと世界がぜんぶ凍ってしまいますわ」


秋の女王も塔に向かって呼びかけましたが、やはり何も返事はありません。


「冬の女王、いつまで寝ているのですか? 出てこないなら、こちらから入りますよ!」


夏の女王も塔に向かって呼びかけましたが、それでも何の返事もありませんでした。

それで怒りっぽい夏の女神はご自分の「夏の日射(ひざ)し」のお力で門の氷を残らず溶かしてしまいました。 すると邪魔な氷が無くなった門の扉はひとりでに開いたので、三人の女王様はそのまま庭園に入って行きました。


本来なら魔法の力で常に丹精(たんせい)されている塔の庭園にも、厚く雪が降り積もり白一色で覆われていました。 そんな庭園の行く手の雪を夏のお力で溶かしながら三人の女王様は塔の玄関の扉にたどり着きました。 大きな玄関の扉もやはり固く凍りついて開く様子もありません。


「いい加減に起きなさい!」


怒った夏の女王様は玄関の扉の氷も溶かし始めましたが、続けてお力を使われたせいか中々氷は解けません。 それで春と秋の女王様もお力を使われて、ようやく扉の氷を溶かしました。

それで玄関の扉も魔法の力でひとりでに開き、三人の女王様はいよいよ塔の中に入りました。


塔の一階は広いホールになっていて、暖炉や長椅子などが揃えてありました。

ですが、暖炉には火が入っておらずそれどころか長椅子や家具にはうっすらと霜が降りている有様でした。 最後に塔に入った春の女王様の後ろで玄関の扉が閉まるのと同時に、とつぜん夏の女王様が目まいを起こしたみたいにふらついて倒れそうになりました。

秋の女王様が支えてくれなかったら、本当に床に倒れてしまったでしょう。 どうやらきちんと季節の引き継ぎをしないままに、無理にお力を使ったせいで疲れが一度に押し寄せて来たみたいでした。


春と秋の女王様は、とりあえず長椅子の一つを霜を払って陽光のお力で乾かしてから夏の女王様をそこに寝かせました。 夏の女王様は神様のようなものなのでこの寒さで凍える事はありませんが、ご無理が祟ったせいか、そのまま疲れて眠ってしまいました。

こうなれば、春と秋の女王様のお二人で冬の女王様を起こすしかありません。 お二人は塔の一番上にある「女王の間」を目指してホールの隅にある長い階段を上り始めました。


……ところが、すぐにお二人の足が止まってしまいました。 どうやら塔の上の方の窓が開いているみたいで塔の中に降りこんだ雪が階段の上にうっすらと積もっているのでした。

お二人は足を滑らせないように「春の()だまり」と「秋の木漏(こも)れ日」のお力で足もとの雪を解かしながら再び階段を上がって行きましたが、二人がかりでも夏の女王様の様に強い光は出せないので、ゆっくりとした歩みになってしまうのは仕方がありません。


そうしてついにお二人は、女王の間の前の小さなホールにたどり着きました。 そこはちょっとした応接間みたいになっていて、小さなテーブルと椅子が4却ありましたが窓が開いているために、そのどれもが雪を被っておりました。

そして案の定、女王の間の扉も凍りついていたのでお二人は窓をしっかりと閉めてから、急いで扉の氷を溶かしました。 それと同時に秋の女王様がふら付いて倒れそうになりました。 春の女王様が支えてくれなかったら、本当に床に倒れてしまったでしょう。 やはり秋の女王様もご無理が祟ったみたいでした。

春の女王様はあわてて椅子の雪を払って陽光のお力で乾かしてから、秋の女王様をそこで休ませました。


「私も無理をしすぎたみたいですわ。 あとは冬の女王を起こすだけですが、力を使いすぎてこれ以上動けません。 春の女王、あの子を頼みましたよ……」


秋の女王様はおっとりとした調子でそう言うと、椅子の背もたれにお体を預けられるとそのまま眠ってしまいました。


最後に残された春の女王様は気弱なお方でしたが、それでも冬の女王を起こすために勇気を振るい起こして女王の間に入りました。

女王の間は、四季の女王様が過ごされるのに相応しい豪華なつくりになっておりましたが、今はその全てが凍りついておりました。 その部屋のどこにも冬の女王様の姿は見えません。

やはり、ベッドで寝ているのでしょうか? 春の女王様がベッドに目を向けると、ベッドの天蓋から下がった氷柱(つらら)がベッドを取り巻いてまるで氷の壁の様になっておりました。

春の女王様は慌ててベッドに駆け寄って、透き通った氷の壁越しにベッドをごらんになりました。 ベッドの布団の中に潜り込んだ人影がうっすらと見えました。 どうやら冬の女王様はまだ眠っているようでした。


「冬の女王! 私です! 春の女神です!! 交替の時期はとっくに過ぎてます! 早く起きて下さいませ!」


春の女王様はあらん限りの声で叫びながら氷の壁を叩きましたが、全く起きる気配がありません。 そこで、春の女神さまは残ったお力で氷の壁をゆっくりと溶かし始めました。

「春の陽だまり」のお力だけで氷を溶かすにはかなりの時間とお力を費やされましたが、それでもどうにか氷の壁に穴を開けることができました。 春の女神さまは、最後の力を振り絞ってベッドにたどり着きました。


「……冬の女王、お願いです……起きて」


ですが、そこまででした。


春の女王様は、ベッドのシーツに手を掛けたところで力尽きておしまいになり、ベッドに突っ伏してそのまま眠ってしまわれました。


その時、部屋のカーテンの陰から何者かが現れました。


冬の女王様です。


冬の女王様は無言でベッドまで歩かれると氷の壁を魔法で一瞬で消し去り、春の女神さまをそのままにベッドの布団を取り去りました。


そこには予備のシーツが丸めて置いてありました。 その上から布団を被せれば、まるで何者かが寝てる様に見えると言う具合でした。


「……すべて上手く行った」


冬の女王様は眠る春の女王様を見降ろしながらつぶやきました。


そうです、終わらない冬の騒動は冬の女王様が企んだ事なのでした。 このごろ、他のどの女王様よりも引っ込み思案で気弱な冬の女王様は、他の女王様に寝坊や何やらでだんだんと冬の季節の時期を削られておりました。

そのお陰で地上には暖かい時期が長くなり、作物の実りは良くなって人々は冬が短くなった事を喜んでいました。

冬の女王様はもっと自分の季節を地上にもたらしたかったのですが、気弱故に他の女王様に言い出す事もできず、また地上の人々も自分の季節が短くなって喜んでいるのをご存じでしたので、自分の割り当ての時期を長くしてもらおうとしても言い出せず、時々寝坊のふりをして春の訪れを少し遅らせるのが精々でした。

そうして塔に居られない間は、雲の上から人々の声に耳を傾けるのが常で御座いました。 先の冬が短くなった事を喜ぶ声もそうした時に聞いたのですが、近年になって違う声を聞くようになりました。


(いわ)く、世界が温かくなるのも良いが温かくなりすぎても問題がある。 このままでは世界のバランスが崩れて洪水や大嵐が起きたり海があふれて陸地が沈んだりして、人や動物に悪い影響が出てくると言う事でした。


なるほど、そう言われて地上を見渡してみると、世界のあちこちでおかしな天気や災害が相次いでいました。

原因の多くは人々にもあるみたいでしたが、彼らの努力だけではこの流れを変えることは出来そうにありませんでした。 他の女王様や、あるいは神様よりも地上を慈しんでおられた冬の女王様はその声を聞いて決意しました。


そう、他の季節の女王様を眠らせて冬を長引かせて世界を「冷やす」事にしたのです。


計画は全て上手くいきました。

他の女王様は無理に自分の力を使い果たして眠ってしまいました。 当分は目を覚ます事も無いでしょう。 最早冬の女王様を阻むものはありません。


冬の女王様は春の女王様をベッドに横たえると、窓を一杯に開いて冬の歌を歌いました。 歌声は空一面に広がって雪に変わり、地に伝わって霜になります。


そうして世界は白く染まります。


野も山も海も街も凍りつき、人も家畜も獣も樹も、平民も勇者も騎士も賢者も王様も……深い雪に覆われて長い眠りについていきました。

冬の女王様はやり遂げました。 これで世界が温まる事は当分ないでしょう。


「春、夏、秋のみんなが起きたら、(だま)したことを謝らないとね……」


真っ白に染まった世界を見降ろした冬の女王様は、さすがに力を使い果たしそのまま窓辺にもたれ掛かって眠ってしまいました。


さて、そうした顛末を見てらした神様は深いため息をつきました。 最近は、新しくお造りになった他の世界の世話に掛かりきりで、久しぶりにこの世界に目を向ければすべてが真っ白に凍りついているではありませんか。

あわてて何が起きたのかを調べて、そして冬の女王様の仕業であることを知りました。 神様はまた深くため息をついてから呟きました。


「またやったのか……」


そうです、こうした事は実は初めてではありませんでした。 他の女王様に自分の季節の時期を奪われて、そのために何か理屈を付けては他の女王様を眠らせて、今までの分を取り戻す様に地上を何度も凍らせる……

今までに何回かそれは起こり、その度に地上は凍りついて多くの生き物が死んでしまいました。


神様はその度に冬の女王様をお叱りになり、仲良く季節を分けなさいと他の女王様方もお叱りになりますが、数万年の長い年月が過ぎて行くうちに女王様方はそう言う事があったことを忘れておしまいになるのでした。


そして、今度もそれは起きてしまいました。

ですが、これで世界が滅んでしまった訳ではありません。 凍りついてしまったものの大地も海も無事ですし、なにより神様がお造りになった「生命(いのち)」は、これくらいで消えてしまうヤワなものではありません。

最初に世界が凍った時に、世界に満ちていた大きな竜の様な生き物達は皆凍えて死んでしまいましたが、生き残った小さな動物がまた大きく育って世界に満ちました。

その大きな獣たちも何度も凍る世界に巻き込まれて消えて行きましたが、その都度生き残った生物が氷が溶けて春を迎えた世界に満ちて行きました。


今も冷たく凍りついた世界ですが、あちこちに未だ命の気配が残っています。


やがてこの永い永い冬も終わりを告げ、春を迎えて四季はまた巡っていくでしょう。


新しい春を迎えた世界には、いったいどんな生き物達が生まれているのでしょうか?


神様は期待に口元を綻ばせましたが、ついでおおきな欠伸(あくび)が出てきました。 ずっと働きづめだった神様もお休みが必要なようです。

この後、目が覚めた冬の女王様と他の女王様方を仲直りさせるために取り成ししなければなりませんし、新しい春を迎えた世界にも少々の手直しが必要でしょう。


ですが、まずは一休み。 神様は新しい春の訪れを楽しみに一時の眠りにつきました。


これでこの物語はおしまいです。 それでは皆さんお休みなさい。


さようなら。

暖房の効かない自室と、暖房のない職場で震えながら考えた話です。


今年の冬も寒いですね……

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