二話 入学式当日
大分急展開なので、訳わかんねぇって感じになるかもです。すみません。
目覚めは最悪だ。
昨日、あんなことがあったのだからしかたないのだろうが、にしても最悪だ。
カーテンで閉めきった窓からは小鳥の囀りが聞こえてくるが、今は小鳥を愛でる気分じゃない。
ベッドの横の時計を見てみると、朝の6時半頃を指していた。
昨日出来なかった準備を済ませてしまおう。
「はぁ~・・・。」
何故晴れやかな気分になるはずの今日にこんな気分にならなくてはいけないんだ。
僕が何をしたんだ何を。
必要なのは筆記用具と上履きと体育館履きと、スピーチ原稿だっけ。
スピーチ原稿はもう内容は覚えたのでいらないか。
成績最優秀者は入学式で祝いの言葉と、生徒会に入るにあたっての意気込みを壇上で話さなくてはいけない。
そりゃあもう面倒臭い。
成績最優秀者であることに不満はない。
あったら殴られるし殴る。
けど生徒会には入りたくない。
これも他の人に言ったら殴られるけど。
そーいや、兄様のことはどうしようかなー。
兄様ルートに入ると確実に死ぬんだよなぁ。
やっぱり、一度死を経験していても、死ぬのは怖い。
死ぬのも、家族に恨まれるのも、暗闇も、鋭利なものも。
全部、怖い。
僕は、こんなにも怖がりだったのだろうか。
こんなにも、弱かっただろうか・・・。
って、そんなの気にしても仕方ないか。
兄様ルートに入らせないたには、接触させないのが一番だろう。
しかし、そもそも僕の方があまり接触出来ないのでは、どうしようもない。
詰んだ詰んだ。詰んでしまった。
あ~れ~ばたんきゅー。
どうせなら寮に入っておけばよかった。
まあ、家主がいなくなるのは色々と問題なので入らないが。
「もういいや、どうせ兄様は王道でいう爽やかポジションだし」
準備はもう終わったので、朝食を作ることにしよう。
部屋を出てリビングに向かい、冷蔵庫から卵やウインナーなどを取り出した。
朝食はいつも一人分だけ作る。
兄は朝食を食べないからだ。
健康面で高校生としてどうなのかとは思うが、何故か風邪をひいたことがないという健康体なので文句は言えない。
何でちゃんと食べてる僕の方が病弱なんだ・・・。世の中理不尽だ。
冷蔵庫からだした卵やらウインナーやらを焼いて皿に盛り付ける。
こういう時の表現としては盛り付けるよりものせるの方が合ってるような気もしなくもないが。
軽く作った朝食をすませると、兄が入ってきた。
もうそんな時間か。
兄はいつも7時に起きるので、今はそれくらいの時間だろう。
「おはよう光弥。昨日はごめんね。」
「おはようございます。昨夜のことは、気になさらないでください。」
「うん。あぁ、でも、これから一人にしちゃうけど、もう、僕と関わらないでくれないかな。」
「え・・・。」
思わぬ言葉に思わず目を見開いた。
何故、急に、そんなことを言うのか。
今まで、確かに鬱陶しそうにしているのは分かっていたが、そんなことは言ってこなかったというのに・・・?
「聡い光弥なら、気づいていただろう?僕が、光弥を恨んでいること。」
「あ・・・。いや、そ、れは・・・」
兄様は、そんなに僕を恨んでいたのか?
兄様までもが僕を、見捨てるのか?
僕は何をした?
兄様に何をしてしまった?
やはり昨日の件のせいか?
「もう、嫌なんだ。光弥の成長を見るのは。」
嫌だ。
聞きたくない。
僕を傷つける兄様の言葉なんて。
一度でも信じた人の拒絶なんて。
「家と名前はあげるけど、性は返してもらうよ。」
あぁ、繋がりが切られてしまう。
何で、何で、何で、何で?
「じゃあね、来栖くん。役所で勝手に性を戻させてもらったよ。あと、入学時の書類も。」
崩れた。
何が?
何もかもが。
繋がりが。
信じてきたものが。
大切にしてきたものが。
兄様は唯一の家族だから、大切にしてきた。
慕って、ここまで、やってきた。
でも、捨てられた。
何故?
恨まれていたから。
何故恨まれた?
何故だろう。もう、分からないな。
「さようなら、兄様。そして、いってらっしゃい。」
せめて、笑って送り出そうか・・・。
兄様は荷物を片手に出ていってしまった。
皆、僕を捨てていく。
お母さんも、お父さんも、お父様も、兄様も。
皆、僕を捨てた。
捨てられた僕には何が残った?
深い絶望と喪失感。
もう嫌だ。
こんな辛い思いなんて、もう嫌だ。
僕を捨てないのはいつだって僕だけだ。
「うっ、くっ、うあっあぁ・・・。なんっで・・・。」
何で?どうして?
自然と涙が溢れてくる。
信じてたのに。
皆信じてたのに。
どうして一番望んでいたものが手に入らない。
頭がよくたって、容姿がよくたって、もっとも望んだものだけは手に入らない。
望んだ幸福だけは、手に入らない。
今度こそ幸せになれると思った。
前世でも家族に捨てられて、今世でも捨てられて、ようやく出来た家族だと思った。
もう、大丈夫だと安心していた。
でも、駄目だった。
信じた人は、家族は、皆僕を捨てていった。
兄様が学園の寮で暮らすのも知って居た。
でも、まだ、少しくらいは、一緒に居られると思っていた。
「ははっ・・・。もう、やだなぁ・・・。」
もう、こんな絶望を味わいたくない。
僕はどうすればいい?
いっそ人間関係なんてものは捨ててしまおうか。
だって、どうせ皆僕を捨てるんだろう?
なら、もう要らないじゃないか。
弱いな。僕は、いつの間にこんなに弱くなったんだろう。
兄様に、大分依存していたのかもしれないなぁ・・・。
何であろうと、兄様は僕の唯一の家族だったんだから。
「・・・・・・・・・・・よしっ!泣いてちゃ今日のスピーチが台無しになっちゃうな!」
両手で両頬を叩いて気合いを入れ直す。
自分意外に誰もいなくなったこの駄々っ広い家はちょっと寂しいけれど。
「あれ、もう7時半?早くない?」
壁掛け時計を見ると、7時半を指していた。
早く着替えなくては。
成績最優秀者はスピーチをするので、そのためのリハーサルがあるのだ。
面倒臭いことこのうえない。
静かになった家の中を見渡しても、兄様の所有物はなくて、まったくではないが生活感がない。
僕の所有物って、全然無かったんだなぁ。
寂しい。
とてもじゃないが寂しい。
「はぁ~・・・。面倒臭い。」
気にするなと渇をいれてやりたい自分の思考回路に、呆れるしかない。
「・・・・・・頑張ろ。」
うん。
頑張ろう。
笑顔でいよう。
笑顔であることが何より楽しいし、一番楽だ。
不況さえも楽しんでしまえばいい。
自分の部屋に置いたままの鞄を回収して、玄関に向かい靴を履き替えた。
「いってきます。」
返ってくる声があるわけでもなく、何故かショックをうける。
くっそう。
というか、家の前の表札もいつの間にか来栖になっていた。
抜かりないな兄様。
この傷を抉る感じ本当にやめてほしいと思う。
徹底しすぎて寧ろ恐ろしい。
「はぁ~~~・・・・・。」
これ以上逃げる幸せもないので盛大に溜め息をつく。
スピーチやらお父様のところに向かうやら、面倒だが普通に頑張ろう。
少し笑みを零すと共に、僕は学園に歩みを進めた。