表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

一話 入学式前日

「あー、よく寝た!」


ベッドの横に置いてあるデジタル時計を見てみると、午後5時を指していた。

ベッドから起き上がり、机の横の本棚からノートを一冊抜き取った。

学園に通うと決めた時に書いたものだ。


『僕が愛する君へ。』略して『愛君』は、僕と兄が通う聖泉学園(せいせんがくえん)を舞台に繰り広げられる。

あ、一応断っておくが、僕の一人称は僕だし、一応誰にでも敬語は使っているが子供には使ってない。

前回は何となぁーく前世の口調で語ってみただけだ。


そんなことはいいとして、愛君の説明をしよう。

愛君は、主人公と攻略対象者、そのストーリーごとの悪役と、特殊な能力を持った者達で話を構成している。

特殊な能力を持った者達は所謂助っ人で、悪役と同様にそのストーリーごとに一人ずつ存在している。

僕の母も能力者で、能力を作り授ける能力だった。

母様恐るべし。

チートだチート。能力者作っちゃうとか凄すぎでしょ。

まあ、母がそんな能力を持ってくれていたおかげでライバルキャラであるにも関わらず僕は能力を持つことが出来たのだが。


僕の能力は変化。

能力を解くと男になる。

え?前回男装とかいってたのは何だって?

ぶっちゃけよう。

僕は元から男だ。

男だと面倒な政治に巻き込まれるからと女に変化してただけだ。

ただ、やりすぎて自分でも男であることを忘れていた。

家では変化を解かなかったので、皆女だと思っていたみたいだ。

まぁ、一応能力には使用制限というか・・・ファンタジーで言えばMPみたいなものがあるのだが、使用回数が異常に多かったからなのか元から何らかの素質があったのか、今はMPのようなものは無限に近い。

それはいいとして、兄の家に着いて自分の部屋に案内されてから直ぐに変化を解いた。

元々、顔は中性的だったし、殆んど見た目を変えていなかったのは正解だった。

兄には少し不思議そうな顔をされたものの、「緊張が解けたんだね。」とだけ言われて終わった。


本題に戻ろう。

特殊な能力を持った者達は、忌み嫌われている。

得体の知れぬ力を有しているのが恐ろしいのだろう。

僕も母も、能力のことは明かしたことがない。

勿論、家族であった父にもだ。

父は酷い能力者嫌いだったからしかたない。

母も、能力のことを理由に離婚を切り出されるのを恐れたのだろう。

僕は結局、恨まれてしまったが・・・。

また話が脱線した。

特殊な能力を持った者達は忌み嫌われ、人を嫌うようになったが、能力者を嫌わない主人公には心を許し、色々な助言をしてくれるのだ。


エンディングはハッピーエンド、バッドエンド、ハーレムエンド、残念でしたエンドの4つがある。

ハッピーエンド結ばれたエンド。

バッドエンドは監禁とか、何故か主人公自ら逃げちゃったり、なにか問題が発生して終わるエンド。

ハーレムエンドはまあ、その名の通りハーレムなエンド。

残念でしたエンドは、あと一歩足りなかったねっていうか、中途半端に進めて終わっちゃったエンドだ。


あとは・・・学園についてか。

聖泉学園は男子校と女子校に分かれており、寮もそれぞれ分かれた位置にある。

僕は家に残るが、兄は寮に住むそうだ。

ただでさえ広い家なのに、掃除が面倒になるし、なにより寂しいのだが、兄は一刻も早く、僕から離れたいのだろう。

生徒数は男子の方が多いため、飢えた奴等が煩いらしい。

偏差値は91と結構高い。

兄もろとも本当に苦労した。

まあ、僕は成績最優秀者になったが?

あ、ちょ、ごめんなさい。謝るから握り拳下ろして!

ふぅ・・・。入試試験で成績最優秀者になった者は、一年生で唯一、生徒会に所属することが出来る。

まあ、今回は僕だけでなく、僕と同じ点数を取ったもう一人の一年生も生徒会に選ばれたようだが。

今の僕は本当にスペックが高い。

前世の僕も頭はよかったのだが、今の僕に比べればそうでもなかった。

今の僕は高すぎるくらいだ。

勿論、そんな学園に頭の悪い人は誰一人としていないので、主人公も頭がいい。

学園の中では中の下くらいだったと思うが、普通の学校なら上の上だろう。

教師達は僕達のレベルに合ったテスト作りに苦労しているらしいが、教師達も頭がいいのに苦労するんだなぁなんてちょっと思った。

因みに、先生の中には攻略対象者はいない。

攻略対象者は生徒だけのようだ。


何か面倒になってきた。

さっきからノートに書いたものをただつらつらと説明してるだけだから、飽きた。

ちょっと自分の事でも話そうか。


僕の前世での名前は、河野碧(こうのみどり)だ。

頭はいい方だったが、それ以外の事はどんなに頑張っても出来なくて、努力をすればすんなり身に付いていく勉強が何よりも好きだった。

家庭環境には、あまり恵まれていなくて、施設で育った。

高校に行くのと同時に施設を出て独り暮らしを始めた。

料理も勿論と言ってはなんだが、全くと言っていいほど出来なかった。

見た目は太ってもなく痩せてもいなく、ショートカットの黒髪に眼鏡という、特に特徴のない見た目だった。

死んでしまった理由は確か、お隣さんだったはずだ。

お隣さんがなかなかのイケメンで、ストーカー被害に遭っていたらしく、痺れを切らしてお隣さんに襲いかかったストーカーの振りかぶったナイフを、僕がかわりに受けたのだ。


そして、今の僕。

名前は、前は来栖葵(くるすあおい)だったが、鴛原家にいる今は鴛原光弥(おしはらみつや)だ。

今の僕は本当に何でも出来るようになった。

スポーツや料理、勉強だって、前世の僕よりもっと出来るようになった。

今度は、恵まれた環境に身を置くことが出来るだろうと、安心していた。

結局今の僕も、家庭環境には恵まれていなくて、ついでに友情なんて程遠い位置にいる。

こればっかりはきっと、高望みが過ぎたのだろう。

そして見た目は、中性的な可愛い系の顔立ちで、白髪赤目といった感じだ。

そう!気づいたか!今の僕はアルビノなのだ!

これを自分で言うのもどうかと思うが、色素の薄い透き通るような白い肌はもちもちしていて触り心地がいいし、白い髪も絹のように艶やかだ。

おい待て何を勘違いしてるか知らないが僕はナルシじゃない!姿見の前に立って「僕って可愛い♡」なんて言ったことない!今の台詞吐きやがったのはお義兄様だ!!

・・・っと、失礼。少し取り乱してしまった。

アルビノらしい所は乙ゲー仕様なのか見た目以外は特にないので結構助かっている。

ただまぁ、あえて言うならば運動面だろうか。

運動は得意だが、あまり体が強くないので制限されている。

思ったように運動が出来ないのは苦だが、そのおかげで勉強がはかどっているから、結果オーライってやつだろう。

勉強だってちょっとやっただけで直ぐに頭に入り、忘れることは無くなった。

これまでの優れた能力のせいで恨まれはしたが、前世とは天と地ほどの差があったから気にしていない。

さすがに、二度も家族に恨まれたのは正直堪えたが・・・。まぁ、人生の長さとしては今世の親よりも前世の孤児院のおばあちゃんの方が付き合いが長いし感謝しているから、さほど気にしていない。


一応言っておくが、僕は本当にナルシな訳ではない。

ただ単に、環境的に恵まれ過ぎてハイテンションになっているだけで、寧ろ今の自分は少し嫌いだ。

心の中では今みたいに流暢に話しているが、実際人と話してみるとどもってしまう。

この人に自分はどう思われているのだろうとか、色々いらない心配をしてしまったりとか・・・。

あれ?じゃあ、前世とは内面的に見れば大した差はないのか?

前世の僕もどもったりいらない心配したりしていたし・・・。

となると見た目とスペックだけ違うのか。


前回も言ったが、僕に比べると兄は完璧だ。

攻略対象者だから、という理由もあるかもしれないが、超のつくイケメンだし、愛想は良いし面倒見も良いし、勉強だって出来るし、健康体で運動が得意。

非の打ち所がないとは兄のことを言うのではないだろうか。

まあ、勉強は辛うじて僕の方が出来るようだが、前世の記憶があってこそ成り立つものだろう。

あ、でも兄は女性恐怖症だったな。

しかしそれ以外は本当に完璧なのだ。

兄様、恐るべし。


これまでの内容をノートにしたためた訳だが、結構な情報量ではないだろうか。


「疲れたぁ、これ、肩凝る。」


ベッドの横の時計を見ると6時10分を指していた。

ちょっとタイムオーバーだが、そこは許容範囲ってことで。


(ごはん食べてこよーかな。確か、昨日作ったハヤシライスがまだ残ってたはずだから。)


ノートを閉じて本棚に戻し、部屋を出てリビングに向かうと、兄が丁度食器を洗っていた。


「あ、兄様・・・。」

「・・・。」


なにやらイライラしているようだし、何も喋ってくれない。

兄よ。

イケメンが本気でイライラしていると普通に恐いのでやめてくれ。

こういう時はほうっておくのが一番なので、兄と話をするのは諦めるとしよう。

冷凍庫から冷凍ご飯をとりだし、レンジで温める。

食器棚から皿とコップを取り出して、皿を台所、コップをテーブルに置き、冷蔵庫からリンゴジュースを取り出してテーブルに置いた。

ご飯が温まるのを待っていると、いつの間にか兄がテレビの前のソファーに座って本を読んでいた。

オーラと言うべきか覇気と言うべきか。

大分機嫌が悪いみたいだ。温めたご飯がすぐ冷えそうなくらいに何か、寒い。

まぁ、実際に室温が下がっている訳ではないので気にせず温め終えたご飯を皿によそい、鍋の中のハヤシライスのルーをご飯にかけてテーブルに置いた。

あ、スプーン忘れてた。


食器棚の引き出しからスプーンを手に取り、テーブルの椅子に座ってから手を合わせる。


「いただきます。」


イライラしている兄がいるからなのかなんなのか、食べてる気がしない。

味もしない。

耐えがたいなぁ。

出来ればもう少し落ち着いてほしいんだけど。


はぁ・・・明日から家では会えないのに・・・。


何にイラついてるのか分からないけど、明日には機嫌が直ってくれているとありがたい。

先程からページを一切捲らず、本の中心を睨んでいるようだから、何か考え事をしてるんだろう。

触らぬ神に祟りなし、とはよく言うが、触らなくても祟られそうな時はどうしろと言うんだ。


「・・・ごちそうさまでした。」


味が分からなかった・・・。

分からずにお腹だけいっぱいになってしまった・・・。


「はぁ・・・。」


あのー、兄様?あからさまな溜め息つかないでいただけませんか?


「に、兄様?どうかなさったのですか?」

「・・・。」


目をそらすのではなく答えて下さいませんかねぇ兄様!?


「・・・無理はしないで下さいね。」


もういいや、部屋に戻ろう。

明日の準備も終わってないし。


リビングを出て部屋に戻り、明日の準備を始めると、ドアの開く音がした。

音がしたのは、僕の部屋のドアだったらしく、音のした方を見ると、兄が立っていた。

マジですか。

えぇぇぇぇ何この状況!?めちゃくちゃ緊張するんだけど!?


「どうか、なさいましたか?」

「・・・。」


だから何か言えって!目は反らさなかったけれども何か言えって!


「兄様・・・?」


あの、本当に何か言って下さいお願いします。

本当にどうしたんだ。

いつもなら、恨んでるとはいえ愛想笑いは浮かべてくれるし、優しい声をかけてくれるというのに。

やはりイライラしているせいなのだろうか。


「光弥、ちょっとこっちにおいで。」

「は、はい。」


良かった、普通に笑ってくれた。

手招きをされたので兄の方に寄っていくと、腕を掴まれ壁に背中を打ち付けられた。

それによって肺の空気が押し出され少し咳き込む。


「光弥のせいだ!」


兄が、僕に怒鳴った。

久しぶりに向けられた恨みのこもった憎しみの目。


「兄、様?何が・・・あったんですか?」

「襲われたんだ!雇われ屋に!光弥を誘き出す為に俺が狙われた!」


雇われ屋・・・?それってもしかして・・・いや、もしかしなくてもお父様?それともお義母様か・・・?お義兄様という可能性もあるな・・・。

って、こんな事考えてる場合じゃなかった!


「兄、様・・・。その件はこちらで処理しておきます。迷惑をかけてしまいすみませんでした」

「まったくだ。もう襲われるのは嫌なんだ。ちゃんと対処しろよ」


いや、あの、僕もいい加減貴男に恨まれてるの嫌なんですけど。

・・・まぁ、いいや。昔には戻りそうにないし。


兄が襲われるのは始めてではないし、僕が恨まれるのも勿論始めてじゃない。

兄が襲われたのは中学三年生の時。

原因は僕のお父様ではなく、兄自身ではあったが。

昔の兄は、本当に非の打ち所のない、完璧な人だった。

勉強も出来るしスポーツも出来るし、人付き合いも良い。

色々な人の理想形だった。

そんな兄に、ある日、悲劇とも呼べる事件が起こった。

兄のストーカーが、暴走して兄を殺して自分のものにしようとしたのだ。

誰にでも愛想の良い兄は、そのストーカーにも優しく接していた。

そのことを、自分のことが好きなのだと解釈したストーカーが、兄を自分のものにしたいがために兄を襲った。

幸いというべきか、ストーカーが兄に振りかぶったナイフは、僕が兄を庇うことで兄は無傷に終わった。

だが、その事が相当ショックだったのか、兄は女性恐怖症になった。

恐いものがなかった兄が、初めて、恐いと思ったものだった。

ストーカーの使ったナイフは、鋭利に研がれたものだっただったようで、僕の背中には、大きな傷が出来た。

僕の体には悪目立ちするので、僕は温泉にすらいけなくなった。

好奇の目で見られて入る温泉でリラックスなんて出来るものか。

まあ、家の風呂がやけに広いのが唯一の救いだと思う。

ていうか、危うく前世に引き続き今世もストーカーのせいで死にそうになったんだけど。

何だよ。ストーカーどもは僕に恨みでもあるのかよ。いや、まぁ、確かに?絡みに行ったのは僕なんだけど?


あぁ、にしても面倒臭い。

お父様の元に出向かなくてはいけないなんて本当に面倒臭い。

明日、入学式の後にでも行こうとは思うが、何故今更雇われ屋なんて雇ったんだか。

「はぁ・・・。」

さっさと準備を済ませて今日は寝よう。そうしよう。

お休み兄様。

もう二度と、恨まれないことを願うよ。無理だと思うけど。

皆さんはプロローグで僕と朝緋に騙されたんです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ