8月14日朝8時
「山際ぁー!起きやがれぇ!!」
スマホがポッポーと着信を知らせた事に寝ぼけ眼に松は気がつき、のっそりと緩慢な動きで電話に出れば上司である坂下(課長)から朝一番からの怒鳴り声。
朝から耳がキーンと痛む。
「何でしょうか坂下さん。」
「どうしたもこうしたも良いから会社に急いで来い!私服で構わないから急いでだ!」
そういうと坂下はでんわを切った。
「?怒り方的にはやらかした系統じゃ無いねぇ。
何ざんしょ」
あくびを一つ漏らした。
無理やり叩き起こされたため、ちょっと機嫌が悪いなーと自己分析結果だった。
愛用のママチャリでギコギコとスッピンジャージで会社に向かう。勿論マスクなんかしない。てか、高々スッピンぐらいでマスクを消費するのがもったいない。駐輪場にママチャリを止め、事務所へと上がっていく。
「おはよーございます。
坂下さん、何事でしょーか?」
「あぁ、山際。電話では怒鳴って悪かったな、これを見てくれ。」
どうやらパソコンのメール画面を開いているらしく、画面を指差す。
内容を見てみると思わず眉をしかめた。
「…こー、れは……」
「どう思う?」
「確かに口が軽い子が何人かいますが、内容が内容なだけに、ちょっと不味いですね。」
「お前ならどうする?」
「原因も誰かも特定できていませんし、私でしたら上に報告。気づいていない振り、ですね。」
「成る程、その手もあるか。ありがとう。」
「お礼はモーニングで良いですよー。」
にしし、と唇を引き伸ばして笑う姿を見て、坂下は苦笑した。
「駅近くの゛クロネコ゛で待ってろ。
俺は報告したら直ぐに行く。」
「やふーい!あそこのモーニング美味しいんですよねー!」
松がカフェ゛クロネコ゛に到着し、一時間。何も頼まず、サービスのレモン水飲みで口寂しさを誤魔化していると、漸く坂下が到着した。
「悪い、待たせたな。」
「いいえー、レモン好きなので苦にもしてません。」
端から見ればきっちりとスーツを着こなした男前風の男性にスッピンジャージの女性の組み合わせは回りから目立った。
しかし、このカフェは隠れた場所にあり、地元の人間程度しか客は入らないため、松がだらしない格好で居るところは見飽きた面子しか居ないため、誰も気にした様子はない。
ウェイターが松の連れが到着したことに気付き、注文を聞く。
「私、Aモーニングにホット豆乳!」
「俺はエスプレッソをくれ」
「畏まりました」
ニコリと微笑んだ彼女はカウンターへと消えていった。
比較的早く坂下のエスプレッソが到着し、少し遅れて松のモーニングが到着した。どうやらパニーノであるらしい。
勿論、モーニングが来る間、坂下はエスプレッソを飲む。
「いただきまーす!」
パニーノにかじりつく。
固めでもっちりとしたパンにゴーダチーズとシャキシャキのレタス。生ハムにトマト、スライスしたヤングコーンが入っており、かなりの食べ応えだ。よく噛み締めると、パンの甘味と自家製マヨネーズの卵の風味の鼻から抜けていく。
ホット豆乳で口の中を潤し、更に食べ進める。
「本当にそのセット好きだな」
「はい!」
朝、叩き起こされ、僅かにモヤモヤとした気持ちはもう無かった。