僕はNPCに愛を叫んでみる
何となく思いついたので書いてみました。気が向いたら続き書くかも知れません。
「君が好きだ!僕と恋人になってくれっ!!」
「ごめんなさい。私人妻なんです」
「…………」
右手を差し出し告白する僕にNPCはそう言って断ってきた。
彼女は僕にお辞儀をして、そのまま去っていった。
紫の腰まである長い髪を首の辺りで三つ編みにまとめ、いかにも街娘といった風のうす緑の長いワンピースと茶色のベストを身に纏ったおっとりお姉さんタイプ。
もろ好みの容姿だったので、つい言ってしまったが玉砕してしまった。
このゲームを始めて通算50人目である。
〈NEW HORIZON【E】 WORLD〉
巷でいくつも発売されてるVRゲームでも人気上昇中のタイトルで、(といっても他の2タイトルが抜きん出てる)いわゆるMMORPGという奴である。
たまたまホームセンターで残っていた最後のひとつを手に入れプレイを始めたのが三ヶ月前。
このゲームは王道と言われるストーリーはあるのだが(魔王を倒して平和な世界にする)、それ以外にも現実と同じように様々な事や自分のやりたい事がプレイ出来るのだ。
例えば、領主になって領地を開拓したり、鍛冶師になって剣や防具を造ったり、料理を作って店を開いたりetc、etcである。
一部では会社の研修をVRゲームの中でやってたりするので、それもなる程という訳である。
僕も当初は真面目?にストーリーに沿って冒険をしていたのだが、とある理由で断念することにした。
その理由とは、Mob――ようはモンスターが僕に敵意を表さず懐いて来たことだった。
最初は気にせず倒していたのだけど、しまいに仰向けに寝転がり腹を見せられては戦う気も失せるというものだ。
運営にクレームを付けても仕様ですと返信されるばかりで、掲示板でFAQをしても、〈バカじゃね?〉〈ウソタレ乙〉〈うちのギルドに〉とか炎上寸前で思わずドン引きしてしまった。
それでも何とかメインストーリーの第1章までクリアしたけど、そこで僕の精神が力尽きてしまった。
だってボスモンスターが目の前で大の字に寝転がって「さあ!」とか言われたら、何ともコメントのしようが無いじゃないか。
やむなく戦闘職から、生産職へと方向性を変更したわけだが、DEXの低さが災いして失敗続きでへこみまくる。
だってゲームやり始めのプレイヤが―生産をやっても最低評価はGになるのに、僕が生産したものは全てZとなる。
Zってなんだよ?Zって!!
そこはかとなく運営の悪意を感じながらもゲームを止められずにいるのは、中にいるだけでも楽しいが故だろう。
戦闘や生産だけがお金を稼ぐ手段ではないので、僕はもっぱら街中でのお手伝いクエストや、商人の依頼で街から街への商品の配送をして小銭を稼いでいる。(絶対Mobに襲われないから)
必要とあれば課金もあるからね。
これで通信料込みで月額2000円なので学生の身としてはとても有難いのだけど、それだけではやはり飽きてしまう。
人間とは慣れる生き物とは良く言ったもので、刺激がないとどうしても長続きしなくなる。
そう、その結果がNPCの女性に告白することだった。
リアルではそもそもコミュ力カースト底辺の僕は、女子とまともに会話をしたことがない。
何気無い会話など不可能に近く、授業などのグループ活動でも「ああ」とか「うん」とかしか言えていない。
NPCの女性が相手なら、「臭いんですけど」とか「うざっ」とか「キモっ氏ねば?」とかは言われないだろうという少しだけ姑息な理由も入ってるが、同じ女性なので少しだけでも慣れるのではないかと思ったのだ。
「そういう訳でNPC女子50人に告って全て断られた」
「………おま、フツーにゲームやれよ」
「いや、出来たらやってるし………」
「……………」
僕のことを思い出して口をつぐむ全身鎧のPC。
このイケメンはヂャイアンといってパラディンで最初の頃パーティーを組んでいたリアルフレで、今じゃトッププレイヤーに名を連ねている廃人だ。
ここはフォズテイル王国の王都にある酒場の中。
メインストーリーの第3章後半にある国だ。ようはゲームの最前線だ。
本来なら、僕のレベルでは来ることの出来ない所なのだが、モンスターに相手にされない今の僕にとっては関係なく来れてしまっていた。
「だからってLv50がこんな所に来るのもおかしいがな」
「仕方がない。僕だってモフモフがしたいんだから来るしか無いじゃないか!」
そう、この第3章のエリアボスが│黄金色の九尾狐なのだ。いわゆるレイドボスなのだけど、人の身長を遥かに越えるその巨体を包む毛皮は、何とも言えぬ感触を僕に与えてくれたのだ。
なので、1ログイン1回九ちゃん(命名)の所に行ってモフモフを堪能したりブラッシングをしてあげたりと過ごしている。
僕が知ってるだけで、5つのレイド30パーティーが九ちゃんに挑み全滅している。九ちゃんマジ強っ。
そして残りの時間はNPC女子への告白へと費やしているのだ。
「ま、それはそれとして何で告白プレイなんて始めんたん?」
本心は隠して、建前として用意してあった理由付けを話す。恥ずいからな。
「この前のアプデからAIの性能アップデNPCの表情とか応対が人間ぽくなったじゃん。そしたらNPCの女子がかわゆく見えたからだ」
「……………」
何言ってんのこいつという顔で僕を見やるヂャイアン。
2ヶ月前のアプデでNPCの態度がガラリと変わったのだ。
攻略組とかは街中にあまりいないせいか気付かないみたいだけど、態度の悪いプレイヤーなんかは諍いを起こして、衛兵に捕縛されペナ食らったりしている。
掲板でも一時祭りが出来た程だ。
「ほいで何基準で告ってるわけ?」
ブラウンシチューの残りをフカフカパンで器用にすくいながら、ヂャイアンが聞いてくる。ガチガチの鎧着てて器用なことだ。
僕はサンドイッチを囓って咀嚼してから答える。うまい。
「第1印象?この子か―いーと思ったら告ってるよ」
さっきも言ったように何でもござれのこのゲームでは、料理もスキルを上げていくと評価が上がって美味しく出来る。
アプデの後はプレイヤーよりもNPCの方が美味しく料理を作り上げてるほどだ。(ただプレイ自体には、何のプラスにもならない。ただしプレイヤーの料理には若干のバフがあるだけ)
「このっっ!お馬鹿も――――――――んんっ!!!」
スパパパーンと顔面を何かで叩かれる。突然の出来事に驚きはするがダメージは1Ptも受けていない。そもそも街中ではPvPでもしなければ戦闘行為は出来ない仕組みになっている。
そうして横を見てみると、ハリセンを抱えた見目麗しい妙齢のエルフ女性が眉尻を上げて立っていた。
「あ、スカー………レットさん。こんちは」
やばっ、スカさんって言いそうになった。そう言うとすんごい怒るのだ。この人。
「こんちは、じゃないよ!キッくん。バカだバカだと思ってたけど、そこまで馬鹿だったとは思わなかったよ!!」
酷い言われようだ。いや、おつむが逝ってるよりかはマシか。
この人も最初の頃パーティーを組んでいた人で後衛で魔法使いだったのに、今では何故か前衛でグラップラーをやっている変わり種だ。
ちなみにGLBTな人で、通常VRゲームは性別変更は不可なのだけど、運営に届出れば可能になる。
僕もCOされた時は驚いたのだが、今ではもう慣れたものである。
でもってヂャイアンは別のMMOではネカマプレイヤーをやっていたらしく、スカさんと何気に仲が良い。(でも本人はノーマルと言っている)
僕はどちらかと言えばスカさんには突っ込まれることが多い。コミュ力底辺の僕を相手にしてくれる有り難い人ではある。
ちなみに僕のプレイヤー名はキクゾーである。本名が勇蔵だから何となく。
どうやらスカさんは聞き耳を立てていたらしく、僕の行動にいたく御不満のようで未だ眦を上げてこちらを睨み立っている。
「とりあえず座ったらどうです?周りの迷惑になりますし」
「誰もいないじゃない」
「………そうですね」
僕の言葉に諦めたように息を吐き、僕達が座っている4人掛けのテーブルのヂャイアンの隣へと座る。つまり僕の斜め向かいだ。
すると看板娘のエイナちゃん(10)がお盆を片手にやって来たスカさんに注文を聞いてくる。
「騒がしくてゴメンね。あとコーヒーお替りお願いします」
「私もコーヒーお願い」
「あ、俺も頼みます」
「はい。コーヒー3つですね。畏まりました」
食べ終えた食器を渡し、謝罪しながらコーヒーのお替りを注文する。ヂャイアントスカさんも、それに便乗して注文してくる。
うんうん。これも告白の成果と言えよう。
僕の場合は羞恥心を無くせばいけるのではないかと分析している。リアルでは何故かどもってしまうのだ。
僕がドヤ顔で看板娘エイナちゃん(10)を見送っていると、スカさんが呆れた様にハリセンを僕の頭に落とす。
「なにゆえに!?」
「告白慣れしてきたので、コミュ力上がったってドヤ顔してるから」
「っ!」
何と鋭い。しかしその程度のことでは僕の動揺を誘うことなど出来ないのだ。ふふん。
スパン。
「…………」
少し静かにしておこう。
エイナちゃんがコーヒーを3つ持って角砂糖とミルクピッチャーとともにテーブルに置いてくれる。
何故か僕が全部支払うことになる。解せぬ。ま、払うけど。
僕はブラックでスカさんとヂャイアンは角砂糖4つとミルクをたっぷり入れて飲み始める。お子ちゃまめ。っにがっ。
コーヒーをしばらく堪能した後、僕から話を切り出す。
「ところで僕の話を聞いてお馬鹿もんって言ってましたけど、男も女も第1印象って容姿じゃないんですか?」
僕の問いにスカさんははぁと溜め息を吐き答えて来た。
「そりゃ、ひと目見て可愛いやら格好いいってのは第1基準と思うけど、それだけじゃないでしょ?」
「…………ふえ?あと何が?」
スパン。あんまり叩かんで欲しい。
「いきなり告るんじゃなくて、相手の事を知る必要があるって言ってるのよ。それにOK貰ったら付き合うんだから当然でしょ?」
「…………なっ!」
え?付き合う。
ガラガラガラガシャシャ――――――――――ンッッッ!!!!!(心理描写)
ふぇ?OK貰ったら終わりじゃないっ!?
でもアニメやラノベでは、そんな描写は見た事が無い。いや、叔母さんが描いてる少女マンガでは――――確かに告ってから付き合い始めてるっ。なんてこった!!
僕にそんなコミュ力はないっっ!!!
ガクリと肩を落としうつむきうな垂れる僕に、スカさんが優しく声を掛けてくる。
「キッくん大丈夫!私達が協力してあげる。その代わり―――――」
「ぬっほ――――――――――っっ!!モフモフゥ―――――――っ!!!」
「っっっっっっっっ!!!(感動している)」
『きゅ~~~~~~~ん……………(涙目)』
すまない九ちゃん。しばらく辛抱してくれ。
ここは王家の隠墓ダンジョン30階。その奥にあるダンジョンボスのいる大きな広間の様なところだ。
スカさんとヂャイアンはレイドボスである九ちゃんの毛並みを身体を埋もれさせながらグリグリと耽溺している。
こいつ等酷いんだ!嬉しそうに僕に寄って来るモンスター達をなんの躊躇も無く一撃で屠って行くのだ。
そのお陰でパーティーを組んでる僕は経験値を得られるのだが、複雑かつ忸怩たる思いだ。
この後、プラッシングを丹念にして九ちゃんの御機嫌をたっぷり取ってから街へと戻り、僕への告白講座が始まった。
やっぱ別に必要ないと言ったら、ハリセンでしこたま叩かれてしまった。やれやれ。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます