どんより。
ある日、仕事仲間に言われた。
「桃子さんってマジメですよね」
一瞬、褒め言葉かと思ったが、その後の言葉を聞いて、違うと思った。
「マジメ過ぎて引く時がありますもん」
引く・・・ってことは、良く思われていないということだ。
その言葉を聞いてから、私の頭から離れないのだ。
「マジメ過ぎて引く」
私ってそんなにマジメだろうか。不真面目ではないけれど、引かれてしまうほどのマジメちゃんでもないつもりでいた。
仕事は、やっぱりキチンとしたいとはいつも思っている。けれど、O型の性格からか、手は早いけど雑な部分もあったりするので、完璧にこなしているわけではない。じゃあ、何がマジメなのか。仕事の丁寧さじゃなくて、態度かな?とも考えたが、「引きます」と言われた相手とは、よく仕事の合間に冗談言ってふざけたりしてるのだ。確かに、冗談言って笑い合っていても、お客様が入って来られると、ピシッと仕事モードに切り替えるのだが、これがいけないことなのか?お客様が来店しても、ふざけた態度のままでいる方のことがおかしいと思うし、この件で引かれているとしたら、それはちょっと違うと思う。
仕事の作業のことで店長から言われたことは、必ず守る。これが引く原因か?別に、店長に言われたから『店長のために』守っているわけではない。言われた時に、その内容が『ああ、なるほど。こうした方がいいなぁ』と思えるからやっているだけで、例え店長から言われた事柄でも、自分が納得しなければ反論もするだろうし、何でもホイホイと言うことを聞いているわけではない。
それに、私が一生懸命にやっている部分のことを、その子を始め、他の人に強要しているつもりもないので、私がやっていることに対して『うわ、引くわ~』と思っても、勝手にやってるから放っておいてくれればいいのだ。もしくはタカトシのツッコミのように『マジメか!』と言ってくれたらかなり気が楽になる。
私の性格は、根暗で陰険で気にしいだ。お店では、いつも笑顔で明るく元気に振る舞っているが、それは仮の姿。仕事中はテンション上げた方が動きやすいし、作業もスムーズに行くので、演じているようなものなのだ。今日も本当はお腹が痛く、下っ腹にさしこむような感覚があったのだが、お客様と接していると笑顔が出る。自然に笑顔が出る、というよりは、反射神経に近いものがある。でも、ずっと笑顔でいることも決して無理をしているわけでもないのだ。私は、今のこの仕事が大好きで、お店も仲間も、来てくれるお客様のこともみんな大好きなのだ。だから、本当に元気な日と、そうでなくて空元気な日もあるけれど、結果として働いている間は楽しみながらやっている。
仕事を終えて、今、こうしてこれを書いている私の顔は無表情だ。笑顔の「え」すらない顔だ。今日もいっぱいお店で笑顔を振りまいてきたので、今日はもう店じまい。後はもう寝る前までに数回、子供たちや旦那さんと喋って時々笑うぐらいだろう。気にしいなので、またあの言葉が引っ掛かる。「引きます」って、一体私の何に引くの?もしかして、こうやってずっと笑顔で仕事していることに、引くのかな。じゃあ明日から仏頂面で接客しようか。いや、きっと無理。反射神経で笑顔になってしまうから。
もしかしたら、「引きます」と言った相手は、良い意味で言ってくれたのかな?とも考えてみる。
「マジメすぎるから、もうちょっと気を抜いて下さい」と言うニュアンスがあったのか?それなら、ありがたく聞けるけど・・・やっぱり本人にちゃんと聞いてみないと意図がわからないな。ちゃんと腹を割って聞かないと、私の心の中に黒い雲が出来ているんだもん。『わだかまり』という名のどんよりとした、黒い雲。
明日、その子にちゃんと聞いてみようかな。聞いてみて「な~んだ」と思える内容だったらこんなにどんよりしたのが損になるかも。余計にどんよりとなる内容だったら、その時は私もどうすればそれが改善出来るかを考えてみよう。いつまでもどんよりはつまらない。
~どんより。(完)~
後日、その子に聞いてみたら、
「お酒の席だったし覚えてないけど、引いたりすることなんてないです。ていうかめちゃ尊敬してます」と言われた。言葉を言い間違えたと笑うので、きっとそうなんだろう。「どない言い間違えるねんな」とツッコミを入れておいて、「アイラブユー」と付け加えておきました。「ミーツーミーツー」とその子も言ってくれて熱い抱擁を交わしましたとさ。めでたし、めでたし。