迷子です。
超短編。頭に浮かんだので…。
昔っから道を覚えるのは苦手だった。
描いて貰った地図を見てもとんと見当がつかない場所にいることの方が多く、周囲は諦め半分で私を送り出していた。
最初は小学校。毎日通っているにも拘らず、何日かに1度は迷子になった。同じく中学校、高校と迷子は繰り返され、近所の派出所に転勤してくる警察官は申し送り事項として“橘さんちの叶ちゃん”が入っているという笑い話にもならない話を聞いたこともある。
(でもさぁ、これないよね・・・)
今、私が置かれている現状は明らかに自分の責任ではないと言い切れる。
だって・・・。
「ここ、どこぉ~!!」
* * *
七色に輝くその人(?)は話し終わってにっこり笑った。
「・・断らせてもらえませんか?」
言ってみたよ、一応。
でも
「引き受けてほしんだよねぇ、叶ちゃん。」
と返される。
「“叶ちゃん”やめて。 ・・・第一なんで私なんですか?」
「そりゃ、君沢山加護ついてるもん。 もう無敵無敵。」
(・・・じゃないよ。)
「道一つまともに覚えられない人間は無敵とは言いません。」
ため息。
「あぁ、それ違うよ。 君が道を間違えてるんじゃなくて、君界を渡ってるんだよ、知らない内に。」
「“界”?」
(・・・って何?)
異世界・・・というものは本当にあるのだと、その人(?)は・・・あぁ何かいちいち(?)つけるのも面倒だから、認めたくない言葉を認めるとするならば“神様”は言った。
私が迷子になっていたのは、知らず知らずの内にその境目の“界”を踏み越えていたんだとか。
「何で?」
「体質。ってゆーか家系?遺伝するのかなぁ・・・やっぱ・・。」
「は?」
「おばぁちゃん!!」
駆け込んだ先の部屋で、縁側にのんびりと座っていた背中に叫んだ。
「叶。」
「お・・お、おっ・・ゆう・・・じゃなくてっ・・・あ、の・・。」
沢山聞きたいことがあって、一度に口から零れそうで、かえってどもってしまった。そんな私を見てにっこりと笑った祖母は、手にしていたお茶を差し出してくれる。
「選ばれてしまったのねぇ・・・血かしら?」
そんな悠長なことを言って新しく茶を啜っている祖母は私よりも一回り小さな背を伸ばし、立ち上がる。
そして戸棚の中から細長い箱を取り出した。
それは見覚えがある。
「それ・・。」
「うん、覚えてる?幼稚園だったかなぁ。叶ちゃんが引っ張り出して振って遊んでいたでしょう? これね、剣よ。もちろん本物。」
箱から出てきたのは、真紅のビロードに包まれた白金に光る鞘、そしてすらりと抜かれたそれは同じく白金の刀身。
「結界を張ってたし、私にしか持てないものだったから安心してたんだけど、あの時は焦ったわぁ。 要さんが言っていた通りになっちゃったのね。」
要さん・・・って
「おじいちゃん?」
小さい頃から迷子ばかりになる私を心配して、祖父はお守りを持たせてくれてた。
赤いビロードに包まれた中には、一枚の白金に光る貝が入っていた。
(鱗・・・ですか。)
貝じゃなかった。
鱗だった。
それも祖父の。
つまり人間じゃなかった。
鋭く尖った爪のついた四肢を持ち、岩どころか城でさえ一振りで瓦礫の山とする長く力強い尾と空高く羽ばたく大きな羽を持ち、頭上には光り輝く角を持つ。
全身が白金に光り輝く鱗で覆われたその生き物を、人は“龍”あるいは“ドラゴン”と呼ぶ。
「異世界の、だがな。」
しゅるしゅると、見上げても尚大きかった姿が縮むようにして、いつもの“祖父”の姿になる。
* * *
それは今から45年前。
橘 梓乃が17になった祝いをした夜。
家人が物音に気が付いて庭に出ると、そこに祝いの席で微笑んでいた娘が立っていた。
『どうした梓乃。眠れないのか?』
春先とはいえまだ夜は冷える。父親が差し出した上掛けを娘は首を振って拒んで言った。
『お父さん。行かなきゃいけないの。』
その言葉に父親は娘の細い腕を取ろうと腕を伸ばす。
『助けなきゃ。泣いてる・・・。』
『梓乃?・・何を・・・梓乃っ!!』
父親の目の前で娘の身体が透けるように薄くなっていく。
『帰ってくる。必ず帰ってくるから。待ってて。』
その言葉を最後に娘は消えた。
「その時ね、“界”を渡ったの。・・・そして要に遭ったのよ。」
(キャー・・って・・・何でこんなに乙女でカワイんですかね、うちのおばあちゃまは。)
「最初は敵で、後から味方で、冒険と魔法と、裏切りと戦いと・・・で、ようやくこっちに帰ってきたの、一緒に。」
“ねーっ”って、真っ赤になって微笑んでますが・・・。
(今聞き捨てならないこと言いませんでしたか?戦い、とか魔法、とか・・・・ちょいとっ!!)
惚気てないで説明してよ!!
あの時、乙女チックに奇声を上げる祖母と、その横で「懐かしいなぁ」などと目を細めながら祖母を見つめてデレデレしていた祖父を、締め上げてでもちゃんと細かく聞いておけばよかった・・・と後悔は先に立たず。
見渡す限り・・・とゆーか見渡せないほどにうっそうとした森の中。僅かに隙間から見える空は、一応晴れ。
・・・私の心的には暗雲が立ち込めているけれどもっ。
御使いに行け、と家を追い出され(何でか家族総出で)、すぐに必要かどうか怪しい石油ポンプを買い求めてあっちこっちさ迷い歩き(だって今夏だよ、夏。真っ盛りの盛夏だってばさ)、やっとこ家路について、必死に(だってすぐ迷うから)見えていた家から目を離さないようにしながら歩いていた訳ですよ。
もう目の前の角を曲がれば家の門だったはずで、前ばかりを向いて歩いていた私は、落ちた。
ぽっかりと、真っ暗な穴が開いていて、そこにすっぽりと落ちました。
・・・今度からは足元も見よう。
「・・・じゃなくてっ!どこ、ここ?」
・・・森の中でした。
しかも、持っています。ある筈のない、祖母の剣。いや祖父の身体の一部から出来た、誓銀剣を。
『選ばれてしまったのねぇ・・・血かしら。』
しっかりと耳に残った祖母の声。
「マジ・・・ですか。」
久しぶりの投稿です。生きてます。




