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一章-4


    4


 駅前の自転車を止めてから、電車に乗り込み、外の風景を眺める。

 市を南北に区切る川の上を通過し、目的地へと距離を縮めていく。

 そして、揺られ続ける事数十分、目的地である駅へと辿り着いた。

 眼下を埋め尽くさんばかりに広がっている人混み、見上げる先には大型ビル群。街頭大型ディスプレイには何かの宣伝が流れていた。

 たった数十分移動しただけでこれほどにも見えてくるモノが変わるのか、と驚きながら地元とは比にならない程の人ごみに辟易する。

 人の流れに飲まれないように隅っこに寄り、携帯電話で目的の場所を確認する。

 西口の出口の方から暫く歩き、街の中心から外れたあたりに赤い点が付けられている。

 場所を確認し終えたので、その場所を目掛け歩き始める。


    †


 何度も地図と見比べながらようやく目的地付近まで辿り着いた。

 駅前にはあれほどいた人も、ここまで来ると大分まばらとなっていた。

 夕暮れのオレンジを背中に受けながら、次に曲がる角を捉えた。

 車通りも少ない、狭く静かな道路を踏みしめ、その角を曲がった。

 入った瞬間、空気が変わった気がした。

 静かだった辺りは音を失ったかのように、更に静まり返り、夕日の差し込まない狭い路地はこの場所だけ、いち早く夜の帳が下ろされたかのように暗かった。壁面には何処かの不良が描いたらしき、デフォルメされた英単語が書かれており、無造作にビール瓶やビールケースが転がり、荒み錆びれていた。

 風が通り抜けず滞留した空気、心なしか呼吸がし辛い。

 だが、それでも歩みを止めることはせず、一歩、一歩と進める。


 カツ、カツ、カツ、


 自身のローファーが踏み鳴らす音だけが淋しく響く。


 カツ、カツ、


 夕暮れに訪れた闇の中、ただ一人。


 カツ、


 そして、一つのモノの前で脚が止まった。

 自動販売機。

 人が通らなさそうな所に据え置かれた自動販売機が、淋しく照明の明かりを零していた。

 その瞬間、震える携帯。メールが届いた。

 昼になるまで見た事のなかったアドレス、それが表示されていた。

 すぐさま開き、本文を確かめる。


〝取り出し口の中を漁れ〟


 それだけしか書かれていなかった。

 何がある? 頭の中に浮かぶ疑念。

 それでも、他に手立てがないので、その命令に従う。

 何も入っていない受け取り口、無機質な金属が手に冷たさを伝えるだけで、ここを探させて何の意味があるかわからなかった。

 その時、何か小さく隆起したモノが指先に触れた。

 金属質の固い何か。

 少し力を込めて、それを押してみたら動いた。

 メールの差出人はこれを探せと言っていたのか?

 不確かな確証の下、更に力を込め、得体のしれない何かを掴み取った。

 掌に収まってしまうほどの小さい何か。ごつごつと固い、金属製の何か。

 それを確かめる為に、ゆっくりと掌を開く、そして握りしめていたものは、


「……鍵?」


 思わず、声に出していた。

 どこの鍵かわからない鍵。それが掌に収まっていた。

 再び震える携帯。また謎の相手からのメールだった。


〝ここに向かえ〟


 それだけが書かれた本文に地図が添付されていた。

 それが差している場所は先ほど出てきた西口とは反対側である、東口側の方を差していた。

 距離が遠い事に溜息が零れそうだったが、そんなことはどうでもいい。

 このメールの届くタイミング。まるでこちらの様子を窺っているかのように、正確なタイミングで次の指令が送られてくる。

 監視されているのか?

 ゆっくりと視線だけを動かして辺りを見回すが、あるものは荒み錆びれた風景のみ。自動車の唸り声すら聞こえない、隔離された中に居るような、嘘寒い静寂。

 人の影すら見えない、夕暮れの暗闇。

 不吉で不気味さの感じ取れる、薄暗さ。

 こんな所には長いしたくない、と本能が訴えかけ、夕日差し込む元の道へと戻った。


    †


 来た道を戻り、今度は反対側の東口出口の方に出た。

 メインである西口に比べれば人は大きく減りはしたが、それでも地元と比べれば十分すぎる人が歩いていた。

 今度指定された場所は先ほどのように中心部から外れた場所ではなく、駅から歩いても五分程しかかからなさそうな場所だった。

 そして、地図の案内に従い目的地に着くと、そこにはよく見るモノが置かれていた。

 コインロッカー。

 地元の方にも幾つか設置されている珍しくもなんともないそれ。それが置かれている場所が目的地として指定されていた。

 震える携帯、相手はおそらく…


〝12番のロッカーを開けろ〟


 予想通り、潜入システムを授けると言ってきた謎の相手だ。

 自動販売機内にセロハンテープで固定されていたこの鍵は、このコインロッカーのモノだったのか。

 普通なら付いている筈のナンバープレートが取り外されており、コインロッカーの鍵だと言うことに気が付かなかった。

 ポケットの中から先ほど手に入れた鍵を掴み、差し込む。

 そして、


 ガチャ、


 回った。

 夕日も沈み、街灯の明かりが眩しい街の中で一人、息を飲み、ゆっくりと開ける。

 小さくギィ、と音を立てながら扉が開き、中身が露わとなる。

 そこに置かれていたのは、鍵だった。

 それはさっきまで手にしていた鍵と形が似通っていることから、また何処かのコインロッカーのモノなのだろう。

 てっきりここで貰えるものだと思っていただけに拍子抜けしたと言うのもあるが、手渡す為に、これほどに慎重に扱わなくてはならないモノだと言うのが、真実味を増してこさせた。

 そして携帯が震えた。相手はもう言わずもがな、誰だかわかった。

 携帯を確認する前に辺りを見回す。

 このタイミングで遅れるんだ、この辺りに必ず居る。

 目を皿にして探してみるが、携帯を弄っている人など沢山いすぎで誰がこのメールを送ったか判別は付けられそうにない。

 見知らぬ相手を探す状況としては、先ほどの暗い場所よりもここの方が難易度がけた違いに高いと見せつけられ、諦めた。

 開く携帯電話、綴られているメッセージ。


〝これが最後だ。ここに向かえ〟


 そして、場所を指定する地図を見た瞬間、表情が表情が驚愕に染まった。

 人が往来する中、立ち止まり携帯を見つめ続けた。


    †


 最後の目的地に向かうため、再び電車に乗り込み、流れる景色をぼーっと眺めていた。

 尾を引いて流れ消え去っていく光達。外はすっかりと暗くなっており、街灯の明かりが無くなってしまえば、闇に蝕まれたように見えるのだろう。

 流れるアナウンス、そこが目的の駅だと気が付いて急いで降りる。

 何度も通った事のある階段を下り、改札抜けたら最後の目的地である地元に着いた。

 念のために開いた地図、そこはやはりこの場所を差していて、見間違いではないようだ。

 俺がここに住んでいるから、この場所を最後の指定場所にしたのか?

 考え過ぎだ、と言われたらそれまでだが、厭な胸騒ぎを感じながらその場所へと向かい始める。

 街灯がまばらにぜんざいする中、ぼんやりと思考を巡らす。

本当に身元が割れているのだろうか? 都市伝説に関わろうとしているんだから、それくらいの危険はつきものなのだろうか?

 答えの出ない思案。

そして歩き続ける事数分、駅から少し外れている事もあり、人気のない一角に目的のコインロッカーが置かれていた。

 暗い中に浮かび上がるようにして、照明に照らされているコインロッカー。周りにある街灯は故障しているのか、何故だか明かりがともされておらず、闇の中に迷い込んだようにも思えた。

 静かな夜。

 自身の足音以外何もない、空虚な暗闇。

 その中を通り抜け、明かり灯るロッカーの下に辿り着いた。

 震える携帯。


〝4番のロッカーを開けろ〟


 それだけが書かれたメールが届いた。

 ゆっくりとブレザーのポケットから先ほど手に入れた、鍵を取り出し、差し込んだ。


 ガチャ、


 先ほども聞いた同じ音が、どこか不気味なものに聞こえた。

 周りに誰もいない、不吉なまでに白んだ明かりの中、扉を開ける。


 ギィィィ、


 錆ついた蝶つがいが、甲高い悲鳴を上げながら、中身を晒し始める。

 そして、扉が全てい開いた。

 上方から注ぐ備え付けの照明、ロッカーの深部には光が届かず、深い闇を生み出していた。

『これが最後だ』

 先ほどのメールを思い出し、期待から鼓動が早まる。

 後は手を伸ばし、掴むだけで〝潜入システム〟が俺の手に入ると思うと期待が高まる。

 そして、深い影の落ちるその中へとゆっくり、腕を伸ばす。

 そして、


 ガサッ、


 指先が何かに触れた。

 一瞬の沈黙、そして一気に抜き取った。

 鬼が出るか蛇が出るか、何が起こるかわからなくて、閉ざしてしまった瞼をゆっくりと開く。

 白く光を跳ね返す光沢、赤い文字で会社のロゴが書かれている。

 開いた瞼で捉えたそれは、暗闇の中から抜き取ったそれは、大手アパレルメーカの袋だった。

 震える携帯。また、メールが届いた。


〝それが潜入システムだ。君の自由に使うがいい〟


 そんな言葉が綴られていた。

 これが、そうなのか?

 誰が持っていてもおかしくなさそうな袋、その持ち手の部分を広げ中身を確かめようとしたが、何か箱が入っているだけで、中身の詳細はわからなかった。

 周りに人の気配はない。だが、これほどまでの手間を掛けてまで渡したモノだ。こんな誰に見られているかもわからない場所で開けるわけにはいかない。 

 そう決断し、帰宅の途に付くのだった。


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