プロローグ 世界が変わった日
今から15年前――。
それは、誰もが当たり前の日常を過ごしていた、何の変哲もない一日のはずだった。
夜が明ける少し前。とある研究室に所属する科学者、薊万作が、禁忌とされる実験を行った。
その結果、彼は人ならざるものを呼び起こし、この世界と、それらが住まう異界とを繋げてしまった。
そして――世界は一変した。
異界より現れた魔物の大群が、全世界へ一斉に侵攻を開始したのだ。
人類は抵抗した。
各国の軍隊が総力を挙げて迎え撃った。しかし、圧倒的な数と人知を超えた力を持つ魔物たちを前に、人類は次々と追い詰められていく。
やがて、ユーラシア大陸を除くすべての大陸が魔物たちに呑み込まれた。
世界総人口の約四割が死亡、あるいは行方不明。
生き残った国々は、残された軍事力のすべてを投入し、ようやく魔物の侵攻を食い止めることに成功した。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
多くの兵士が命を落とし、帰るべき場所を失った者たちが大勢残された。
人類は滅亡を免れた。
しかし、それは決して勝利と呼べるものではなかった。
そして――侵攻が食い止められた日の夜、日本に、一匹の魔物が単身で侵入した。
各国が警戒を強めるなか、突如として現れた正体不明の存在。
誰もが新たな襲撃を疑った。
だが、その魔物が口にしたのは、誰も予想していなかった提案だった。
『我ハ、コノ侵攻ニ反対ダッタ。モシ、我ヲ信ジルノデアレバ、魔物ノ世界ノ情報ヲ提供シヨウ。ソシテ――選バレタ人間ニ、人智ヲ超エタ力ヲ与エヨウ』
魔物の言葉に、日本の大臣たちは困惑した。
つい先ほどまで、人類は滅亡の瀬戸際に立たされていたのだ。そんな状況で、魔物の言葉を信じろというのか。
しかし、全世界が総力を挙げてなお、致命的な被害を与えられた魔物相手に他に有効な手立てがないことも事実だった。
大臣たちは、ただちに生き残った各国の代表へ連絡を取り、緊急会議を開いた。
長時間に及ぶ協議の末、彼らが出した結論は一つ。
――その提案を受け入れる。
日本の大臣たちが決定を伝えると、魔物は静かに頷いた。
『承知シタ。デハ、マズハ十人ニ、人智ヲ超エタ力ヲ与エヨウ』
そう告げた魔物が掌を掲げる。次の瞬間。
掌から十本の光が放たれ、それぞれ異なる方角へと飛び去っていった。
『十人ニ力ヲ渡シタ。コノ力ヲドウ使ウカハ――ソイツラ次第ダ』
それだけを告げると、魔物は人類に魔物の世界の情報を提供した。各国の代表たちは、ただちに光を受け取った十人の捜索を開始した。
そして、彼らを中心として、人類を守るための新たな組織が設立されることとなる。
対魔物防衛組織――通称、**対魔師団**。
人智を超えた力を授かった十人は、それぞれ第一師団から第十師団までの師団長に任命された。
さらに、生き残った領地を五つの地域に分割し、各地域に二つずつ師団を配置。
残された土地を守り抜くこと。
そして、魔物に侵食された領地を奪還すること。
それが、対魔師団に課せられた使命だった。
こうして人類は、再び立ち上がった。失われた世界を取り戻すために。
二度と、あの日の惨劇を繰り返さないために。
これは――魔物に侵された世界で、人類が生き残りを懸けて戦う物語。
そして、15年前に始まった惨劇は、まだ終わってなどいなかった。




