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官能霊媒師は朗読で祓う  作者: あしゅ太郎


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俺に“書かせて”ください

因幡の家に黒川が正式に越してきて、数日。

夜もすっかり更け、灯りを落としたリビングで、黒川はスマホゲームの画面をじっと見つめていた。


「……またソレか。俺をほっといてまで?」


背後から落ち着いた声がして、黒川はぴくりと眉を跳ね上げる。

振り向けば、和服姿の因幡がすぐそこにいた。

長い黒髪が肩越しに滑り、わずかに残る湯の香が漂う。


「……俺、今ランキング戦中なんですけど。先生、わざと邪魔してるでしょ」


「ふふ、さて? どうだと思う?」


その柔らかな声に、黒川は溜息をつく。けれど同時に、胸の奥が静かに熱を帯びるのを感じていた。


「……ったく」


スマホを脇に置き、黒川は振り返って因幡を見つめた。

視線が交わる。静かな部屋に、時計の音だけが響く。


「いつも先生の好きにさせてばっかだと思わないでくださいよ」


「へぇ……今日は強気だな、黒川」


因幡が口の端を上げる。挑発するような笑みだった。

黒川はその距離を詰めるように立ち上がり、因幡の腰を軽く抱き寄せた。


「……たまには、俺が先生を困らせたいんで」


そのまま、首筋に唇を落とす。

和服の衿の間から覗く白い肌に、熱を落とすようなキスをひとつ。

因幡の肩が小さく跳ねる。


「……黒川、くすぐったいな」


「敏感なんですね、こういうとこ」


因幡は小さく息を飲み、視線を逸らす。

そんな仕草に、黒川の心臓がどくりと鳴った。


「……君、ずいぶん馴れてきたな」


「そりゃあ、先生の原稿で勉強しましたからね」


因幡が思わず吹き出し、黒川の頬を軽く指で突いた。

だがその笑みはすぐにやわらぎ、どこか誘うような眼差しに変わる。


「翻弄するつもりなら、最後まで覚悟しておけよ」


「先生こそ、覚悟しててくださいよ」


黒川の声が低く落ちる。

そのまま、因幡の髪留めをそっと外した。

滑り落ちる黒髪が夜の光を受けてきらめく。


「……ずっと、こうしてみたかったんです」


頬に触れた髪を指に絡めながら、黒川は静かに微笑んだ。

因幡は何も言わず、ただその手を受け入れる。


空気が変わった。

ふたりの間に、緊張にも似た甘い熱が満ちていく。

和服の裾がわずかに乱れ、重なる吐息が静かな部屋に溶けていった。


「……黒川」


因幡が名を呼ぶ。

その声音は、いつもの余裕をわずかに失っていた。

黒川は満足げに息を吐き、そっと彼の額に唇を触れさせる。


「……先生。今夜は、俺のターンですから」


それきり、部屋の灯りが柔らかく揺れた。

残るのは、低く交わされる囁きと、布の擦れる音だけ。

静かな夜の中で、ふたりの影がゆっくりと重なっていった。


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