表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
官能霊媒師は朗読で祓う  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/83

二月十四日の下ごしらえ

「あの、黒川くん。今日、ちょっと付き合ってくれませんか?」


律がそう連絡をしてきたのは、柚瑠が霊媒師学会で家を空けた日のことだった。

理由を聞けば、「バレンタイン用のチョコケーキを作りたい」と、思いのほか真剣な顔。


「柚瑠さんに渡したいんです。でも俺、ケーキ作るの初めてで……。黒川くん、よければ手伝ってくれると助かります」


突然のお願いに戸惑いつつも、黒川は内心ほっとしていた。

実は彼も、因幡に手作りのケーキを渡したいと考えていたのだ。だが、どう作ればいいのかわからず、

買って済ませるか…と思っていた矢先だった。


「……いいよ。俺もちょうど、因幡先生に渡したくて」


互いの“想い人”のため、ちょっと不器用な男子ふたりは、

連れ立って近所のスーパーへと向かった。


買い出し中、黒川が生クリームの種類で悩んでいると、

律がさらりと「こっちのほうが滑らかに仕上がるみたいですよ」とアドバイス。

チョコのカカオ率に悩む律には、黒川が「ビターとスイート混ぜてみたら?」と提案。


ふたりして、バレンタインの真剣さがズレた方向に出て、

「苺も乗せたほうが見栄えいいですかね?」

「いや、粉糖ふったほうがそれっぽくね?」

などと、まるでケーキ職人のようなノリに。


---


夕方、ふたりは食材を抱えて柚瑠宅へ戻り、キッチンへ。

高守家の広くて清潔なキッチンが、なんだか特別な“戦場”に思えてくる。


エプロン姿の律が、チョコを刻む横で、黒川はボウルの中で卵を泡立てる。

なぜかふたりとも、やけに真剣。


「……ケーキ作るのって、体力使うな」

「普段、霊相手にしてる方が楽って思うの、ちょっと悔しいですよね」


途中、泡立てすぎてメレンゲが分離しかけたり、

型に入れる前にオーブンの余熱を忘れたりと、ハプニング続出。

それでも、ケーキの甘い香りが部屋に広がる頃には、ふたりの表情もやわらかくなっていた。


焼き上がったケーキを冷ましながら、

律がぽつりと呟く。


「……なんか、こういうのいいですね。誰かのために何か作るって、久しぶりで」


「うん、わかる。うまくいけばいいけどな、俺の分も」


見つめ合って照れるような空気ではない。

けれどどこか、不器用ながらも優しさに包まれた夜だった。


完成したチョコケーキは、それぞれラッピングされて冷蔵庫へ。

明日、渡す瞬間を思い浮かべながら──ふたりは静かに片付けを始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ