節分のあと、福の夜
「ふぅ……なんとか全部祓ったな」
「はぁー……今日だけで何体よ。明日絶対筋肉痛だわ俺……」
バトルを終えた4人は、結界の張られた安全地帯──柚瑠宅のリビングで、一息ついていた。
律が台所から戻ってくると、手にはコンビニのロゴが入った袋と、すでに湯気の立つ味噌汁の鍋。
「お疲れ様です。お腹空いてるでしょ? 恵方巻き、買いすぎたと思ってたけど……こうなる気がしてたんで」
「……さすが律、用意がいい」
柚瑠が満足げに微笑む。食卓には立派な太巻きが人数分以上並べられ、節分モード全開だ。
「ありがてえ……って、これ全部律くんが?」
「はい。また急に因幡さん達が来るかもって思って、つい多めに」
「お見通し、ってやつか……すごいな」
黒川が目を丸くすると、柚瑠は当然のように口を挟む。
「だって律は僕の“保護者”だからな。家事力も心配りも僕より上。ほんと頭が上がらないんだから」
「ちょ、柚瑠さん……恥ずかしいから黙ってて……」
律が頬を染めて苦笑すると、柚瑠は意地悪そうに小声で囁く。
「でも好きだぞ、律。照れてる顔も、かわいいから」
「……っ、やめてってば」
耳まで真っ赤になった律が、恵方巻きを柚瑠の口にぐいっと押し込む。
「はいはい、無言で丸かじり!今年の方角はこっちです!」
「んぐ……!?……ふ、ふごっ(喉につまった)」
「ちょ、柚瑠さん!?落ち着いて咀嚼して!」
黒川が慌てて水を手渡す一方で、因幡はしれっと恵方巻きを手に取り、律の示した方角に顔を向ける。
「じゃあ、いただこうか」
「え、マジで黙って食べるやつやるの!?」
「年中行事には意味があるんだよ。特に今日は、霊払いの“締め”みたいなもんだし」
因幡が静かに口を開けて太巻きを頬張る。黒川も渋々続きながら、恵方巻きを両手で持ちつつ、ふと隣の因幡を見る。
(……まったく、こういうとこブレないよな。てか、さっきの朗読の件はもうスルーなの?)
ちら、と視線を向けると──因幡がいつも通りの無表情で、黒川をじっと見返す。
口が塞がってるので喋らず、ただしれっと黒川の手元にあった巻き寿司をひとつ取って、自分の皿に置いた。
「……いや、俺の分減ってるし!? おい因幡、今ので“福”逃げるからな!?」
「静かにしないと、願いごと叶わないぞ?」
「お前が言うなーー!!」
黒川のツッコミが響く中、柚瑠が楽しげに律と目を合わせる。
「騒がしいけど、悪くない夜だな」
「はい。なんかこういうの、久しぶりかも……。あ、みなさん、豆もあるので、食後に福豆もどうぞ」
「さすが律、完璧すぎて僕が霞むぞ」
「気のせいです、柚瑠さんの方が目立ってますって」
照れながらも自然に寄り添うふたりの隣で、因幡は残った恵方巻きを口にしつつ、黒川にだけ聞こえる声で囁いた。
「ちなみに、今日のお願い事、もうした?」
「え……? いや、別にまだ──」
「じゃあ、俺のお願い聞いてもらおうかな。……黒川、今夜は、添い寝してもいい?」
「…………はっ!? ちょっと待って、オチに使うのやめろ!?豆投げるぞ豆!!!」
「それも儀式の一環だから、歓迎する」
「真顔で言うなああああ!!」
夜は深まり、豆と笑い声と、ちょっぴりの甘い空気が部屋を満たしていった。




