節分除霊合戦!
夜の住宅街。
ひんやりした空気のなか、因幡と黒川は小さな通りを進みながら、住宅の一角に立ち止まる。黒川が前髪を払いながら、ぼそりと口を開いた。
「……ここ、柚瑠さんちだな」
「うん。間違いない。結界の反応がある。霊的なものを寄せつけないように張ってあるな。……柚瑠らしいっていうか、過保護というか」
因幡が肩をすくめたそのとき──
軋む門扉の向こうから、ふたりの人影が現れる。
「また来たな、因幡。今日はちゃんとチャイム鳴らしたか?」
声の主──柚瑠が軽く笑いながらも、やや呆れたように言う。
「玄関先で霊祓いの準備されると、近所から苦情来そうなんですけど……」
隣に立つ律も、手に数珠と小さな護符袋を持ちながら、少し困ったように微笑む。
「こんばんは、おふたりとも。もしかして、追鬼の反応、こちらにも来てましたか?」
「そのとおり。道中、何体か払ったけど……どうやらまだ残ってるみたいでね。ここにもひとつ、尾が残ってた」
因幡が淡々と応じると、柚瑠は小さく唸り、律と視線を交わした。
「こっちも家の周囲で微弱な霊波を感知してた。残党ってわけか。……さすがに家の中までは入り込めなかったけどな」
「結界、強化してたんですよね?おかげでこっちは助かってます」
黒川が素直に感謝を述べると、柚瑠は「当然だな」と言わんばかりに肩をすくめる。
「君らがまた妙な方法で霊を引っ張ってくるのはわかってたからな。……まさか、ここまで追鬼騒ぎになるとは思わなかったけど」
因幡が口元に笑みを浮かべ、意味深に黒川を見る。
「それを言うなら、俺たちの官能除霊にいちばん驚いてたのは、君じゃなかった?」
「……そこは認めたくないところだな」
柚瑠がそっぽを向くと、律が苦笑しながら小さくうなずいた。
「でも、実際に効果あるんですよね……先生の朗読。あれ、やっぱり霊に効いてるみたいで」
「いやいやいやいや、あれは“効く”とかそういう話じゃなくてですね!? もうちょっと他にやり方ってあるでしょ!? ていうか俺の羞恥心を考慮してくれません!?」
黒川が顔を赤くして抗議すると、因幡が「慣れただろう?」とさらりと言ってのけた。
そんなやり取りに、柚瑠がふっと笑う。
「まったく……まあ、ここまで来たってことは、まだ残ってる追鬼を片付ける気なんだろ?」
「もちろん」
因幡が頷くと、柚瑠が腕を組み、口角を上げた。
「だったら勝負だな。僕たちと、君たちで。──どっちが多く追鬼を祓えるか、決着つけようじゃないか」
黒川が「また始まった……」と頭を抱えたその瞬間、背後で微かな風のざわめきとともに、再び追鬼の気配が揺らめいた。
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◆バトル・ラウンド1:玄関前の二体
柚瑠が俊敏に矢を構え、陰符のついた豆を律が素早く補充する。
矢が放たれるたびに、霊の姿がまばゆい火花と共に弾けた。
「一体撃破!」
「律、頼む!」
「は、はいっ!」
一方その頃──
「……先生、またそれ読んでるのかよ……!」
「効果がある限り読むさ」
因幡はさっそく文庫本を開き、今度はややポエティックな一節を妖艶な声で紡ぎ出す。
> 『夜が深くなるほど、あなたの吐息が熱を帯びていく。……そんな風に見つめられたら、もう──理性なんて、残らない』
「ぎゃああああっ!!!」「いやぁぁあ!!」
物陰から飛び出した追鬼が次々と悶え、煙のように消えていく。
「……よし、二体。差はつけさせないぜ?」
「なんで俺が毎回、悶え顔の霊と因幡のエロボイスに挟まれる羽目になるんだよ……!」
◆バトル・ラウンド2:路地裏の複数体
柚瑠が符を撒きながら駆け、律が豆をばらまくように投げて回る。
「こっちは四体いるな。律、広くばら撒いてくれ」
「え、えいっ!!」
ポフッ!ポフポフッ!
豆が爆発するように閃光を放ち、追鬼の影を巻き込んで吹き飛ばす。
「よし、追加で三体!」
◆バトル・ラウンド3:変異型追鬼・“恥鬼”
「む……面倒なのが来たな」
因幡が目を細める。
ぬらりとした長身の影、“恥鬼”は羞恥の感情に特化した追鬼。
エロ朗読にも耐性があるようで、因幡の攻撃をじっと聞き入れている。
「……先生、通じてねぇぞ?」
「……だったら、二人で掛け合い朗読だ!」
「ちょ、なに言って──」
因幡が黒川の肩を掴んだ瞬間──
> 『ねぇ、さっきから震えてるよ? まさか……期待してたの?』
> 『だ、誰が……そんなっ、バカ言ってんじゃ──うわっ、あっ、や、やめ──!』
「な、なんだこの掛け合い朗読!?!?!?」
恥鬼が身悶えしながら悲鳴を上げ、ついに崩壊していった。
「こっちも追加二体!」
「……俺の尊厳も崩壊したわ……」
◆最終結果
追鬼撃破数:
因幡&黒川チーム:7体
柚瑠&律チーム:6体
「勝負あったな!」
「悔しいけど、さすがだな、因幡。相変わらずムダに声が艶っぽい」
「豆の在庫が尽きました……」
「そっちも頑張ってたな。よくやったよ、律」
柚瑠が律の肩をポンと叩いた。
因幡は空を見上げ、空気の清涼さを感じながらつぶやいた。
「これで“節分の夜の追鬼”は、だいたい祓えたかな。あとは……」
「豆食べて、恵方巻食べて寝るだけですね」
「こんなドタバタでも、ちゃんと霊祓いはできたからな。因幡の朗読には度肝抜かれたけど」
「……普通の節分、返してくれ」
四人の笑い声が、冬の夜風にふわりと溶けていった。




