表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
官能霊媒師は朗読で祓う  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/83

雪かきのあとで

正月が明けて数日、朝から雪がしんしんと降り続け、柚瑠の屋敷の庭も白く静かに染まっていた。


「……けっこう積もったな」

玄関を出た柚瑠がため息をつきながら、肩を竦める。


「はい。でも雪かきって、なんだかちょっと楽しくないですか?」

律は長靴のつま先を雪に沈めながら、スコップを握りしめる。


「お前はほんと、何でもポジティブだな……でも、助かる」


ふたり並んで、黙々と玄関前から道までの雪をかき出していく。冷たい空気が頬を刺し、白い息が吐き出されるたびに、律の髪に細かな雪が舞い降りた。


「柚瑠さん、髪に雪ついてますよ」

律が手を伸ばしかけたところで、柚瑠が先に自分の髪をはたいて「わかってる」と照れ隠し気味に言った。


やがて一時間ほど経って、庭も道もすっかり整い、ふたりは肩で息をしながら玄関に戻った。


「はぁ……冷えたな」

「はい……指、感覚ないかもです」

「風呂、入るか。一緒に」


律が一瞬、目を丸くして柚瑠を見る。


「……えっ、一緒に?」


「別にイヤならいいけど」

「い、嫌じゃないですけど……初めてなので……びっくりして……」


「……じゃあ決まり。寒いままだと風邪ひくぞ」


ぽん、と律の肩に手を置いて、柚瑠は先に浴室の方へ向かった。


---


古い屋敷の大きな風呂場には、檜の香りがほのかに漂っていた。


律は湯を張る柚瑠の背を見ながら、少し緊張気味に脱衣所で服をたたんでいる。


「……入っていい?」


「……ああ。もう湯も十分温まってる」


湯気に包まれた湯船に、ふたりは静かに肩まで浸かった。


「はぁ……しみる」

律が頬を赤らめながら声を漏らすと、柚瑠は横目でちらりと彼を見て、小さく鼻を鳴らした。


「そんな顔されると、なんか僕のほうが照れる」


「えっ!? ご、ごめんなさい」


「謝んな。別に怒ってないし」


しばらくの沈黙。湯気が肌を包み込み、芯から体が温まっていく。


ふいに柚瑠が湯から上がり、桶を持って背を向けて座る。


「……律。背中、流して」


「えっ、ええっ!?柚瑠さんの、ですか?」


「お前、前に言ってただろ。誰かの役に立てるの、嬉しいって」


「……はい。じゃあ、失礼します」


律はおずおずと背中に近づき、桶に湯を汲んで静かに肩へとかける。すると、柚瑠の肩がわずかにぴくりと動いた。


「……律の手、あったかいな」


「……あの、力加減、大丈夫ですか?」


「うん。いい。……気持ちいい」


律は、静かに柚瑠の背中を洗っていく。ごつごつとした肩甲骨。すっと伸びた背筋。何も言わず座る柚瑠の背中を見つめながら、律はふと、胸の奥が熱くなるのを感じた。


「……ありがと。交代な」


「えっ、お、俺もですか?」


「平等じゃないと、おかしいだろ」


そう言って振り返った柚瑠の目元は、どこか柔らかくて、照れているようだった。


その後、ふたりは再び湯に浸かり、言葉少なに時間を過ごした。

あたたかな湯の中、律はそっと柚瑠の肩にもたれながら、ぽつりとつぶやく。


「……こういうのも、悪くないですね」


「“も”じゃなくて、“こういうのが”いいんだよ」


柚瑠の声は低く、けれど確かな温もりを帯びていた。


窓の外には、まだ真っ白な雪が残っている。

その静けさのなかで、ふたりの距離はまた少しだけ、縮まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ