雪かきのあとで
正月が明けて数日、朝から雪がしんしんと降り続け、柚瑠の屋敷の庭も白く静かに染まっていた。
「……けっこう積もったな」
玄関を出た柚瑠がため息をつきながら、肩を竦める。
「はい。でも雪かきって、なんだかちょっと楽しくないですか?」
律は長靴のつま先を雪に沈めながら、スコップを握りしめる。
「お前はほんと、何でもポジティブだな……でも、助かる」
ふたり並んで、黙々と玄関前から道までの雪をかき出していく。冷たい空気が頬を刺し、白い息が吐き出されるたびに、律の髪に細かな雪が舞い降りた。
「柚瑠さん、髪に雪ついてますよ」
律が手を伸ばしかけたところで、柚瑠が先に自分の髪をはたいて「わかってる」と照れ隠し気味に言った。
やがて一時間ほど経って、庭も道もすっかり整い、ふたりは肩で息をしながら玄関に戻った。
「はぁ……冷えたな」
「はい……指、感覚ないかもです」
「風呂、入るか。一緒に」
律が一瞬、目を丸くして柚瑠を見る。
「……えっ、一緒に?」
「別にイヤならいいけど」
「い、嫌じゃないですけど……初めてなので……びっくりして……」
「……じゃあ決まり。寒いままだと風邪ひくぞ」
ぽん、と律の肩に手を置いて、柚瑠は先に浴室の方へ向かった。
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古い屋敷の大きな風呂場には、檜の香りがほのかに漂っていた。
律は湯を張る柚瑠の背を見ながら、少し緊張気味に脱衣所で服をたたんでいる。
「……入っていい?」
「……ああ。もう湯も十分温まってる」
湯気に包まれた湯船に、ふたりは静かに肩まで浸かった。
「はぁ……しみる」
律が頬を赤らめながら声を漏らすと、柚瑠は横目でちらりと彼を見て、小さく鼻を鳴らした。
「そんな顔されると、なんか僕のほうが照れる」
「えっ!? ご、ごめんなさい」
「謝んな。別に怒ってないし」
しばらくの沈黙。湯気が肌を包み込み、芯から体が温まっていく。
ふいに柚瑠が湯から上がり、桶を持って背を向けて座る。
「……律。背中、流して」
「えっ、ええっ!?柚瑠さんの、ですか?」
「お前、前に言ってただろ。誰かの役に立てるの、嬉しいって」
「……はい。じゃあ、失礼します」
律はおずおずと背中に近づき、桶に湯を汲んで静かに肩へとかける。すると、柚瑠の肩がわずかにぴくりと動いた。
「……律の手、あったかいな」
「……あの、力加減、大丈夫ですか?」
「うん。いい。……気持ちいい」
律は、静かに柚瑠の背中を洗っていく。ごつごつとした肩甲骨。すっと伸びた背筋。何も言わず座る柚瑠の背中を見つめながら、律はふと、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……ありがと。交代な」
「えっ、お、俺もですか?」
「平等じゃないと、おかしいだろ」
そう言って振り返った柚瑠の目元は、どこか柔らかくて、照れているようだった。
その後、ふたりは再び湯に浸かり、言葉少なに時間を過ごした。
あたたかな湯の中、律はそっと柚瑠の肩にもたれながら、ぽつりとつぶやく。
「……こういうのも、悪くないですね」
「“も”じゃなくて、“こういうのが”いいんだよ」
柚瑠の声は低く、けれど確かな温もりを帯びていた。
窓の外には、まだ真っ白な雪が残っている。
その静けさのなかで、ふたりの距離はまた少しだけ、縮まっていた。




