鏡の中のふたり
カーテンの隙間から見えるのは、街のイルミネーション。
赤や金の光が、窓ガラスにぼんやりと滲んでいた。
ソファに座っていた黒川は、気づけば因幡の手に引き寄せられていた。
視線を合わせた瞬間、何かが外れる音がした気がする。
自分の中の理性か、境界線か――どちらなのかは、もうわからなかった。
「……今日、お前、甘すぎ」
かすれた声で言うと、因幡は片肘をついて覗き込むように笑う。
その笑みが、いつもより近く感じた。
「クリスマスだからな。……少しくらい、いいだろ」
「……俺が、断ると思ってんのかよ」
強がるように返した黒川の言葉は、次の瞬間、唇で塞がれた。
熱の中で、指先が背中をなぞり、呼吸が重なる。
ソファの革が微かに軋むたび、世界が二人だけになっていく。
視界の端、姿見が半開きのまま立っていた。
その鏡の中に、寄り添う自分たちの姿が映る。
黒川は一瞬で顔が熱くなり、慌ててそっぽを向いた。
「……やめろって、見え……っ、てるから……」
「俺は、見たいんだよ。お前が、俺を受け入れてる顔を」
「っ……バカ……そういうこと言うなよ……」
鏡の中で、因幡が黒川の頬を撫でる姿がゆらめく。
その光景をちらりと見てしまい、余計に心臓が騒ぐ。
見られる恥ずかしさと、映る自分が知らない顔をしていることに、胸がざわついた。
何かを言いかけた唇が、再び塞がれる。
もう、何も考えられなかった。
やがて、重なった手の間から、震える息が漏れる。
指先が絡み、名前が呼ばれ、すべてが静かに溶けていった。
外の光が、ゆらゆらとカーテンを透かして揺れる。
その灯りの中で、ふたりは寄り添い、互いの鼓動を確かめ合った。
「……綺麗だな、黒川」
低く囁く声に、黒川はかすかに笑う。
その笑みを見て、因幡はそっと額を重ねた。
街の喧騒が遠のいていく。
夜は静かに、けれど確かに――ふたりを包み込んでいった。




