甘い悪戯
クリスマスの夜。
因幡の部屋にはケーキの箱と食べ終えたチキンの皿、そして――ソファに並んで座るふたりの影。
テレビではぼんやりとサンタのアニメが流れているけれど、黒川の視線はそれよりもずっと近く、隣の因幡に集中していた。
「……そういえばさ」
因幡が、気の抜けた声で切り出す。
「お前の父ちゃん、こないだ言ってたな。“息子に変なこと教えなきゃ別に構わん”って」
思い出しただけで顔をしかめた黒川が、低くうなる。
「ああ、あれな……“エロ本描いてるようなヤツ”って、露骨に言われた」
「まぁ、事実ではある」
悪びれずに笑う因幡は、手に持っていたホットワインのカップを机に置くと、黒川の耳元に口を寄せて――
「で。黒川、お前……キスって、どこまですると“変なこと”に入るんだろうな?」
「……は?」
「たとえば、こういうの」
囁くと同時に、因幡の指が黒川のシャツの襟元をついっと引っ張り、
顎のラインから喉元へ、熱を帯びた口づけが落ちる。
「ッ、い、因幡……っ、や、やめ……っ」
黒川が逃げようとするのを片手で押さえながら、因幡は面白がるように笑う。
「ほら、首筋って敏感だろ?これ、ちょっと教えとこうかなって思って」
「お前なぁ……俺の親の前じゃ神妙な顔してたくせに、言動が180度違ぇじゃん……っ」
「だって言われたんだもん。“変なこと教えるな”って。なら、どこまでが“変なこと”か、実践で確認してみないとさ」
茶化すような声音に、黒川は耳まで真っ赤になる。
「変なこと以外教えたことねぇじゃんか……お前、絶対わざとだろ……」
「んー?」
因幡は黒川の膝に手を置いて、からかうように体を近づける。
「じゃあさ、恋人が“好き”って伝えるとき、キス以外にどんな手があるか……教えようか?」
「おまっ……っ!ぜってー俺、今からお前に“変なこと”教わるじゃん!!」
「クリスマスの夜だぞ?」
因幡の笑みは、すこし悪戯っぽく、それでもどこか本気で甘くて。
――その顔に、黒川は抵抗しながらも、結局抱き寄せられてしまう。
「メリークリスマス、黒川。……今年も来年も、変なこといっぱい教えてやるよ」
「っ、……バカ因幡……」
ぎゅうっと抱き締めた腕の中で、黒川の耳が真っ赤に染まっていく。
クリスマスの夜は、甘く、長く、静かに更けていった――。




