クリスマスの約束
因幡の仕事部屋・12月24日 夜
暖房の効いた部屋の中は、かすかにシナモンの香りが漂っている。窓の外には、近所の家々が飾り付けたイルミネーションが灯り、赤や緑、金色の光が、静かな夜道を彩っていた。
「……はー……やっと一段落か」
黒川才斗がソファに背を預けて、深く息を吐く。執筆の合間、ひと区切りついた因幡は、部屋の隅にある電気ポットにお湯を注ぎながら小さく笑った。
「お疲れさま。ちょうど届いたところだったから、休憩にちょうどいい」
因幡がテーブルの上にそっと置いたのは、冷たいガラスの器に詰まった、クリスマス限定のお取り寄せスイーツ。真っ白なチーズムースの上に、ラズベリーソースと金箔、星型のホワイトチョコがきらめいている。
「……おお。なんか、すげぇやつ来たな。食べんのもったいないくらいだ」
「名前は“聖夜の奇跡”。ちょっと気取ってるけど、味は保証する」
「てか、イブの夜にふたりでこれ食うって……」
黒川は少し照れたように言って、けれどスプーンを受け取った。因幡も自分の分に手を伸ばす。ふたりで一緒に最初の一口をすくい取る。
「あー……うまっ。……ちゃんと、甘いのに重くない」
「でしょ? ラズベリーがいい仕事してる」
ふたりは静かに食べ進めた。部屋の片隅には、小さなクリスマスツリー。オーナメントのひとつひとつが、暖色の光を反射して揺れている。
「なぁ、先生」
「うん?」
「今年……いろいろあったけど。なんだかんだで、無事に年越せそうだな。俺がこうしてここでスイーツ食ってるの、なんか不思議だわ」
「不思議なほど、君といるのが自然になったってことかもね」
因幡はそう言って、スプーンを置いた。
「俺は、君がいてくれて本当によかった。霊だの死だの、そんなものばかり見てると、ときどき自分がどこにいるのか分からなくなる。でも、君が傍にいてくれると、ちゃんと“今”に戻ってこれるから」
「……ずるいな、そういうこと言うの。ほんと先生って」
黒川はぶっきらぼうに言いつつも、赤くなった耳を隠すようにカップの残りをかきこむ。
「来年もさ。俺、いていい?」
「当然でしょ。むしろ君がいなきゃ困る。……じゃあ改めて」
因幡がそっとカップを掲げる。
「メリークリスマス。そして、これからもよろしく」
「……メリークリスマス。んで、こっちこそよろしく。来年も……ずっとな」
ふたりの器が、静かに触れ合った。
テーブルの上、溶けかけたホイップの隣で、ティースプーンがきらりと光を弾いた。




